その時、SIerやNIer、DC事業者は──
着々とNFV対応の準備が進行中!
オープン環境でスイッチやファイアウォール、ロードバランサなどのネットワーク機器機能をソフトウェア・アプライアンス方式で実現するNFVだが、課題はどこにあるのか。SIerやNIer、DC事業者といったさまざまな立場から検証する。
SIerの見方
小規模システムにも役立つ
NFVは、欧州の大手通信キャリアが中心となってつくりあげたコンセプトにもとづくだけに、大規模な通信設備をもつ通信キャリアのニーズを反映している。すでに国内でも大手通信キャリアが先行して、NFVの実証実験に取り組んでおり、国内の主要なコンピュータメーカーやNIerなどが協力している段階だ。だが一方で、業務アプリケーションを主に扱う一般企業・団体の情報システムは、通信キャリアほど通信機器の性能やコストに敏感ではない。むしろサーバーの処理能力や運用のしやすさのほうが重視される傾向が続いてきた。
大手SIerのインテックの主力商材の一つで、広域仮想クラウドサービス「EINS WAVE(アインスウェーブ)」のIT基盤を担当する君塚事業部長は、「大規模ユーザーより、むしろ小規模ユーザーに役立つ」と指摘する。
つまり、大規模なユーザー向けにはユーザー専用の高性能なネットワーク機器を配置しても採算に合いやすいが、0.5個のCPU、256MBのメモリといったごく小規模なITリソースしか必要としない中小企業の業務アプリやサブシステムに、高価なネットワーク機器をあてがっていてはコストが合わない。そこで、VMの上で動くNFVで代用すれば、「顧客の求めに応じて、安く極小の“ミニサーバー”をたくさん用意できる」(同)と、重宝していると話す。大手通信キャリアとは真逆の方向性ではあるが、SIerらしいNFVの活用方法だといえる。
インテックのDCでは、顧客の要望にきめ細かく応じていることから“ミニサーバー”や“豆サーバー”が大量に稼働しており、「感覚的にではあるが、NFVの技術を一部でも適用したサーバー数は、すでに半数に達している」(同)と、増え続ける仮想サーバーとNFVとの相性はいいと話す。
厳密な意味でのNFVは、オープンで汎用的なIAサーバー環境で動くソフトウェア・アプライアンス方式ではあるものの、実際は、専用ハードウェア・アプライアンスのなかで、ユーザーニーズに応じて、追加ライセンス費用を支払えば、「ライセンスを開放する」方式もある。
インテックの鈴木宏昌・クラウドサービス部サービス企画課主任によれば、「ネットワーク機器ベンダーでは、こうしたライセンスを月額で利用する“月額課金”方式で提供するケースも増えている」という。直近で、インテックのDCで採用を決めたネットワーク機器は、まさに月額課金で使用ライセンスを増減できる点が評価ポイントになったと話す。

インテックの君塚修事業部長(右)と鈴木宏昌主任NIerの見方
今年に入り引き合いが急増
大手NIerのネットワンシステムズは、率先してNFVに取り組んでいる1社である。大手通信キャリア向けのNFVビジネスでは、すでに実証実験の段階まで進んでいる。今年に入ってから、「一般の業務システムでもNFVを活用したいとの問い合わせや引き合いが急増している」(同社の徳岡寛司・第1製品企画部ネットワークチームエキスパート)と、確かな手応えを感じている。
ネットワンシステムズは、ネットワーク構築のプロ集団として、世界中で発表されるNFV関連の製品や大手ネットワーク機器ベンダーによるNFV関連技術をもつソフトハウスの買収動向に、常に注意を払ってきた。いくら市場ニーズがあって、NFVへの関心が高まっても、肝心のハードウェア/ソフトウェアメーカーが開発してくれないことには、NIerとしてはどうしようもないからだ。
こうしたなか、「昨年頃から、本格的に実用可能レベルのNFV関連のソフトウェア・アプライアンス製品が出はじめている」(片山千穂子・システム技術支援部第2チームエキスパート)と明かす。プロの厳しい目で精査して、実用レベルにきているということは、すなわちNFVビジネスを立ち上げる機運が高まっていることにつながる。

