国産クラウドベンダーは、昨年の秋、IaaSを月額500円で提供する戦略を打ち出した。クラウドを、ユーザー企業にとって心理的に受け入れやすいとみられる「ワンコイン」で売り込むことによって、外資系ベンダーとの競争に正面から立ち向かう。果たしてビジネスとして成り立つのか。ベンダー各社に、ワンコインクラウド戦略についてたずねた。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
「ワンクラ」を新たな注力商材に
激安IaaSで事業拡大に動く
サーバー1台を月額500円──。まるで昼のお弁当を買うような感覚で、クラウドのインフラ(IaaS)を利用できる。IDCフロンティア、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)、GMOクラウドと、国産クラウドベンダーが2014年10月に相次いで、ワンコインクラウド、略して「ワンクラ」のサービス提供に踏み切った。激安IaaSの狙いは、「Amazon Web Services(AWS)」をはじめ、低価格を武器とする外資系ライバルとの競争に立ち向かうほか、クラウド採用の気運が高まっている中堅・中小企業(SMB)の開拓で事業拡大につなげることだ。
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「クラウド基盤」市場
調査会社の矢野経済研究所によると、アプリケーションを動かすためのプラットフォーム(PaaS)を含めた国内クラウド基盤市場は、急成長をみせている。大手企業に続き、ここにきてSMBもクラウドの導入に取り組みつつあるなかにあって、2013年の約600億円から、17年には2000億円以上に拡大することが予測される。このタイミングで、国産クラウドベンダーがワンクラのサービスを投入して、市場開拓に拍車をかけるのは、偶然ではない。
MM総研の調査では、37.6%の企業がシステムの更新にあたり、「クラウドとオンプレミスのそれぞれのメリットを勘案し、最適な方法で構築する」ことが明らかになった。多くの企業にとって、クラウドの活用に乗り出すには、価格が最終的な決め手になる。だからこそ、「ワンコイン」という手軽で格安なイメージが強い、月額500円でクラウドの利用ができることを訴求すれば、クラウドにするかしないかと悩んでいる企業を開拓しやすいというわけだ。
現時点でワンクラのサービスを提供しているのは、IDCフロンティア、NTT Com、GMOクラウドの3社。ワンクラでも各社の位置づけやサービスのターゲットは違う。とはいえ、ベンダー3社のワンクラ戦略の狙いとして、主に二つを挙げることができる。
まず、コンテンツ配信の企業やゲーム会社など、クラウド活用が前提となるようなビジネスを展開していて、価格に敏感なユーザーを取り込むことである。そして、まだクラウドを利用していないが、価格が安ければクラウドの導入を前向きに検討するというSMBや企業内個人の開拓だ。
国産クラウドベンダーがワンクラ事業に参入した背景には、米IBMの動きもある。総合ITベンダーで、業務コンサルティングにも強いIBMはパブリッククラウドサービス「IBM SoftLayer」の展開に注力し、日本を含めた世界各国で、クラウド事業を伸ばそうとしている。現時点では、日本でのSoftLayerのシェアはまだ大きくないが、国産クラウドベンダーは、ユーザーの業務に近い「クラウド+α」の提案ができるIBMの総合力に危機感を抱いている。そのため、低価格を前面に押し出して、純粋なクラウドベンダーとしての強みを発揮しようというわけだ。
月額500円のクラウドサービスは、使い手にとってはうれしいが、ベンダーにとっては利益を創出しにくいので、ビジネスの難易度は決して低くはない。さらに、ベンダーの営業スタッフも、売上目標の達成が遠くなり、人事評価に影響を与えかねない低価格サービスの提案活動には、消極的になりがちだ。
その状況のなかで、各社はどのような策を講じて、ワンクラ事業をビジネスとして成立させようと考えているのか。次ページからは、主要ベンダーの戦略を追いながら、ワンクラのビジネスとしての仕組みを浮き彫りにする。
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