ネットワーク機器がソフトウェアに代替されつつある。NFV(Network Functions Virtualization)と呼ばれる仮想化技術を使い、サーバーやストレージの仮想化と同様、オープンなIAサーバーの仮想マシンの一つとして稼働させる動きが、国内でも本格的になり始めているからだ。ネットワーク機器の脱ハード、脱プロプライエタリの動きにどう対応すべきなのか、SIerやNIer、データセンター(DC)事業者を取材した。(取材・文/安藤章司)
●「スイッチしか残らない」 「5年後にはスイッチくらいしか残らないんじゃないか」──。ITホールディングスグループのインテックでDC事業を担当する君塚修・クラウドサービス事業部事業部長はこう話す。
DCやユーザー企業の電算室では、サーバーやストレージと並んで、スイッチやファイアウォール、ロードバランサなど数多くのネットワーク機器が稼働している。サーバーはいち早く仮想化して、その多くは仮想マシン(VM)へ移行。ストレージも汎用IAサーバー上で、ソフトウェアによって仮想的に実現する方式が採り入れられているなか、ネットワーク機器もソフトウェアによって仮想的に実現する流れが加速しているのだ。
この結果、外部の通信回線とDC内部のIT機器をつなぐ「スイッチくらいしか(物理的な製品としては)残らないんじゃないか」との冒頭の君塚事業部長の言葉につながるわけだ。
ネットワーク機器の多くは、その名の通り「ハードウェア・アプライアンス(=物理アプライアンス)」方式で販売されている。つまり、CPUやメモリを積んだ専用機器に、専用にカスタマイズされたOSが載り、その上にスイッチならスイッチ、ファイアウォールならファイアウォールの専用アプリケーションソフトウェアが載る“三段構造”になっている。これに対してNFVと呼ばれるネットワーク機器の仮想化は、汎用IAサーバーで稼働するVMに、通信制御用の専用アプリケーションを載せる「ソフトウェア・アプライアンス(=論理アプライアンス)」方式である(図1参照)。
つまり、これまでプロプライエタリな専用ハードに専用OS上で動かしてきたネットワーク機能を、汎用的でオープンなIAサーバーやVM上で機能させるアプローチだ。VMが、もはやあたりまえのように使われるようになった今、ネットワーク機器領域だけが専用環境で取り残されている。汎用化・オープン化が進むことでIAサーバーやVMの単価は大きく下がったが、専用機器、専用環境が必要なネットワーク機器の単価が、相対的に高止まりしている印象を与えるようになったことがNFV推進の背景にある。
●ハードの束縛から解放 もともとNFVは、欧州の通信事業者がネットワーク機器のオープン化によってコストを削減する動きからスタートした。その後、データセンターや電算室などエンタープライズ(業務)用途にもNFVの考え方が広まり、従来のクローズドで専用ハードウェアが必要なネットワーク機器ではなく、オープンなVM上でソフトウェア(論理)アプライアンス化したほうが、もっと安くネットワーク機器機能を手にできるのではないかとの考えが浸透しつつある。
ただ安くするためだけに専用機器を捨てるのではなく、NFVの重要な効果の一つとして「柔軟性の向上」と「運用の自動化の推進」があげられる。サーバーで例えれば、パブリッククラウドサービスのAmazon Web Services(AWS)のように、サーバーの仮想化技術によって極めて柔軟性の高いシステムの提供が可能になり、VMの増減や構成の変更は、ユーザー自身がオンラインで自由に行うことができるようになった。NFVも「使いたいときに使えて、やめたいときにやめられる」が基本コンセプトである。
DC内には、スイッチやルータ、ファイアウォール、ロードバランサ、UTM(統合脅威管理)など、ネットワークや情報セキュリティ絡みのさまざまな専用ハードウェア・アプライアンスが存在しており、「この専用機がネックになって、クラウドの柔軟性の足を引っ張っている」(Coltテクノロジーサービス(=旧KVH)の近藤孝至・プロダクト・マネジメント部シニアエキスパート)との見方が根強くある。
ソフトウェアであるVMの構成は、ユーザーニーズに応じて自由に変えられても、物理的なネットワーク機器を変更しようとすれば、DCの作業員が手作業で構成を変更する手間がいる。NFVによって仮想化、ソフトウェア化してしまえば、システムの柔軟性は大きく改善され、運用の自動化も可能になり、AWSのようなユーザーによる直接的なシステム構成の変更もより行いやすくなるというわけだ。
次ページからは、NFVを活用したビジネス状況について、SIerやNIer、データセンター事業者の取り組みをレポートする。
「NFV」と「SDN」はどう違うの?
Q 「NFV」と「SDN」はどう違うのか
A 並列に語られることが多いNFV(Network Functions Virtualization)とSDN(Software Defined Network)。ともにソフトウェアによってネットワークを制御(定義)する点で共通しているものの、オープンな環境で実現するか否かの点で、両者の考え方の違いは大きい
Q もっと具体的に言うと
A NFVは、汎用的なIAサーバーと仮想マシン(VM)を使い、あくまでもオープンな環境でスイッチやファイアウォール、ロードバランサといったネットワーク機器の機能を代替させる指向が強い。一方、SDNはソフトウェアで制御する点では共通するものの、クローズドな専用機器で駆動させてもSDNとしては問題ない
Q ハードウェアメーカーにとってはSDNのほうが都合がよいのでは
A ハードウェア・アプライアンスを製造してきたメーカーにとってみれば、これまで築き上げてきた独自アーキテクチャの技術を生かしたいと考えるのは自然な流れ。現に、国内大手ベンダーも2011年頃からSDNのコンセプトにもとづいた製品開発に力を入れている
Q では、専用アプライアンスを使ったSDNやNFVは、すでに実用化されているのか
A そういう意味で、SDNは独自アーキテクチャによる物理アプライアンスを含めて実用化が着々と進んでいるが、あくまでもオープン環境でネットワーク機器機能の実現を目指すNFVの製品化は、これから本格化していく見込みだ
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