地域/全国ネット化を注視
電子カルテ販売を大きく左右
電子カルテ市場の活性化のカギは、医療・介護の“地域/全国ネットワーク化”にある。このネットワークの魅力が乏しければ、同ネットワークに参加する医療機関や介護事業所の数は増えず、結果としてネットワークへの“接続端末”に相当する電子カルテも売れない。医療・介護ITビジネスに取り組むベンダーは、ネットワークの動向を常に注視しながら販売戦略を練っている。
●“3階建て”の構造になる 医療・介護領域におけるシステムやネットワークは「“3階建て”の構造になる」と話すのは、NECの外尾和之・医療ソリューション事業部事業推進部部長である(図2参照)。
「第1階層」に相当するのが電子カルテやオーダリング、レセプトコンピュータ(レセコン、医事会計システム)、介護・福祉事業者向け業務管理パッケージソフトといった、いわゆる“業務ソフト”。院内/事業所内のLAN(構内ネットワーク)で結ばれてはいるものの、ほぼスタンドアロンで稼働する業務パッケージソフト群である。
「第2階層」は、「地域医療連携ネットワーク」や「地域包括ケアシステム」と呼ばれる地域の医療圏、生活圏で病院や診療所、介護事業所などをネットワークで結んで情報を共有する仕組み。先行する地域医療連携ネットワークでは、NECの「ID-Link(アイディーリンク)」、富士通の「HumanBridge(ヒューマンブリッジ)」で過半数のシェアを獲得している。地域限定ではあるものの、このネットワークが第2階層に相当する。
そして、各地域のネットワークの上にかぶさるかたちで、「全国共通のネットワークとなる」(NECの平鹿裕実・医療ソリューション事業部事業推進部シニアエキスパート)のが「第3階層」に相当する部分だ。この構想は、東京大学の「在宅医療と介護の連携のための情報システムの共通基盤のあり方に関する調査研究」に基づいたもので、NECでは「ID-Linkの発展の方向性の一つ」(田中康太郎・医療ソリューション事業部事業推進部主任)として位置づけ、重視している。

左からNECの平鹿裕実シニアエキスパート、外尾和之事業推進部部長、田中康太郎主任 ●地域ネット化が着々と進行 地域でネットワーク化することによって、病院や診療所、調剤薬局、介護施設などとの情報共有を進め、相互の業務的な連携を推進。こうした取り組みによって医療・介護業務の効率化、サービスの質的向上、ひいては膨らみ続ける医療・介護費用の抑制につなげるというのが国のお題目である。しかし、ほんとうに病院や診療所、介護事業所のメリットになるのであれば、とうの昔に電子カルテ普及率は100%に達し、地域医療連携ネットワークへの加入率も100%に達しているはずだ。実際は、費用負担のあり方や、投資対効果がみえにくいなどの理由で、地域医療連携ネットワーク化率は全国で3割程度にとどまっているといわれている。
とはいえ、国の方針を踏まえたうえで、NECや富士通をはじめとするITベンダーの熱心な働きかけもあり、地域医療連携ネットワークは、少しずつではあるが充実の度合いを増している。NECのID-Linkは直近で全国37都道府県に315台のID-Link用サーバーを設置し、利用施設数は病院や診療所、薬局など4473施設に達している。利用施設数は昨年に比べて約1000施設増えており、なかでも薬局の利用数が増えたという。
地域の中核病院の診療や検査の内容を、同じ地域の診療所の医師が参照して情報を共有すれば、似たような検査を病院と診療所で重複して行わずに済むといった費用の抑制や、患者負担を減らすなどの成果を挙げている。いわゆる“病診連携(病院と診療所の情報連携)”が進むなか、同じ医療者でありながら情報ネットワークの蚊帳の外に置かれるのを嫌った薬局が相次いでネットワークに参加。「ここ1~2年で薬局の参加数が200近く増え、合計380施設に達した」(NECの外尾事業推進部部長)とほくほく顔だ。
地域医療連携ネットワークのもう一つの雄である富士通のHumanBridgeのサーバー設置台数は全国で380台に到達。昨年度(2015年3月期)だけで100案件ほど増えている。今年度も昨年度の伸びと同様、「100案件規模の増加を目指したい」(富士通の佐藤秀暢・公共・地域営業グループVPヘルスケアビジネス推進統括部長)と意欲を示す。

