「System x」として知られるIBMのx86サーバー事業を買収したレノボは、エンタープライズ向けビジネスの新体制を築く。レノボ・ジャパン(ロードリック・ラピン社長)は、6月23日、日本でx86サーバー事業を手がける子会社「レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ」の設立を発表した。新会社は、レノボ・ジャパン本体から独立したかたちで、日本IBMと密に連携して営業活動を行うことによって、レノボ製品とIBM製品を組み合わせたソリューション販売を目指す。企業文化が異なる日本IBMとレノボ・ジャパンは、どこまで一体になることができるのか。
縛られずに自由に動ける会社
日本IBMは、今年中をめどに、エンジニアや営業担当など、およそ100人のメンバーを抱えるx86サーバー事業体制を丸ごとレノボ・エンタープライズ・ソリューションズに移行しようとしている。新会社は現在、x86サーバー事業の承継手続きを進めているが、営業を開始する時期は明らかにしていない。
新会社のトップは、レノボ本社のバイスプレジテントで、レノボ・ジャパンの社長であるロードリック・ラピン氏が務める。新会社は、承継手続き完了後、日本IBMから役員を迎え入れ、日本IBMでx86サーバー事業を率いている小林泰子理事がレノボ・エンタープライズ・ソリューションズの経営陣に入るという見方が有力だ。
レノボ・ジャパンは、「新会社の設立は、日本のエンタープライズ市場とお客様に対するコミットメントの証」としている。その裏には、レノボ・ジャパン本体の組織やビジネスの進め方などに縛られず、日本IBMと密に連携して事業展開するためには新会社を立ち上げたほうが動きやすいという判断があって、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズの設立に踏み切ったものとみられる。
新会社は、IBMから手に入れたx86サーバーをレノボの法人向けパソコン製品と組み合わせて、レノボ・ジャパンがパソコン事業で築いてきた幅広い顧客基盤を生かして、x86サーバーの販売促進に動く。さらに、日本IBMで豊富なキャリアを積んできた小林理事を橋渡し役として、日本IBMのコンサルティングやシステム構築といった部門と連携し、これまで通りにサーバー周辺のサービスを提供し続ける。
利幅の薄い商材を生かす
日本IBMとレノボ・ジャパンがx86サーバー事業の移行によって目指すのは、単にサーバー販売の拡大にとどまらない。サーバーに日本IBMやパートナー各社の製品・サービスを追加し、新会社の社名の通り、ソリューションとして提供することを狙いとしている。例えば、レノボ・ジャパンのパソコンをツールとして、日本IBMとして入り込むことができなかった中堅・中小企業(SMB)のユーザー企業を獲得して、見積もりの段階で「御社には、x86サーバーよりも(日本IBMのミッドレンジサーバーである)『POWER8』のほうが適しています」などと提案し、案件を日本IBMにつなげるクロスセルに取り組むと小林理事は語る。
六本木? それとも箱崎?
さらに、レノボ・ジャパンは、x86サーバー事業の移行によって、ストレージやネットワーク機器など、日本IBMがもつ他のエンタープライズ向け製品を販売することが可能になるという。レノボ・ジャパンと協業して、利幅の薄い商材であるパソコンやx86サーバーを提案の「きっかけ」として活用することによって、日本IBMにとっての市場のすそ野を広げることができそうだ。
課題は、企業文化が異なる日本IBMとレノボ・ジャパンが、どこまで一体になり、描いている事業方針を実現することができるかだ。レノボ・ジャパンは新会社の所在地として、レノボ・ジャパンが本社を置く東京・六本木を発表しているが、日本IBMの小林理事は本紙に対して「いやいや、箱崎周辺になるだろう」と述べ、レノボ・ジャパンに、日本IBMの本社に近い場所を新会社の所在地として要求していることを明らかにした。
レノボは、2005年にIBMのパソコン事業を買収して以来、世界No.1のパソコンメーカーになり、大きく自信をつけた。今回の日本IBMとレノボ・ジャパンの交渉では、強者同士が立ち向かい、それぞれの立場を主張するわけだ。x86サーバー事業の移行を成功に結びつけて事業拡大につなげるためには、リーダーたちの調整力が問われる。(10~13面に関連記事)(ゼンフ ミシャ)