これまでUNIXサーバーを数多く売ってきたSIerに、市場動向や販売戦略について話を聞こうと取材を申し込んだところ、「いまさらUNIXについて語るべきことはない」と断られたことがある。x86サーバーの性能が向上して基幹システムのサーバーとしても普及が拡大するにつれて、市場シェアを落としているUNIXサーバーは、やがて消えてしまう「終わった製品」なのか。しかし、主要ハードベンダーは、近年もUNIXサーバー関連の新製品を投入するとともに、製品のロードマップを市場に示し、プロモーションも積極的に行っている印象だ。ハードベンダーと日本におけるUNIXサーバーの流通を担ってきた販社の間には、少なからぬギャップがありそうだ。その現実を見越し、UNIXの将来を展望する。(取材・文/本多和幸)
数字でみるUNIXサーバー市場のいま
●各陣営で単価に顕著な差 
IDC Japan
都築裕之 氏 UNIXサーバーを扱う主要ハードベンダーは、市場は縮小傾向にあるものの、ミッションクリティカル製品として一定のニーズは存在し続け、新時代のプラットフォームとしても十分なビジネス上のポテンシャルがあるとこぞって主張する。では、現実の市場の動きはどうなのか。
調査会社のIDC Japanが発表した2012年の国内サーバー市場規模は、出荷額が4453億円、出荷台数が55万台で、いずれも前年に比べて減少した。このうち、UNIXサーバーは800億円弱、約1万台を占めるが、前年比でいずれも下げ幅は市場全体のそれよりも大きかった。それでも、IDC Japanサーバーリサーチマネージャーの都築裕之氏は、「縮小傾向だが、金額は何とか持ちこたえているという印象」と説明する。
国内のUNIXサーバーベンダーは、メインプレーヤーが6社と少なく、採用しているプロセッサ/OS別に3陣営に大別できる。POWER/AIXの日本IBMと日立製作所、SPARC/Solarisの日本オラクルと富士通、Itanium/HP-UXの日本ヒューレット・パッカード(HP)とNECという構図だ(日立はHPから、NECはオラクルからのOEM製品もラインアップしている)。2012年の実績をみると、出荷額、出荷台数とも首位を獲得しているのは日本HPで、これを日本IBMが追うかたちになっている。
出荷額のシェアと出荷台数のシェアをよく見比べてみると、各社・陣営の特色が浮き上がってくる。POWER/AIX陣営の単価が最も高く、SPARC/Solaris陣営は逆に最も単価が低いことが、数字から明らかになっている。都築氏は、「単価が高いハイエンド製品を積極的に売るIBMの戦略はグローバルで共通だが、売上高は伸びている。UNIXサーバーの成功モデルになりつつある」と指摘する。現状、UNIXサーバーの大きなニーズの一つが、既存サーバーのコンソリデーション(整理・統合)で、これが出荷額に比べて出荷台数の落ち込みが激しいことの要因となっている。しかし日本IBMは、「1000万円のサーバー数台を3000万円のサーバー1台に置き換えるというふうに、より高額な提案をし、収益を確保しようとしている」(都築氏)。一方で、SPARC/Solaris陣営の日本オラクルは、買収前のサン・マイクロシステムズ時代からシェアを落とし気味だったが、都築氏は、「ローエンドの安い製品を多く売っていて、それらがx86サーバーへのマイグレーションの対象になってしまったことが要因」と分析している。
●増殖するx86の集約をUNIXで 日本IBMのような戦略は、ほかのベンダーにも有効なのだろうか。都築氏は、「必ずしもハイエンドに特化する必要はなく、いろいろな競争の仕方があるが、コンソリデーションの需要を獲得することは、既存ユーザーのフォローだけでなく、新規ユーザーの開拓にもつながる」と強調する。UNIXサーバーはミッションクリティカルなシステムに使われるケースが多いこともあって、リプレースで他ベンダーからの乗り換えが発生するケースは少ない。しかし、コンソリデーションの需要は、企業内で扱うデータ量の増加などに伴って増殖傾向にあるx86サーバーを整理・統合する際にも発生する。ここに新しい売り先があるというわけだ。
x86サーバーは、性能が向上したとはいえ、UNIXサーバーに比べればスペックが劣る部分は多く、UNIXからUNIXへのリプレースよりも、x86をUNIXに置き換えるほうがサーバーの集約率は格段に高くなる。サーバーを集約すれば、継続的に発生する運用管理費を抑えることができるようになるし、データベースなどのライセンス費用は、統合した台数分だけ下がることになる。UNIXサーバー自体は高価でも、運用管理費も含めて、システム全体のコスト低減を提案することは十分に可能なのだ。
