識者の眼
大きく動くERP市場

本好宏次
リサーチディレクター トップベンダーの大きな変革により、ERP市場はにわかに活性化してきた感がある。IT分野の調査・コンサルティング会社である米ガートナーは、現在までのERPの進化の歴史を、「古典主義」「モダニズム」「ポストモダニズム」という三つの期間に分類している(詳細は図参照)。ERP市場に詳しいガートナージャパンの本好宏次・エンタープライズ・アプリケーションリサーチディレクターは、「前世代(モダニズム)の主流である一枚岩のERPスイートが、高コストで使いづらくなり、限界がみえてきたなかで、ワークデイやネットスイートといった新興クラウドベンダーが台頭した。しかし、前世代の主役級だったSAPとオラクルも、ここにきてポストモダニズムのニーズを踏まえた製品を新たにつくりあげ、市場に本格投入している。ERP市場はこれから大きく動くだろう」と見通しを語る。
やはり最も気になるのは、トップベンダーであるSAPの戦略だ。DBをHANAに限定するという決断は、どのような結果をもたらすことになるのか。現状のまま突き進めば、ERPの顧客基盤をベースにDB市場でも高いシェアを獲得する可能性がある一方で、既存ユーザーがDBを移行したがらなければ、ERPのシェアを大きく落とすことにもなりかねない。本好リサーチディレクターは、「SAPにとっては、現状、会計しかラインアップしていないのは少し苦しい。Simple Financeをはじめ、追加の機能モジュールのリリースをどれだけ早められるかがまずは重要になる。さらに、パートナーがS/4HANAにどれだけ早く習熟するか、そして、これから3~5年の間に、S/4HANAが投資に見合うメリットをもたらすということをアピールできる事例をどれだけつくれるかで、その後の市場は大きく変わるかもしれない。ラリー・エリソン(会長兼CTO)の主導で完全にクラウドにシフトしたオラクルは、ERP市場でのゲームチェンジを本気で狙っている」と説明する。事実、日本オラクルの中島透・クラウドアプリケーション事業統括ソリューション・プロダクト本部ビジネス推進部担当ディレクターも、SAPの戦略はオラクルにとってチャンスになるとの見解を示している。ポストモダニズムのERP市場は、先が読めない状況に突入したといえそうだ。