スポーツの秋。体を動かしていますか? ウサギ飛びをして、血へどを吐くまで反復練習をした根性論全盛の時代は去り、いまは効率的で楽しむスタイルながら、結果も残すというのが主流となっている。効率的といえば、IT。ビジネスにITが不可欠となったように、スポーツの世界でもITの存在感が増している。トップアスリート向けに加え、一般のスポーツ愛好者向けソリューションも続々登場。東京五輪を前に「スポーツ×IT」ビジネスが盛り上がる!
SIer編
ビジネスシーンで定番のCRMをスポーツ分野に応用
スポーツ市場は選手がプレー「する」、観客が「観る」、運営や審判などが「支える」の大きく三つに分けることができる。いずれの分野もITの活用が不可欠となってきているが、なかでもSIerが注目をしているのが「観る」の分野だ。例えば、多くのビジネスシーンで活用されているCRM(顧客管理)システムは、対象が「観る」の顧客だからである。そこに着目した日立ソリューションズは、CRM案件の受注を増やしている。(取材・文/安藤章司)
●テレビ中継は昭和の情景 
日立ソリューションズ
藤原英哉
主任技師 「する」「観る」「支える」の3分野のうち、日立ソリューションズは「観る」領域に着目。汎用的なCRM(顧客管理システム)をスポーツ領域に応用することで、ビジネスを大きく伸ばしている。
野球は国民的な人気スポーツで、何もしなくても野球場に観客が溢れていた──。かつて、昭和の時代は、帰宅した父親がビールを飲みながら、テレビで野球中継を眺める情景が日常であったが、近年ではゴールデンタイムに全国放送されることが珍しくなってしまった。野球と同様に人気のあるサッカーも、趣味やスポーツ観戦の多様化の波には逆らいきれない。
危機意識をもった球団やクラブは、ファンをつなぎとめ、増やしていくため、早いタイミングでCRMを導入する動きに出る。しかし、CRMはそもそも流通・小売サービスなど、顧客の争奪戦が激しい領域で発達してきたシステム。つまり、顧客は少しでも安い店があればそちらへ流れる“ブランドスイッチ”という現象が起きやすい領域で発達してきた経緯がある。CRMはブランドスイッチされないよう、顧客を長くつなぎとめ、他店から1人でも多くの顧客を自店へ誘導する仕組みとして機能するわけだ。
●ファンビジネスCRMを開発 この点、スポーツは「極めてブランドスイッチが起こりにくい市場」(藤原英哉・サービス・インテグレーション部主任技師)である。要は、阪神ファンが、ある日突然巨人ファンにはならないし、浦和レッズのファンが名古屋に転勤したとしても、いきなり名古屋グランパスエイトのファンに鞍替えするとは考えにくい。日立ソリューションズは、この点に着目して「ファンビジネス向けトータルCRMソリューション」を独自に開発した。ブランドスイッチが起こりにくい市場向けに、従来型のCRMをファン一人ひとりを深く掘り下げるファンビジネス向けCRMにつくりなおしたことで、スポーツ業界から高い評価を受けることになった。
根っからの野球ファンの藤原主任技師は、ファンビジネス向けCRMの必要性を感じ取っていたが、すでに他社が汎用的なCRMを納入しているケースが多くみられた。さらに、日立グループは社会インフラをはじめとする、社会イノベーション事業に経営資源を集中させる会社の方針もある。しかし、「スポーツは人の心を豊かにする社会イノベーションの重要な一角」と経営層を説得し、同領域進出へのGOサインを獲得した。製品を開発し、本格的に販売をスタートさせてから約2年、直近ではヤクルトスワローズやオリックス・バファローズ、ジュビロ磐田などの運営会社およそ10社から受注を獲得した。今後は演劇や音楽、アミューズメントといったブランドスイッチが起こりにくい領域を中心に、横展開を進めていくことで、向こう3年で累計30件の受注獲得を目指していく。
ITインフラ編
大規模スポーツイベントで
「する」「観る」「支える」を支援

スポーツ
ITソリューション
干場一広
副社長 データセンター(DC)サービスなどを手がけるクララオンラインは、大手広告代理店の電通との合弁会社スポーツITソリューションで、スポーツ業界向けのITサービスを手がけている。電通が手がける大規模なスポーツイベントのIT領域を担当することで、足下の業績は順調に拡大している。かつてのスポーツイベントを伝える媒体といえば、テレビやラジオの中継がメインだったが、今の時代はインターネットの存在感が非常に大きくなっている。クララオンラインの強みとするITインフラと、スポーツイベントに長けた電通が連携することで、「システム構築の案件の受注は好調に推移している」(干場一広・副社長)と手応えを感じている。
ただ、著名スポーツイベントは偶数年に開催される傾向があるため、イベント頼みでは売り上げが安定しない。そこで取り組んでいるのが「する」「観る」「支える」のスポーツ3領域のバランスのよいビジネス展開である。全国規模の競技に参加する場合、学校に所属する選手(生徒)が、学校を通じて県支部にエントリーし、さらに全国連合会へと登録手続きが進むが、「こうした作業はいまだに紙ベースでやりとりされることが多い」(同)という。
同社では、「支える」の部分に相当するエントリー手続き関連のオンライン化の提案にも力を入れるとともに、ウェアラブル端末を駆使し、データ分析にもとづくトレーニングを支援するといった「する」領域への進出を狙うなど、3領域をバランスよく伸ばしていくことで、より安定的な成長を図る。
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