ただし、こうしたUNIXの使い方は、日本のユーザー企業に浸透していない。そして、実績がない使い方は極力避けるのが日本企業の傾向でもある。「売り方のテンプレートなどを用意して、ベンダーがユーザーを啓発することが必要」(都築氏)なのかもしれない。
都築氏は今後の市場の推移について、「縮小の方向は避けられないだろうが、新規開拓の努力をしないベンダーはシェアをどんどん下げ、淘汰される可能性もある」とする一方で、セキュリティやシステムの安定性、手厚い保守サービスを必要とするミッションクリティカルシステムでは、x86でカバーできないUNIXのニーズは間違いなく残り続けるとの見解も示す。そこに、ビッグデータの処理といった新しい用途を付加してユーザーに価値を訴求していくことも、ビジネスとしては大きなポテンシャルがありそうだ。
さらに、ユーザーには、「ベンダーがUNIX製品の開発を今後も続けてくれるのか」という不安が根強くあるという。都築氏は、「継続的な技術開発と製品提供に関する各ベンダーのメッセージは、まだまだ弱い。ここで明確にUNIXを開発し続けるとはっきりしたメッセージを出すことができれば、そのベンダーに他ベンダーからの乗り換えが殺到する可能性もある」と話している。
ベンダー各社のUNIXサーバー戦略
【POWER/AIX】
日本IBM――POWER7+には1400億円を投資
●プロセッサを軸に新たな選択肢を 
皆木宏介
事業部長 IBMのPOWERプロセッサを搭載するPowerSystemsは、グローバルのUNIXサーバー市場で、2012年第4四半期時点で55%を超えるシェア(米IDC調べ)を誇る。日本IBMの皆木宏介・システム製品事業パワーシステム事業部長は、「キーとなるPOWERプロセッサの開発にはとくに力を入れてきた」と説明する。市場に出ている最新のPOWERプロセッサ「POWER7+」の開発には1400億円を費やしており、競争力には絶対の自信をもっている。
POWERプロセッサは、UNIXであるAIXだけでなく、ミッドレンジコンピュータシステムの流れを汲む「IBM i」や、LinuxといったOSもサポートしている。IBMとしては、x86サーバーのユーザーを対象に、PowerSystemsのラインアップ全体で、コンソリデーション需要を積極的に取り込んでいきたいと考えている。
一方で、皆木事業部長は、「今後、企業が競争力を強化していくためには、いかに将来を予測していくかというアナリティクスが価値を発揮する。アナリティクスに必要な処理能力は爆発的に膨れあがっていて、通常のハードウェアの進化だけでは追いつけないし、ミドルウェアや分析アプリケーションとの連携も非常に大事になってくる。そうした幅広いシステム連携のためのプラットフォームを提供できるのがIBMの強み」と、総合的な技術力の優位性も強調する。
これらの技術を拡販するための取り組みにも積極的だ。OEM先の日立製作所との提携を今後も重視するのはもちろん、SPARCサーバーの有力販社である伊藤忠テクノソリューションズとも、昨年、PowerSystemsの包括的な販売と保守サービス提供のパートナー契約を結んだ。さらに今年5月、PowerSystemsの日本市場での販促や、PowerSystemsをベースにしたソリューションを普及させるためのパートナー団体「IBM Power Systemsコミュニティ」も発足した。およそ150社が参加する大組織だ。こうしたスキームを活用し、同社は日本市場におけるシェア拡大に積極的に取り組む意向だ。
販社に聞く UNIXサーバー市場
日本IBMの有力販社――JBCC 執行役員マーケティング担当 近藤隆司氏
●Linuxの台頭が顕著 システム製品全体の売上高が落ちているなかで、IBM AIX製品は、横這いが続いている。
AIXは、ハードウェアとOSを含めて、ベンダーの保証が非常にしっかりしていることが一番の売りで、本当にミッションクリティカルなシステムでの需要は今後もそれほど減らないと考えている。裏を返せば新規の案件はほとんどないということで、他ベンダーからの乗り換えもそう多くはない。
一方で、金融などでも、情報系のシステムではLinuxなどを使うケースが増えてきていて、サーバー市場全体としてはオープンソース系の隆盛を肌で感じている。x86だけでなく、POWERもLinuxには対応してきているので、それらを当社のソリューションに取り込んで、ユーザーに提供できるように準備は進めている。
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