国内ベンダーが、中堅・中小企業(SMB)向けのクラウド商材の販路として、クラウドマーケットプレイス(CMP)を相次いで立ち上げている。とくに、富士通グループ、NEC、日立グループという総合ITベンダー3社のサービスが出揃ったことは大きなエポックだ。こうした動きが、なかなかIT化が進まない国内SMBを対象とするITビジネスの救世主になるのか。クラウドで先んじる外資勢の代表格、セールスフォース・ドットコムのマーケットプレイス「AppExchange」の最新動向とあわせて、国内のSMB向けCMPの現在を展望する。(取材・文/本多和幸)
徹底比較! 3社のCMP
FJM azmarche VS. NEC N-town VS. 日立システムズ オープンクラウドマーケットプレース
昨年5月、NECは「クラウド型ビジネスプレイス N-town」を発表し、10月にサービスインした。その4か月後の今年2月には、富士通グループのSMB事業を担う富士通マーケティング(FJM)が、「azmarche(アズマルシェ)」をオープンした。一方で、日立グループでは、2011年5月から、日立システムズ(当時は日立情報システムズと日立電子サービス)が「MINONARUKI」を運営してきたが、今年1月、「オープンクラウドマーケットプレース」と名称を変えてリニューアルした。各社が本腰を入れ始めたこれらのCMPでは、互いにライバルとして強く意識し合っている。三つのビジネスモデルを徹底比較することで、SMB向けクラウドの販路としてのポテンシャルを探る。
どんな狙いがあるの?
●azmarche 小規模企業向けの新しいチャネル 
富士通マーケティング
浅香直也 執行役員 FJMは、azmarcheを「富士通グループ唯一の小規模企業向けクラウドの販売チャネル」と位置づけている。従来の顧客の中心層は年商30億~100億円規模の企業だが、それよりも小規模な企業に対して、クラウド商材の直販でリーチするための新しい販売チャネルである。FJMの既存ビジネスは、約400社の富士通パートナーとともに、システムインテグレーション(SI)を核に展開してきた。同事業を統括する浅香直也・執行役員商品戦略推進本部副本部長は、「従来のSI型ビジネスにとらわれず、直接販売による小規模企業向けクラウドビジネスのかたちを新しくつくりたい」と話す。向こう3年で1万ユーザーの獲得を目指しているが、売上目標などは明らかにしていない。
●N-town パートナーのためのプラットフォーム 
NEC
及川典子 シニアエキスパート N-townは、クラウドアプリケーションだけでなく、経営コンサルティングサービスやビジネスマッチングの場も提供して、SMBの経営を総合的に支援する「クラウド型ビジネスプレイス」を志向する。中心になるのはSaaS商材の提供だが、販路はパートナーによる間接販売に限定している。メインターゲットは、年商5億~50億円の企業で、サービス開始から5年後をめどに、1万社の顧客獲得と年間売上高250億円を目指す。NECとしての売上目標はその約50%で、ここが損益分岐点となる。及川典子・産業ソリューション事業部EXPLANNER部シニアエキスパートは、「メーカー的発想から脱却し、より長いスパンで投資を回収するプランだ」としている。
●オープンクラウドマーケットプレース 非対面型営業スタイルで新規開拓 
日立システムズ
杉本潔彦 主管 日立システムズのオープンクラウドマーケットプレースは、SaaS商材をノンカスタマイズで定価販売するのが基本コンセプト。担当する杉本潔彦・営業統括本部マーケティング本部営業企画本部主管は、「新規顧客開拓は、人が直接営業する従来のスタイルでは難しくなってきている。非対面型営業スタイルでそこを突破するためのチャネルとして位置づけている」と説明する。ユーザーは、年商50億円規模の企業が中心だ。ほかのCMPとの差異化ポイントは、オープンクラウドマーケットプレースにSaaSを掲載するISVパートナー向けに、契約から顧客管理、課金管理、料金請求まで、営業事務をほぼすべて代行できる仕組みを用意している点にある。
品揃えはどう?
●azmarche サービス開始から半年で100商材 FJMは、富士通が運営していた「J-SaaS」を引き継ぎ、azmarcheに取り込んだこともあって、サービス開始から半年あまりで100商材を揃えた。細業種向け製品に活路を見出そうとしているが、今後は、実績のあるサービスも増やす方針で、すでにナレッジスイートやピー・シー・エーのソフトウェアの提供を発表している。一方で、freeeのような新興ベンダーや、POSレジアプリを提供するリクルートライフスタイルなど非IT系企業も取り込む意向で、実績のあるサービスとの化学反応を期待している。FJMの自社商材との競合もありそうだが、浅香執行役員は「自社商材であっても売れない商品が淘汰されるのは仕方がない」と、あくまでもクラウドブローカーに徹する構えだ。
●N-town 数よりも確実に売れる商材で勝負 N-townには、他社商材をNECが仕入れたものと、NECの自社商材の両方を置いているが、後者が中心だ。自社商材は、開発基盤も含めて販売パートナーに提供する。「業種向けテンプレートのレベルにとどまらず、基盤上で完全な独自商材を開発し、N-town上でライセンスビジネスを展開するモデルが動き始めているパートナーもいる」(及川シニアエキスパート)という。NECは、3年で100商材を目標にしていて、現在のラインアップは20弱だが、ほぼ計画通りの整備状況だという。商材拡充のペースが緩やかなのは、販売パートナーのうち、とくにユーザーニーズを吸い上げる力のある8社と協力して、まずは「確実に売れる商材」をつくる戦略を採っているからだ。
●オープンクラウドマーケットプレース 業種・業界特化型の製品が豊富 
日立システムズ
山野浩 主管技師長 現状のラインアップは105種類で、社外商材が21、社内商材が84という内訳だ。社内商材のうちの約半分は、他社との共同開発や、OEM製品になる。業種・業界特化型の製品が多く、「当社だけではカバーできないので、自社商材の開発は他社と協力してやっている」(山野浩・ネットワークサービス事業部ネットSaaS推進本部主管技師長)という。また、できるだけ多くの商材を揃えたいと考えて、他社からの商品掲載の希望は、ほぼ無条件で受け入れている。また、ISVの商材をSaaS化する支援策として、日立グループ独自のSaaS実行基盤(PaaS)も提供している。将来は、この「PaaSビジネスも拡大したい」(山野主管技師長)としている。
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