SAPパートナーからみたS/4HANA
TIS
テクノロジーのインパクトは大きい
テンプレートで新規顧客開拓

川口恭弘
部長 S/4HANAのインパクトを、パートナーはどう評価しているのか。SAP ERPのパートナーとして豊富な実績をもつTISは、「S/4HANAコンソーシアム」の中心メンバーであり、いち早く対応テンプレートをリリースした。川口恭弘・ITソリューションサービス本部ビジネスシステムコンサルティング事業部エンタープライズソリューション推進部長は、「テクノロジーのインパクトはものすごく大きい。売り手としては、これを着実にフォローしていかなければならない。『Simple Logistics』が出ると、本格的にブレークするのではないか」と、期待を寄せる。
リリース済みのSimple Financeについても、「分析・計画系の機能が充実したのが大きい」と評価する。「例えば、各拠点にバラバラに入っているさまざまなERPのデータを集約し、Simple Financeをハブにしてグループ経営管理を強化するという使い方は、すでに提案が進んでいる」。
まずは、同社のプロセス産業向け業務テンプレート「TCM(TIS Chemical Model)」を武器に、新規顧客の開拓に力を注ぐ。「PDCAを早く回していきたいお客様には、S/4HANAはフィットする」として、従来の基幹システムのスピード感への不満をすくい上げていくのが基本方針だ。
一方で川口部長は、「従来のERPとは売り方が変わってきている」とも指摘する。「ユーザーはERPの導入にあたって、経営面の向上にいかに寄与するかを考えるようになっている。S/4HANAはリアルタイムにERPのデータを分析でき、レポーティングや計画機能なども充実しているため、デモも交えながら見せ方を工夫すれば、ユーザーのニーズを喚起できる商材」だという。大手SIerとして、ユーザーのIT部門だけでなく経営層とも太いパイプを築いてきた実績を生かす考えだ。
有力ベンダーが続々と日本市場で新展開
日本オラクル
クラウドERPを本格投入
●ラインアップは出そろいつつある 
中島透
担当ディレクター ERP市場では、SAPのライバルとして君臨してきたオラクルも、ここにきて新しい戦略を打ち出している。ポイントは、「クラウドへの注力」だ。
日本オラクルは、今年1月、「Oracle ERP Cloud」を日本市場に本格投入した。従来のオラクルのERPとしては、大企業向けで大きなシェアをもつ「E‐Business Suite(EBS)」のほか、2005年にピープルソフトを買収してラインアップに加えた「PeopleSoft」「JD Edwards EnterpriseOne」の3製品がある。米オラクルは、ピープルソフトの買収当初から、それぞれの強みを取り込んだ製品をまったく新しくつくり直す取り組みを進めてきたが、その成果として世に出したのが、「Oracle Fusion Applications」だ。オンプレミス版は2011年に提供を開始しているが、もともとクラウド対応を前提とした製品でもあり、米国では、2013年からオラクル自身がSaaSとしても提供している。これがOracle ERP Cloudであり、ようやく日本でも本格的にビジネスを開始した。
新しくつくり直したという点では、SAPのS/4HANAとも共通しているが、製品としての歴史が長い分、機能はすでにかなりそろっている。会計、調達・購買、プロジェクト管理などのコア機能に加え、SCM(サプライチェーン・マネジメント)、製品企画・設計などに関わるアプリケーションも充実してきており、今後も継続的にラインアップは拡充していく(詳細は図を参照)。
●大企業の業務要件に対応 ターゲットとなるユーザーは年商100億円以上の中堅クラスの企業だが、中島透・クラウドアプリケーション事業統括ソリューション・プロダクト本部ビジネス推進部担当ディレクターは、「実績がある従来製品の“いいとこ取り”をした製品であり、エンタープライズの業務要件をこなすことができるため、ユーザー規模の上限はない。例えば、EBSには非常に多くのパラメーターがあり、この設定によりカスタマイズ性が高い要件にもアドオンなしで対応できる。Oracle ERP Cloudもそうした特性を引き継いでいる。SAPの中小規模拠点向けクラウドERPである『Business ByDesign』と比較されることもあるが、そこが大きく違う」と説明する。
さらに、Oracle ERP Cloudには、経営管理製品「Hyperion」のレポーティングエンジンや「Oracle BI」を組み込んでいて、トランザクションデータと一体化したレポーティング機能を提供できるのも大きなセールスポイントだ。「お客様の顧客に対するレスポンスを高めて、売上向上につなげてもらう。SAPはS/4HANAでそれを実現したとしているが、オラクルは以前からそうした機能は提供している」(中島担当ディレクター)と、ライバルに対する競争心をのぞかせる。
ただし、オラクルの得意領域である大企業の既存ユーザーが、いきなりクラウドERPに移行するとはみていない。まずは、既存ユーザーの海外拠点や子会社に導入する「二層目のERP」としての需要を直販営業で刈り取る。さらに、中堅企業の新規顧客向けのメインのERPとしても、パートナー経由で拡販を図る考えだ。パートナーには、そのためのテンプレート開発なども促していく。パートナーがSIで稼ぐビジネスモデルではなくなっていることは、販売戦略上の大きなポイントだ。
ワークデイ
既存ベンダーとは異なる価値を訴求
日本市場の攻略着々と
●既存勢力へのアンチテーゼ? 
