Case2 オージス総研
自らユーザーとなってノウハウを蓄積
「マルケトを使い倒した」からこその説得力
●米ベンダーはみんな使っていた 
宍田悟司
部長 オージス総研は、クラウドで提供される米マルケトのマーケティングオートメーション・プラットフォームを国内で提供する有力販社の1社だ。TISと同様、新規顧客を中心に、採用件数が徐々に伸びてきている。
マルケトのマーケティングオートメーション・プラットフォームは、顧客の行動を分析して、見込み客リストの作成などを自動化するほか、メールマガジンや各種案内の送信も、顧客一人ひとりの行動データに基づいてタイムリーに自動で実行できる。これにより、見込み客(リード)の獲得から優良見込み客への育成(リードナーチャリング)に至るプロセスの効率化と、成果の最大化を目指している。オージス総研では、これをコンサルティングサービスの部隊が提供し、「ビジネスのボリュームゾーンである開発案件につなげる役割を期待している」(宍田悟司・ソリューション開発本部コンサルティング・サービス部部長)。

正木威寛氏 オージス総研が強みとして前面に押し出すのは、マルケト製品を自らユーザーとして徹底的に使い込んだことで蓄積した、導入から運用までのサポート力だ。もともとは、同社の役員がシリコンバレーを訪れた際、「つき合いのある現地のベンダーが軒並みマルケトをマーケティングに活用していた」(宍田部長)ことから、注目するようになったのだという。そして、2013年、将来的に販社として取り扱うことも視野に入れつつ、まずは自社のマーケティング活動の効果を高めるためのツールとして使い始めた。
実際にマルケト製品の運用を担当した同部の正木威寛氏は、「使ってみると、メール配信やウェブのトラッキングなど、単一機能に特化していた従来のマーケティングツールに比べて、顧客の行動がつぶさに把握できるし、リードナーチャリングのロジックが革新的で、その効果にも手応えを感じた」と振り返る。そうして、昨年末、満を持して販社としての活動も開始した。
●コンサルなどと協業し市場づくり デジタルマーケティング・ソリューションは、情報システム部門ではなく、マーケティング部門が自らの予算と権限で導入するケースも多い。情シスにしか営業のパイプがないSIerにとっては、これも参入の大きな障壁となり得るが、オージス総研は、「通常の営業活動でデジタルマーケティング・ソリューションの顧客を獲得しようとは考えていない」(正木氏)と言い切る。宍田部長は、「既存のお客様の情報システム部門に、当社の営業がマルケト製品を提案したこともあったが、反応はあまりよくなかった。だから、デジタルマーケティング・ソリューションの顧客獲得には、デジタルマーケティング・ソリューションをフル活用している。そうでなければ導入効果を証明できない。結果として、これまでつき合いのなかったような新しい顧客の獲得に成功している」として、主力であるSIの新規顧客獲得の呼び水としての役割を果たしつつあることを強調する。
一方で、競合する可能性もあるクリエイティブ系、コンサル系の販社のことはどうみているのだろうか。正木氏は次のように語る。「マルケトと他社BI製品とを連携したいという問い合わせが最近になって急増している。また、メーカー側も、他製品との連携を強く意識し始めていて、マルケトも公開APIをどんどん増やしている。結果として、パッケージをそのまま導入するのではなく、セミオーダー的にデジタルマーケティング・ソリューションを提供する力が販社に求められるようになっていて、ここはまさにSIerの出番。一方で、デジタルマーケティングを駆使しているとはいえ、ユーザー企業のマーケティング部門とのパイプや、マーケティング業務そのものに対する知識・ノウハウはまだまだ不十分なところもある。マーケティングコンサルなどとの協業の話はすでに動き始めている」。
SIerとの補完関係が成立し得るというのがオージス総研の基本的な考え方であり、まずは彼らと協業して、国内でデジタルマーケティング市場の確立をめざす。
Case3 京セラコミュニケーションシステム
アドテクの既存資産を生かす
DSPとDMPの融合に強み
●オリジナルブランドで本気度を示す 
吉田洋
参与 京セラコミュニケーションシステム(KCCS)も、デジタルマーケティング市場では明確な強みをもつ。それは、SIerだけでなく、アドテクノロジーベンダーとしての顔をもっているという点だ。
2011年、ビッグデータ活用の研究開発の一環でサイジニアと業務提携し、12年には、同社のレコメンドエンジンを使ったオンライン広告配信プラットフォーム(DSP)サービスの提供を開始している。その後、14年に米Xプラスワンソリューションズ(現在の米ロケット・フューエル)と業務提携し、同社データ管理プラットフォーム(DMP)サービスの国内販売をスタート。今年1月には、両サービスを軸に商材ラインアップを整理し、デジタルマーケティング・ソリューションのオリジナルブランド「KANADE」を立ち上げた。吉田洋・参与 インターネットメディア事業本部長は、「デジタルマーケティングに対するKCCSの本気度を知ってもらうために、オリジナルブランドを立ち上げた」と説明する。広告代理店などのパートナーを整備して独自開発のDSPを売るビジネスは、すでに軌道に乗せている。このように、デジタルマーケティングの素地となる事業で実績があって、リソースも保有しているという意味で、SIerとしては異質の存在といえよう。
●オープンなエコシステムを KCCSは、この自社開発のDSPに、米国で実績のあるDMPを融合させることで、日本のデジタルマーケティング市場でもリーディングカンパニーとして活躍することができると考えている。同社のDSPは、ウェブサイトを訪問したユーザーの関心に合わせて広告をパーソナライズするだけではなく、ウェブ上のユーザーの行動履歴を解析して、優良顧客と行動が類似した潜在顧客を発掘することができるという。一方、DMPは、企業のマーケティング活動のハブとして機能する。両者を組み合わせることで、「社内外のさまざまなデータを統合的に管理・活用し、チャネル横断的にタイムリーなマーケティング施策を実行するとともに、データに基づいてPDCAサイクルを回し、機械学習によりその効果の最大化を図ることができる」(吉田参与)と構想する。CRMのデータなども統合し、企業のマーケティング活動全体を最適化するというニーズも将来的には拡大するとみており、ここはSIerとしての技術力が生きるところだ。
一方で、他のデジタルマーケティング・ソリューションとの連携についてもオープンに進めていく考えだ。吉田参与は、「ロケット・フューエルのDMPは、オープンなエコシステムを重視していることが特徴。デジタルマーケティング市場の勢力図は複雑で、類似製品でも強みが違う製品同士であれば連携していくことも考えられる。KANADEブランドも、デジタルマーケティング・ソリューションのエコシステムのハブになるというのが基本方針だ」と話す。
最近では、アイリッジと業務提携し、スマートフォン向け位置情報連動型サービスを提供する準備を始めるなど、デジタルマーケティング向けのモバイルアプリケーション領域にも守備範囲を拡大している。KANADEは、初年度30億円の売り上げを目指しているが、「手応えは十分」(吉田参与)と自信をみせる。
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