UNIXやメインフレームからの移行などで、拡大が予想される国内LinuxサーバーOS市場。WindowsサーバーOS市場と比べれば小さい規模ではあるものの、これまでと同様に今後も堅調に伸びるとの見方が強く、多くのITベンダーがLinuxを活用したビジネスでチャンスをつかもうとしている。Linuxディストリビューション製品を提供している専業メーカーは、現段階でどこに力を入れ、また、どのような商流を構築しようとしているのだろうか。Linux専業メーカーの現状の取り組みやチャネル戦略などを追った。(取材・文/佐相彰彦)
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LinuxサーバーOS市場は確実に伸びる 時代に合う安定性・可用性・拡張性
国内LinuxサーバーOS市場が堅調に伸びている。コストが安いという理由で導入される傾向があった時期を過ぎて、ユーザー企業の多くは、安定性や可用性、拡張性にすぐれている点を評価するようになってきた。Linuxは、クラウドサービス事業者がサービス拡充に向けてデータセンターを増強する動きや、企業がビッグデータを活用したリアルタイム分析を行うためのシステムを導入する動きなど、時代に即したOSとして改めて注目を集めている。
●メインフレームを上回る市場規模 規模や業種、システムの幅が広がる 
IDC Japan
入谷光浩
シニアマーケット
アナリスト 調査会社のIDC Japanによれば、国内LinuxサーバーOSの市場規模は、2013年に前年比13.3%増の159億円となった。一方、縮小傾向をたどっているメインフレーム市場は前年比2.7%減の142億円だった。2013年時点でメインフレーム市場を抜いてWindowsに次ぐ第二のサーバーOSとしての地位を確立した。
Linux市場が伸びた理由について、IDC Japanでソフトウェアとセキュリティを担当する入谷光浩シニアマーケットアナリストは、「信頼度が高まっていることが成長の大きな要因だ。Linuxが安定して稼働するというのはあたりまえのことになった」としている。導入が堅調に進む状況は、「企業規模の大きさに限らない」という。しかも、金融機関や社会インフラでの導入が進み、業種の幅も広がっている。さらに、「企業がどのようなシステムで導入しているかといえば、これまではファイルサーバーが中心だったが、最近では基幹系で導入する傾向が高まっている」という。ほかのサーバーOSと比べてコストが安いという理由で導入していた企業が、システムをリプレースする際に、必ずといっていいほどLinuxを選択肢に挙げるようになったということだ。
●2013~18年のCAGRは8.4% Windowsの市場規模に近づくか ITベンダーの社内でLinuxに精通した技術者が増えていることも、ユーザー企業の信頼度が向上している理由の一つだ。OSS/Linuxビジネスの促進に取り組む団体のLPI・Japanによれば、技術者のスキルを認定する世界標準の認定制度「LPIC」を受験した技術者は、国内で累計23万2000人を突破(2014年6月時点)、そのうち認定技術者が累計8万3000人を超えているという。IDC Japanの入谷シニアマーケットアナリストは、「ITベンダーにとって、エンジニアの不足がLinuxビジネスを手がけるうえでの阻害要因だった」と指摘する。いまでも決して多いとはいえないが、徐々に増えている状況をみれば、Linuxビジネスを本格的に拡大していくITベンダーが増加していることが想像できる。
漸増の傾向をみて、IDC Japanでは2013年から2018年までのCAGR(年平均成長率)を8.4%と予測している。
一方、サーバーOSのなかで最も使われているWindowsの伸びが鈍化している。IDC Japanによれば、Windowsの2013年の市場規模は前年比1.0%増の369億円、2013~18年のCAGRが1.7%という。2018年の時点で、市場規模がLinuxで237億円、Windowsで400億円との予測していることから「Windowsの大きい市場であることは揺るぎない」と、入谷シニアマーケットアナリストはみているものの、「来年7月にWindows Server 2003のサポート終了が控えており、Windows Server 2012にリプレースするのが一般的といえるが、なかにはLinuxに乗り換えるケースも出てくるのでないか」とも捉えている。また、ビッグデータなど大量のデータをリアルタイムに処理しなければならないシステムで「可用性や拡張性でLinuxを導入する傾向が高まってくるだろう」と分析している。
●レッドハットが圧倒的なシェア Ubuntuなど新興勢力にも注目 サーバーOSのなかではLinux市場が最も成長率が高いとみられており、Linuxを提供するメーカーにとっては、大きなビジネスチャンスといえる。IDC Japanの調査によれば、メーカー別金額シェアで圧倒的な地位を築いているのはレッドハットだ。2013年の時点で83.2%のシェアを確保している。これは、「OEMをメインのビジネスとしているからだ」と、入谷シニアマーケットアナリストは説明する。
現段階ではレッドハットが圧倒的なシェアを誇っているが、「Ubuntu(ウブントゥ)など無償OSが注目を集めつつある。実際、ベンチャー企業がUbuntuをベースに自前でシステムを構築するケースが出てきている」という。ベンチャー企業だけでなく、UbuntuをベースとしたLinuxを導入する企業規模の幅を広げるには、メーカーのサポートが必要となる。現段階では、OEMビジネスでレッドハットには勝てないものの、無償OSをサポートすることによって、Linux市場の主導権が大きく変わる可能性がある。
このような状況からLinux市場が拡大することは間違いないといえるが、はたしてメーカー各社は、どのような戦略を立てているのだろうか。次頁から、専業メーカーの動きをみていく。
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