富士通マーケティング(FJM、生貝健二社長)は、今年2月、パブリッククラウドサービスの新事業としてマーケットプレイス「azmarche(アズマルシェ)」を立ち上げた。富士通グループのクラウドサービスだけでなく、他のクラウドベンダーの製品・サービスも取り揃え、ウェブ経由で直接提供する新しいプラットフォームビジネスの構築を目指したものだ。同社にとっては新たな事業領域にあたる小規模企業向けのIT市場をメインターゲットにしており、従来の富士通グループのパートナービジネスとは一線を画す実験的なチャレンジといえる。今年度の目標に掲げた「商品数100種」をすでに達成し、ここにきて、ユーザーとのコミュニケーションチャネルの強化策も打ち出した。
業界特化クラウドで競合と差異化

浅香直也
執行役員 「azmarcheは、富士通グループで唯一の中小企業向け販売チャネルである」。同事業を統括する浅香直也執行役員商品戦略推進本部副本部長は、こう強調する。富士通グループのSMB向け事業を担うFJMだが、従来は約400社の富士通パートナーとともに展開してきたシステムインテグレーション(SI)を事業の核に、顧客の中心層は年商30億~100億円規模の企業だった。それよりも規模の小さな企業については、同社にとって実質的に新規顧客になることから、azmarcheは、新しいビジネスという位置づけになる。
とはいっても、クラウドサービスを集めたマーケットプレイスの仕組み自体は、決して目新しいものではない。何をポイントに事業を拡大しようとしているのか。
同社はこのほど、azmarcheのサービスに、「業界特化型クラウド」と「教育サービス」のカテゴリを新たに追加した。ちなみに、それまではファイルサーバーやセキュリティ関連商品などの「ITインフラ」、メールやグループウェアなどの「コミュニケーション」、そして各種の「業務アプリケーション」の三つのカテゴリを提供していた。
とくに業界特化型クラウドは、「ほかのマーケットプレイスにはなく、明確な差異化ポイントになるだろう。現在は富士通グループの製品限定で提供しているが、他ベンダーの製品も含めて積極的にラインアップを増やしていきたい」と浅香執行役員が話すように、品揃えをポイントとしている。
今回のサービス拡充によって、今年度の目標としていた「商品数100種」を早くも達成している。「スピード感を重視している」と浅香執行役員は語っていて、その姿勢がかたちになって現れている。
新興ベンダーとの化学反応に期待
また、同時にユーザー拡大のためのコミュニケーションチャネルの強化策も打ち出した。サポートデスクの強化や、SNSを使った情報発信、各種資料などのコンテンツを充実させる方針も打ち出しているが、最も注目すべきは、同社が「サポーター」と呼ぶ新たなチャネルを増強し、ユーザー拡大の起爆剤にしようとしている点だ。サポーターは、azmarche上の商品・サービスをエンドユーザーに紹介することで継続的な手数料収入を得られる。中小企業のIT導入を支援するITコーディネータなどが、その対象となる。
今回のサービス拡充にあたっては、業務アプリケーションとして、ナレッジスイートのグループウェア、SFA/CRMの統合アプリ「Knowledge Suite」、位置情報を活用したSFA「GEOCRM」や、ピー・シー・エーのクラウド業務ソフト「PCAクラウド」をazmarche上で提供することも発表している。こうしたベンダーにとっても、azmarcheサポーターは従来のパートナー販売ではリーチできなかった顧客への新たなチャネルとして機能するポテンシャルがある。浅香執行役員は、「他のマーケットプレイスでは、パートナーが仕切り販売するビジネスモデルをそのまま残しているケースもある。従来のSIerが介在するようなビジネスモデルは、中小企業向けのクラウドにそのままもっていっても、うまくいくとは思えない。手離れがよく、手軽にストック化できる“手数料モデル”が最適ではないか。それが市場に受け入れられるかどうかが、azmarcheの成否のカギを握っている」と説明する。azmarcheはあくまでも、ダイレクトセールスを基本に、「手数料モデル」ですそ野の拡大を目指すというわけだ。
ただし、これはいわば薄利多売のビジネスモデルであって、約6000人程度しかいないITコーディネータだけではチャネルの規模としては不十分。そこで、「中小企業のIT化推進を目指す日本情報サービスイノベーションパートナー協会(JASIPA)もサポーター網に取り込むべく、すでに連携に動いている」(浅香執行役員)という。
さらに、近年の中小企業向けIT市場の活性化に貢献している新興ベンダーも、azmarcheのプラットフォームに取り込むことを構想している。freeeやマネーフォワード、スタンドファームといったITベンチャーや、POSレジアプリ「Airレジ」を提供するリクルートライフスタイルなど、従来はITを生業としてはいなかった企業でも、クラウドネイティブなアプリで年間数万単位のユーザーを新規に獲得している。浅香執行役員は、「新興ベンダーは、既存のビジネスモデルという足かせがなく、新しいビジネスモデルで急速にユーザー数を伸ばしている。彼らのサービスと、実績のあるベンダーのサービスを組み合わせることで、おもしろい化学反応が起こる可能性がある」と、期待を寄せる。(本多和幸)