クラウド編
“あいつはなぜチャンスに強いのか”バイタルデータが証明
選手が想定外の活躍をした。要因は何か。選手の表情や態度はいつも通りで、監督やトレーナーには活躍した要因をつかむことができない。このときに“たまたま”だと思うのか、背景を知る手がかりとなるデータをもっているのか、その違いでチームの運営が大きく変わってくるはず。パナソニックコンシューマーマーケティングが、選手に装着したセンサから得られる心拍数や呼吸数、3軸加速度センサ活用データといったバイタルデータを、クラウドに蓄積し分析することで、選手の状態を把握可能にするサービスに取り組んでいるのは、そのためだ。(取材/日高彰、文/畔上文昭)
●選手の体に貼るセンサを使用 パナソニックグループのパナソニックコンシューマーマーケティングは、「Panasonic Store」という直販サイトを運営している。消費者とダイレクトにつながるという直販サイトの経験を生かすべく、新しいサービスの開発にも取り組んでいる。その一つが、7月末から提供を開始した「スポーツデータクラウドサービス」だ。

パナソニック
コンシューマーマーケティング
増田健二
eコマースビジネスユニットサービス・ソリューション事業グループ
事業推進チーム チームリーダー パナソニックグループでは、ラグビーやバレーボール、野球など、さまざまなスポーツ活動を支援している。多くのスポーツ選手のデータを取得するチャンスがあることから、「そのデータを解析することで、一般の人のトレーニングや健康増進に役立つかもしれない」と考えたのが始まりである。
ウェブサービスを運営していることから、データを格納するためのクラウドインフラは社内でもっている。問題は、どのようなセンサを使ってデータを取得するか。腕時計型のセンサであれば、製品としてグループ企業で提供しているが、バレーボールやバスケットボールなどの腕を使う競技では、じゃまになるので使ってもらえない。ベルト型も、選手の動きを妨げてしまう。そこで探してきたのが、バイタルコネクトという北米のベンチャー企業が提供している体に貼るタイプのセンサだ。
「このセンサはとても小さい。取得できるデータは、心拍数、呼吸数、表皮温度、体位、歩数、転倒検知など。小さいのに多くの測定可能項目が用意されている。なおかつ、心拍変動という“ドクンドクン”と心臓が鳴る間隔が測定できる。心拍変動の間隔は一定ではなく、常に揺らいでいる。その揺らぎの部分から、交感神経と副交感神経のどちらが働いているかがわかる。これらを解析することで、ストレスなどを把握することもできる」と、スポーツデータクラウドサービスを取り扱う事業推進チームの増田健二チームリーダーは語る。ちなみに、バイタルコネクトのセンサは、実は医療用で、スポーツに応用するのはスポーツデータクラウドサービスが初めてだという。
●心拍数で選手の内面に迫る スポーツデータクラウドサービスでは、センサを活用してデータを取得し、パナソニックのクラウド上に格納する。コーチやトレーナーが取得したデータを画面上で確認し、練習メニューの策定などの参考にするというのが、想定される活用方法である。
例えば、パナソニックの野球部には、三つの特徴的な機能を提供している。一つ目は、取得したデータに対して、練習メニューが表示できる機能。ポジション別練習、バッティング練習、シャトルランなど、練習別にデータが表示されるので、練習ごとの心拍数といったチェックができる。練習の負荷が適正かどうかが、選手ごとに把握できるというわけだ。
二つ目は、時間別で練習メニューを追うことができ、練習メニューごとのデータを確認できる機能。三つ目が、選手個別に心拍数のしきい値を設定できる機能。しきい値を下回っていると、練習負荷が小さいなどの目安になるため、練習メニューの見直しに役立てることができる。
また、3軸加速度センサを内蔵しているので、ジャンプの回数などが把握できる。ジャンプの回数と疲労度の関係などを選手別にデータ化しておけば、試合中の選手交代のタイミングに役立てることもできる。
「試合で最大のパフォーマンスを出すには、どのような練習を積むべきか。練習は軽めのほうがいい選手もいるので、そういう対応がデータにもとづいて判断できるようになる」と増田チームリーダーは考えている。
試合中のデータについても、成功した場合、ミスをした場合など、その時間の心拍数や表皮温度のデータを収集できるので、プレーとの因果関係を選手ごとに分析することもできる。“あいつはなぜチャンスに強いのか”が、把握できる可能性もある。
●将来は映像と連動して分析 スポーツデータクラウドサービスに対する選手やトレーナーの評価は「想定以上にいい」(増田チームリーダー)という。外販に踏み切ったのは、グループ内で有効性が証明できたためだ。まずは、企業や大学などのトップチームを対象に販売することを予定している。
今後については、ビデオ映像との連携を目指すという。パナソニックが得意とする映像ソリューションとの組み合わせで、より正確なデータとして活用するのが目的だ。なお、スポーツデータクラウドサービスの最大のポイントは、クラウドサービスであるということ。つまり、センサとなるデバイスは、基本的になんでもいい。センサの進化は速いため、今後も貪欲に最新センサの導入を模索していく考えだ。
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