左から富士通の佐藤秀暢VP、岩津聖二シニアマネージャー ●介護ネットはこれからが勝負 富士通が、地域医療連携ネットワークと並んで、もう一つ力を入れているのが「地域包括ケアシステム」である。医療連携に比べて、介護はネットワーク化に着手するのが遅く、また介護施設だけでなく、診療所や自治体など関係者が多いこともあり「この1年を振り返ってみて、まだ事例づくりの段階」(岩津聖二・第二ヘルスケアビジネス推進部シニアマネージャー)という。国は「地域医療介護総合確保基金」などの補助金で支援していることから「医療連携ネットと、介護を含めた地域包括ケアの両にらみで取り組む」(岩津シニアマネージャー)と話す。
富士通やNECをはじめ大手ベンダーが力を入れる地域の医療・介護のネットワーク化が進展すれば、前述した全国的なネットワーク基盤の「第3階層」へつなげる道筋も描きやすくなる。全国規模のネットワークが何であるのかは不明瞭な部分が多いが、全国ネットであるマイナンバーのインフラを活用する可能性も含まれているものと推測される。こうした情報共有を円滑に進めるためにはカルテを電子化するのが望ましく、ネットワークへの参加率と電子カルテの導入率はある程度比例するのは確実だ。
NECの医療・介護領域での最有力ビジネスパートナーである日本事務器の青木高宏・医療・公共ソリューション販売推進部部長は、「国が本腰を入れて医療・介護のネットワーク化を推し進めていくのであれば、電子カルテの販売は確実に伸びる」と、中小病院を中心に伸び切れていない電子カルテの普及率が一気に高まると期待する。
●勢いづく電子カルテの販売 医療や介護の分野は慎重に扱われるべき機微性の高い情報であることから、いきなり全国一律のネットワークシステムを導入するのではなく、まずは地域ごとの事情に合ったネットワークが構築されている段階だ。遅々として進まなくても、医療や介護、患者、利用者、自治体など関係者の理解や情報リテラシーを高めていかなければ、反発を食らい、ネットワーク化が頓挫しかねない。ただ、この方式では、ネットワークごとにシステム上の管理番号(ID)がバラバラになってしまう弊害が常につきまとう。

左から日本事務器の岡山公彦部長、青木高宏部長 日本事務器では、ID統合機能(名寄せ)エンジンを実装した医療・介護連携システム「PHRMAKER(ピーエイチアールメーカー)」を前面に押し出し、地域のネットワーク化に歩調を合わせたビジネスを展開中だ。まずは、病院や診療所、介護事業所などを傘下に抱える医療法人単位で納入を進めており、直近では五つの医療法人へ納入。「早い段階で今の3倍に相当する累計15法人への納入を目指す」(岡山公彦・ヘルスケア・文教ソリューション事業推進部部長)と意気込みをみせる。
日立メディコも中堅・中小病院における電子カルテの普及加速に着目し、2014年10月に主力電子カルテ「Open-Karte(オープンカルテ)」を刷新。ベット数100~200床と、産婦人科の一部などでみられる有床診療所(簡易的な入院が可能な診療所)をメインターゲットとして販売を本格化している。すでに100件を超える引き合いがあり、「予想を大きく上回る大きな反響で、これから本格的な受注につなげたい」(渡部滋・医療情報システム本部本部長)と手応えを感じている。
100~200床の中小病院は全国約2800施設、有床診療所は同約8300施設と数が多いため、日立メディコでは「病院や診療所関連のシステム構築に強いSIerとの販売面での連携を強化している」(佐久間雅裕・医療情報営業部部長)という。案件ベースではあるものの、連携が始まっており、「今年度は、まずは案件ベースで10社ほどのSIerとのビジネス面での連携を見込んでいる」(立花聡史・医療情報製品企画グループ長)と、パートナービジネスにも力を入れることで販売数の拡大に強い意欲を示している。

左から日立メディコの立花聡史グループ長、渡部滋本部長、佐久間雅裕部長
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