地方創生への道
Chapter 1 スマートシティの基盤を整備
国の補助事業にどんどん手を上げる
錯綜する事業を市がコーディネート
●まずは情報を「見える化」 ITによる地域再生の準備段階として会津若松市がまず取りかかったのが、情報の「見える化」だ。スマートシティを実現するためには、いかに多種多様な情報を流通させることができるかが大きなポイントになる。原発事故の影響などを受け、震災後、エネルギーマネジメントの高度化に関する補助事業をさまざまな省庁が打ち出した。会津若松市は、これに素早く反応し、役に立ちそうな事業にはどんどん手を上げた。司令塔を務めたのが、市の企画政策部だ。高橋部長は、「もともと個別に進行していた各省庁の事業について、会津若松市が手を上げるかどうかはすべて企画政策部が決め、実際に採択されて事業が立ち上がったら所管の部署に受け渡すというやり方を採った。独立した各省庁の事業を、自分たちのコンセプトに合わせて積極的に活用し、それをスマートシティという大きな流れに市自身でまとめ上げた」と説明する。
具体的には、五つの事業を同時進行した(図3参照)。まず、再生可能エネルギー活用の取り組みでは、資源エネルギー庁の事業を活用した。市と東北電力、富士通が連携し、再生可能エネルギー発電量の見える化を進めるために、エネルギーコントロールセンター(ECC)を設置。太陽光発電施設も新たに設置し、発電量4万500Mwh/年を誇る前述の木質バイオマス発電所と合わせ、地域内の再生可能エネルギーを電力供給の安定に役立てる「エネルギーの地産地消」の仕組み構築を進めている。2014年3月から、このエネルギーの地産地消は始まっており、市の施設で使用する電力の5%を占めている。最終的には、本格的なデマンドレスポンスサービスの提供も検討している。
●地域主導のエネルギー管理 一方で、電力の消費側の見える化も進めている。それが、総務省の「スマートグリッド通信インタフェース事業」だ。2013年3月に、まずは100世帯を対象に実証実験をはじめた。ここで進めたのが、HEMSの通信インターフェースの標準化だ。高橋部長は、「3社のHEMS機器を導入したが、通常、このHEMSデータは各メーカーのデータセンターに送られることになる。しかし、これではリアルタイムにすべてのHEMSのデータを横断的に把握することができず、デマンドレスポンスなどに活用することもできない。そこで、通信規格を標準化して、地域のデータセンターにすべてのHEMSデータを集約するという、地域主導のエネルギーマネジメントができる仕組みを構築している」と説明する(図4参照)。さらに、この推進母体として、地元ITベンチャーやアクセンチュアなどが「会津若松スマートシティ推進協議会」を設立し、プロジェクトマネージャーの役割を果たしている。グローバルベンダーの知恵と地元の産業界の力を結集した同協議会は、いまや、このプロジェクトだけでなく、会津若松市のスマートシティ構想全体の推進役となっている。
さらに、総務省の「ICT地域のきずな再生・強化事業」と国土交通省の「都市防災総合推進事業」では、GISと住民情報をリンクさせ、コミュニティバスのコース選定や学校整備の順序決定などに役立てるなど、より効果的な公共サービスの確立を図ったほか、総務省の「地域公共ネットワーク基盤構築事業」では、産官学公民連携のためのオープンデータの共通基盤構築に取り組んでいる。
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