利用範囲の拡大をどう実現するか
関係者間の利害調整に大きな課題
【マイナンバー】 ●新産業創出への大きな期待 マイナンバー制度に関連する15年度の国の事業は、内閣官房IT総合戦略室の森山参事官補佐が言うように「粛々と」進めるものがほとんど。しかし、国が本来目指しているのは、マイナンバーの利用範囲拡大による新たな産業の創出だ。システム改修だけではITベンダーにとっても十分な商機にならないので、IT業界としてはぜひとも実現してほしい施策といえる。
政府・IT総合戦略本部の新戦略推進専門調査会に設置されたマイナンバー等分科会は、その第一歩として、昨年5月、利用範囲拡大に向けた当面の方針を公表した。「戸籍」「旅券」「預貯金付番(口座名義人の特定や現況確認)」「医療・介護・健康情報の管理・連携」「自動車の登録」という五つの事務業務でもマイナンバーを活用できるように、ロードマップを整備していくべきとの考えを示したのだ。現行のマイナンバー法では、マイナンバーの利用範囲は原則として、社会保障、税、災害対策の3領域に限られている。新たに活用を検討すべきとした5分野について、この3領域と親和性があり、なおかつ「公共性が高く、情報連携によるメリットが期待される」と判断した。
●医師会などは専用IDを主張 政府は、18年をめどにマイナンバーの利用範囲拡大を目指す方針であるため、マイナンバー制度が正式にスタートする来年1月にはロードマップの大枠を決める意向だ。しかし、実際には簡単にいかない事情がある。
利用範囲が拡大するほど個人情報の漏えいリスクは高まるし、「監視されている」という国民感情が膨らむおそれもある。ただ、これらは技術で解決可能な課題に過ぎないともいえる。技術で解決できないやっかいな問題が、関係者間の利害調整だ。例えば、預貯金付番と医療・介護・健康情報の管理・連携については、金融機関や病院など、民間との連携が前提になる。システム改修の費用を誰がどの程度負担するのか、また、セキュリティについては誰が責任をもつのかというのはシビアな問題だ。事実、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会からなる三師会は、マイナンバーを医療情報と紐づけることにプライバシー保護の観点から明確に反対しており、医療分野専用のIDが必要だと主張している。
濱谷参事官補佐は、「少なくともセキュリティの確保は万全にしなければならないわけで、拙速は避けるべき。関係者間の意思統一を実現するまでには、相当な時間がかかるだろうが、粘り強く調整していくしかない」と話す。関係省庁間で、所管する業務の範囲をどう割り振るのかといった問題もクリアしなければならず、司令塔であるIT総合戦略本部にかかる負荷と責任は重い。
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