医療・介護ITビジネスが、にわかにざわめき立っている。国が「マイナンバー(社会保障・税番号)制度のインフラ」を活用するかたちで、医療・介護領域でも番号による管理を打ち出しているからだ。番号をより有効に活用するためには、コンピュータによる電子化が不可欠であり、電子カルテをはじめとする主力商材の“特需”の再来になるのではないかとの期待が高まっている。(取材・文/安藤章司)
マイナンバー活用を視野に
医療・介護ITビジネスの中核的商材である“電子カルテ”の販売に弾みがつくのではないか──。国が打ち出したマイナンバー(社会保障・税番号)制度のインフラを活用した「医療等分野の番号(以下、医療等番号)」の行く末に、電子カルテビジネスを手がけるベンダーの熱い視線が集まっている(図1参照)。
医療等番号は、地域の病院や診療所、調剤薬局などを結んだ「地域医療連携ネットワーク」をベースに割り当て、情報共有をしやすくするものだ。地域医療連携ネットワークを一段と推進するものであり、情報の発信源となるカルテの電子化ニーズの増大につながるとの期待が高まっている。
情報システムは、例えば「年金番号」や「住民票コード」のように任意の番号を割り付けてコンピュータで管理しやすくするのが一般的である。ただ、医療・介護領域では、個人情報保護の観点から基本的に地域に閉じたネットワークで、なおかつ管理の方法も統一されていない。これでは、全国横断的に情報を引き出したり、共有することは難しい。そこで、何らかの医療等番号を割り振り、これと全国規模のインフラであるマイナンバーを紐付けて、情報共有を一気に推し進める構想が浮上しているというのだ。
「マイナンバー制度のインフラを活用」といっても、医療で扱う個人情報は、慎重に扱われるべき機微性の高い情報であり、どこまでマイナンバーで情報を引き出せるようにするかは不透明な部分が多い。国は、まずは医療連携や研究に限定して利用可能な番号を2018年度から段階的に運用を始め、2020年の本格運用を目指すとしていることから、地域に閉じた医療や介護のネットワーク内だけで使う番号を優先して割り当てることを考えているフシがある。番号インフラさえ整えば、マイナンバーが年金番号や住民票コードと連携するように、段階的に紐付けする道が開けやすい。
強制力を求める声も
「医療機関や研究機関での患者データの共有や追跡を効率的に実施し、医療連携や研究を推進したい」と考える国としては、地域医療連携ネットワークを普及促進させ、医療等番号によってコンピュータによる管理を容易にしたいと考えている。そして、全国的なインフラであるマイナンバーの仕組みを使って、目標を達成する方向を示す。逆説的ではあるが、ネットワーク化や番号づけには、医療分野に強いSIer幹部は「電子カルテがほぼ必要不可欠になる」とみており、結果的にSIerの医療・介護ITビジネスの中核的商材である電子カルテの販売に弾みがつくと期待している。
電子カルテは、ベット数で400床を超える大きな病院では7割弱の普及率を示しているものの、200~400床未満では約40%、150から200未満では約30%、100~150未満では約20%と、規模が小さくなるにつれて普及率が落ちていく。国は400床以上の大病院の電子カルテ普及率を2020年までに90%、急性期に対応する中核的な大型病院では100%を目指すとしており、なおかつ医療等番号を活用するとなれば、病院全体の電子カルテの普及率向上は避けて通れない。
では、大規模病院を除いて、なぜ電子カルテの普及率が高まらないのか。結論からいえば、厳しい病院経営の状況下で、投資対効果がみえにくいからだ。例えば、新しい検査機器を導入すれば、機器を活用した検査や診療を行い、報酬(売り上げや利益)を得られるが、電子カルテについては(国や自治体からの一部補助金を除いて)経営にどこまで貢献するのかみえにくいのが実態だろう。
しかし、紙ベースのアナログ管理が多く残ったままでは、地域の病院や診療所、介護施設、薬局などの情報連携のレベルにすら到達できない。そこで何らかの医療・介護事業者にとってのインセンティブや、2016年1月から始まるマイナンバー制度の導入のような国主導の強制力(いわゆる“アメとムチ”)を求める声も少なくない。地域単位や国レベルで情報共有が進めば、医療・介護の実態をタイムリーに可視化することが可能になり、業務の効率化や、膨れあがる医療・介護費用の抑制につなげられるはずだ。
次ページからは、こうした大きな流れを踏まえたうえで医療・介護ITビジネスに取り組むITベンダーの動きをレポートする。
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