デルは、「パートナービジネスで売上高の半分を稼ぐ」とぶち上げた。新たに立ち上げた新組織 「パートナー事業本部」が、この目標達成の重責を担う。現在、パートナービジネスが占める比率は約30%。20ポイント伸ばすという挑戦的なゴールだ。新組織が担う新たな戦略を詳説する。(取材・文/木村剛士)
約7年前に始まったパートナービジネス
19歳のマイケル・デル氏が、テキサスの田舎で1984年に設立したガレージ企業が米デルである。1911年設立の米IBM、1939年設立の米ヒューレット・パッカード(HP)よりもはるかに若いコンピュータ業界の新参者が、パソコン隆盛期に頭角を現すことができたのは、強靱なサプライチェーンを武器に展開した「BTOモデル・直販スタイル」(いわゆるデルモデル)だった。
「自分好みの仕様のパソコンが短納期で手に入る。しかも、それが電話やウェブで簡単に申し込める」。今となってはあたりまえの仕組みだが、デルは他社に先んじて実現し、個人・法人を問わず、多くのユーザーから支持を得た。その後、デルは、このスタイルで販売する製品を次々と増やし、パソコンメーカーから脱皮。世界を代表する総合ITベンダーに成長した。

2013年にはアジアで初のパートナーイベントを成都で開催した グローバルレベルでパートナービジネスの強化を最初に打ち出したのは、デル氏がCEOに復帰した07年のことだった。04年にデル氏がCEOを退いたときは、パソコン市場が成熟期を迎えていた。その後の成長に陰りがみえ始めるようになったことから、デル氏はCEOに戻る。「ソリューションプロバイダへの進化」とともに掲げたのが「パートナービジネスの開始」だった。目的は明確で、販路を広げるため、多くのユーザーにアプローチするため、である。
それからのデルは、少しずつパートナーという言葉を使うようになった。この約7年、デルはいくつかのチャネル専門部隊をつくり(表参照)、パートナービジネスを推進。直近でいえば「グローバル・コマーシャル・チャネル統括本部(GCC)」がそれである。組織が変わって、トップを務める人も変わった。紆余曲折を経て、全売上高のなかでパートナービジネスが占める割合を、約30%まで高めたのである。
13年11月には、アジアで初のパートナーイベントをパソコン工場がある中国・成都で開催し、6社の有力なパートナーを招待した。海外にパートナーを連れていき、今後の方向性を伝え親睦を深めるのは、大手ITベンダーが手がけるパートナー施策の定番。デルも仲間入りを果たした。
パートナー事業比率30% その裏にあった「課題」
ただ、この30%という数値には秘密ともいうべき“課題”が潜んでいた。それは、営業実績の評価方法だ。
デルは、直販の法人営業部門を(1)大企業(従業員1000人以上)、(2)中堅・中小企業(従業員1000人未満)、(3)公共機関(官公庁・自治体・教育機関など)というように、対象の企業規模・業種で三つに分けていた。そこに、第四の柱として企業規模や業種を問わず、パートナーと協力して営業する部門のGCCがある。本来であれば、GCCが全売上高の30%を占めているなら、ほかの三営業部門が売り上げた合計比率は、70%でなければおかしい。しかし、そうはならなかった。パートナー経由の販売額(GCCの実績)は、特殊な評価方法を採用していて、GCCの実績をパートナーの先にいるエンドユーザーの規模と業種に分けて、直販営業部門の実績としてもカウントしていた。つまり、パートナー経由で販売された実績は、三営業部門のいずれかと、GCCのダブルカウントになっていたのである。
足かせになったダブルカウント問題
ダブルカウントとなれば、直販営業担当者は、自ら売ってもパートナーが売っても個人または所属営業部門の実績になるから、パートナーの販売も後押しする。一方、GCCは直販営業担当者と協力して、パートナーをサポートできるメリットがある。一見すると、相乗効果が生まれているように思えるが、一社のユーザー、一社のパートナーに直販営業部門とGCCがアプローチしているので、新規顧客を開拓しにくい状況を招いていた。
そして、記者の推測ではあるが、デルの強みである直販部門に配慮していたはずだ。パートナーがもし優良顧客をつかまえた場合、直販営業とのバッティングを避けるために、直販営業はその顧客に対する提案を禁止される。そうなれば、直販部門の反発は必至。それを避けるために、ダブルでカウントする方法を考案したのだろう。ただし、これでは、パートナービジネスの最大のメリットである「販路を拡大する」という目的を達成できない。
だからこそ、新戦略なのである。
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