金翰新
社長兼ゼネラルマネージャ 北米を中心に急成長を遂げている、クラウドERPベンダーのワークデイ。2014年1月期の売上高が4億6900万ドルであるのに対し、15年1月期は7億8800万ドルまで伸びる見込みだという。米オラクルに敵対的買収で吸収されたピープルソフトの創業者が中心となって設立したベンダーということもあってか、既存の大手ERPベンダーに対するアンチテーゼとして業績を伸ばしてきたと目されることも多い。今年1月に日本市場での新規顧客開拓をスタートし、本格的な日本上陸を果たした。
同社のERPがカバーするのは、財務会計と人事管理で、日本では、人事管理ソリューションから提供を始めた。すでに日立製作所やファーストリテイリングなどから大型案件を受注しており、ポテンシャルの高さを市場に示している。
日本法人のトップを務める金翰新・社長兼ゼネラルマネージャは、「ワークデイは、すべてのお客様に単一バージョンで製品を提供し、カスタマイズではなく、コンフィギュレーション(設定)でお客様ごとの個別のニーズに対応するのが他製品との大きな違いだ。ユーザーのニーズに沿ってワークデイが開発した新しい機能をみんなが使えるようになるし、メンテナンスやバージョンアップをユーザー自身がやらなくてもよくなる」と、メリットを強調する。
●サードパーティーとも連携 米ワークデイは、アクセンチュアやIBMなど、導入のコンサルテーションから実装、保守まで手がけることができるパートナーと協業し実績を伸ばしてきたが、日本でも、当面はこうした大手パートナー経由で、グローバル企業を中心に拡販を進める。
一方、日本国内で給与計算のアウトソーシングサービスを手がけるペイロールともパートナー契約を結んだ。ワークデイの人事管理システムとペイロールの給与計算システムのシームレスな連携を実現しようとしているのだ。給与計算は、地域ごとに制度が大きく異なるなどの事情で、統一のパッケージでは対応するのが難しい。そのため、ワークデイは自社開発のシステムのほか、各国のサードパーティー給与計算システムを双方向で接続するインテグレーションツール「サードパーティー給与計算用クラウドコネクト」を提供している。さらに、戦略上重要な地域などについては、ローカルで「グローバル ペイロール クラウド パートナー」を認定し、給与計算システムと人事管理システムの、よりシームレスな連携を推進している。ペイロールはこれに認定されたかたちで、今後、国内で同種のパートナーを増やしていく方針だ。
ワークデイのERPのメジャーバージョンアップは、年2回を予定しており、直近のバージョンアップでは、データサイエンスや機械学習アルゴリズムを活用した、レコメンデーション機能の第一弾をリリースした。
優秀な社員の退職リスクを特定してアラートを上げたり、採用活動の問題点などを指摘してくれるという。金社長は、「人事管理で、システム側から何かを提案することは今までなかった」と、製品の独自性と競争力を強調するとともに、日本市場攻略に自信をみせている。
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