記者の眼
制御ドメインを明確に
漫然とした受託開発は危険

日立オートモティブ
システムズ
宮崎義弘
主管技師長 AUTOSARの存在感が高まるに従い、車載ECUビジネスは否応なく変化せざるを得ない。独自OSだったガラケー(従来型携帯電話機)からAndroid OS搭載のスマートフォンに変わったのと部分的に共通点がある。ただ、Androidとの大きな違いは、AUTOSARを搭載する車載ECUの種類が多岐にわたること。さらに自動車そのものが、衝突被害軽減ブレーキやクルーズコントロール(自動追随走行)、車線逸脱防止支援など“自動運転系”の新しい機能が次々と開発され、変化していることが違いの要因として挙げられる。ECUのコスト削減のため、ソフトウェアだけでなく、マイコンもAUTOSAR準拠で標準化が進む可能性が高いが、一方でAUTOSARだけではカバーできない領域が多いのも事実だ。
自動車部品メーカーの日立オートモティブシステムズの宮崎義弘・技術開発本部主管技師長は、「スマートフォンやパソコンのように“外部からOSを買ってくる”感覚には大きな違和感を覚える」と指摘する。車載ECUの機能や安全性を担保するため、仮にAUTOSARをOSに採用したとしても、そこからさらにつくり込んでいく部分はスマートフォンやパソコンの比ではないというニュアンスである。
豆蔵の福富取締役は、「あたりまえかもしれないが、車載ECUは必ず何かを制御するのが役割であり、ここにビジネスのポイントがある」と話す。Androidはスマートフォンにほぼ特化しているが、AUTOSARは多種多様の車載ECU向けのOSであり、これらECUはエンジンやハンドル、ブレーキなどを制御する。突き詰めれば、これら制御対象(制御ドメイン)のことを熟知している組み込みソフトベンダーこそがAUTOSARを使いこなせる可能性が高いということになる。
自動車関連メーカーの下請けで、ただ漫然と仕様書通りのプログラムを開発しているだけでは、こうした制御対象となるドメインに関するノウハウが蓄積できず、恐らくAUTOSARの普及によって仕事がなくなるパターンに陥りやすい。そうではなく、自社のドメインを戦略的に突き詰めていき、「他社に絶対に負けないドメイン」を構築したうえで、そのコンポーネントの一つとしてAUTOSARを活用する競争優位性の確保こそが、これまで以上に強く求められているといえそうだ。