NEC(遠藤信博社長)は、SMB市場向けクラウド型ビジネスプレイス「N-town」のサービスを5月から提供する。同社が掲げる成功のカギは「パートナー連携」。5年後をめどに、1万社の顧客獲得と、年間売上高250億円(NECとしての売上高はその約50%)を目指すが、基本的には直販を行わず、パートナー販売だけでこの目標を達成するという。単価が安いクラウドビジネスは、パートナー販売ではうまくいかないことが多い。しかしNECは、従来の強力な販売チャネル網を巻き込んで新しいビジネスモデルをつくろうとしている。
NECが新たに提供を開始するサービス「N-town」は、従来のSaaSサービス「EXPLANNER for SaaS」や他社の類似サービスを研究して、従来型クラウドビジネスの課題を抽出したうえで、その解決策を提示すべく、「満を持して」始める事業だ。基幹業務系アプリケーションのほか、経営レポート、サプライチェーン管理、営業支援などのメニューを揃え、個別の利用はもちろん、それらをシームレスに連携させることもできる。この「サービス、アプリケーションの連携」が、従来のサービスに欠けていた部分だったという。
さらには、アライアンスパートナーの日本能率協会コンサルティングなどによるコンサルティングサービスや、ビジネスマッチングの場なども提供する。中小企業の経営そのものを総合的に支援するというコンセプトで開発した、まさに「ワンストップサービス」だ。
サービスを開始する5月までに、ひとまず約20種類のメニューを用意し、今後3年間で約100種類のメニューを整備する。それぞれのサービスメニューは、1IDあたり月額数千円程度の料金設定になる見込みで、ユーザーにとっては、従来型のSIによるIT導入に比べてコスト面でのハードルが劇的に下がることになる。
メインターゲットは、年商5億~50億円程度の中小企業である。こうしたユーザーは、情報システム部門をもたない、もしくは専任の人員がいない企業が多いという想定の下、経営層にサービス導入を直接訴求するスキームづくりを目指した。そのためにNECが腐心したのが、「サービス連携による統合的な経営支援」と「導入しやすい価格設定」だったというわけだ。
では、実際に「N-town」のビジネスをどう普及させていくのか。単価が安いこともあり、クラウドビジネスでパートナー販売は成立しにくい傾向があった。しかしNECは、「5年間で250億円」という売上目標を、基本的にすべてパートナー販売で達成しようとしている。
その方策として、まず、同社が多数抱える販売パートナーのなかで、オフコン時代からSIの技術力を磨いてきた実力のある販社を絞り込み、「売れる商材」をつくってもらう。それを起爆剤として短期間で実績を上げ、普及拡大の基盤をつくる意向だ。当面のところ、「本当の戦力」として捉えているパートナーは10社程度。これらのパートナーは、ユーザーのニーズに精通しており、より訴求力のあるテンプレートやサービスの開発が可能だという。
NECは、これが今回のビジネスの肝だと考えており、資金面も含めて、販売パートナーを多角的にサポートしていく方針だ。NECの担当者は、「当社の強みは販売チャネル網にある。販売パートナーは、当社が開発した『N-townアプリケーション基盤』などを使うことで自社商材のクラウド移行を低コストで実現でき、商材もより幅広く集めることができるようになる。まずはそのメリットを理解してくれて、ビジョンを共有できるパートナーとともにスタートダッシュに挑む」と、互恵関係に基づくビジネスモデルであることを強調する。
一方で、サービスパートナーとなるソフトウェアベンダーは、「N-town」の販売ルートで大量に捌くことができることを期待して、破格の低価格でソフトを提供するという企業も多い。「N-town」ビジネスに対するソフトベンダーの期待の大きさも、ここに現れているといえそうだ。(本多和幸)