ネットワンシステムズの徳岡寛司エキスパート(右)と片山千穂子エキスパート 同社が、NFVの大きなメリットの一つと捉えているのが「運用の自動化」である。ソフトウェアならではの柔軟さが、ネットワーク機能の運用自動化の強力な推進役になるとみる。かつてのサーバー仮想化のときでも、数多くの仮想化ソフトのなかで、ヴイエムウェアが頭角を現すことができたのは、VMの運用ソフトが充実していたからであり、決して仮想化機構であるハイパーバイザーだけが優れていたわけではない。
NFVにおいても、仮想化機構よりも、サーバーやストレージ、ネットワークを含めた「システム全体でどう自動化できるか」(徳岡エキスパート)が、今後の差別化のカギを握ると見ている。ネットワーク機器の機能をソフトウェア・アプライアンス化し、オープンなVM上で稼働させるのは、あくまでもNFVの第1ステップであり、その先にはハードウェアでは実現できなかった、ソフトウェアならではの運用の自動化の実現こそが、NFVの真骨頂だというのだ(図2参照)。
DC事業者の見方
DC活用の幅が広がるNFV

エクイニクス・ジャパン内田武志
アーキテクト DC事業者のエクイニクス・ジャパンは、物理層からアプリケーション層まで垂直的にソフトウェアによって制御できるNFVへの対応を着々と進めている。
同社では、クラウドサービスの高度な相互接続の基盤として、SDNフレームワークを拡張した「Equinix Programmable Network(EPN、エクイニクス・プログラマブル・ネットワーク)」を独自に構築している。SDNはネットワークをソフトウェアで定義(制御)するアーキテクチャであり、NFVとの親和性も高い。「SDN、NFVのいずれにも対応可能なアーキテクチャ」(エクイニクス・ジャパンの内田武志・ソリューションアーキテクト)を採用しているのが最大の特徴である。
また、エクイニクスでは、DC事業者として、顧客のITやネットワーク機器を預かるコロケーション/ハウジングサービスも手がけており、これについては、エクイニクス独自のEPNのような基盤を適用できるかどうかは顧客の要望次第となるが、複数のクラウドサービスや通信キャリアとの相互接続を強みとしていることから、「ユーザーがNFVを活用した新しいサービスを提供するのにも適している」(同)と話す。
例えば、ユーザー先の事業所に専用のネットワーク機器(物理)を設置し、通信サービスやユニファイド・コミュニケーション(UC)、情報セキュリティ対策といったさまざまなサービスを提供しているとする(図3参照)。新しいサービスに切り替えたり、より付加価値の高いサービスをユーザーに提案するとき、所要のネットワーク機器が専用ハードウェアに収まっていては、場合によってはハードウェアごと交換しなければならず、コストも手間もかかる。もし、これが普通のIAサーバーで動いていたとすれば、業務アプリケーションのアップデートのように、オンラインでソフトウェアを書き換えることで、瞬時に新サービスに対応できる。
さらに、こうしたサービスを提供するソフトウェア・アプライアンスをDC側でもてば、SaaSやクラウドサービスのようにオンラインで、ネットワークやUC、セキュリティをサービスとして届けやすくなる。通信機器ベンダー大手のF5ネットワークスでは、すでに「F5 Silverline」の名称で、ウェブアプリケーション・ファイアウォール(WAF)やDoS攻撃対策を、サービスとしてユーザー企業が利用できるよう、オンライン系のサービスの拡充を進めている。
これまで専用機器を客先に設置してた方式が、DCを活用したサービス方式になり、なおかつNFVやSDNの技術を活用することによって、「より柔軟で、拡張性に富んだサービス商材の開発が可能になる」と内田武志アーキテクトは指摘している。
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