NIer編
キャリア頼みからの脱却
SDN商機の本格到来
NIerにとって、長らく最大の顧客は通信事業者(キャリア)だった。しかし、固定系、モバイル系ともに大型投資は終わって、今は次世代網に向けた投資が始まる前の端境期にある。そのうえ、通信網が高価な専用機器で固められていた時代は終わり、すでにネットワークの多くの部分がIP化されている。「5G」と呼ばれる次世代モバイル網の構築が始まっても、投資金額は従来に比べて小規模にとどまると予想され、通信事業者頼みで生き残れる時代ではない。
そこでNIer各社は、ネットワーク機器周辺だけでなく、サーバーやストレージ、仮想化プラットフォームなどの領域にも守備範囲を広げ、クラウド基盤の構築サービスで収益を確保する方向へと動いている。とくに、オンプレミスとクラウドを連携させたハイブリッド環境が、ITインフラ構築の大きなテーマになっている。ハイブリッドクラウドには多くのITベンダーが取り組んでいるが、クラウド事業者の間で「ハイブリッド環境の構築では、ネットワークの部分でつまずく案件が多い」といわれ、この点で顧客のネットワーク構成を知り尽くしているNIerが強みを発揮できる。
さらに、多くのサーバーが仮想環境上へと移行したことで、ソフトウェアでネットワークを制御するSDN技術を利用し、ネットワークやサーバーの運用・管理の一元化、自動化が可能になってきた。当初SDNはデータセンターやクラウド事業者から関心を集めた技術だが、運用コスト削減に加えて、サービスの迅速な立ち上げが可能といったメリットが認知され、ウェブサービス事業者や、ITの活用に積極的な大企業の間で導入が進みつつある。また、サイバー攻撃の疑いがある不審な通信を検知した場合、端末を自動的に業務ネットワークから隔離するといった制御も可能なことから、セキュリティニーズの高まりによって今後は、SMB(中堅・中小企業)に対してもSDN提案の機会が増える可能性がある。
サーバーの仮想化に比べて導入のモチベーションが上がりにくかったSDNにようやく本格商機がみえてきたが、NIerにとっては、慣熟しなくてはならない技術分野が広がって、構築の難度が上がるかたちになる。ただ、NIerのSI領域への進出は今に始まったことではなく、多くのNIerは仮想環境を取り扱うための一定のノウハウは身につけている。むしろ求められているのは、「ネットワークのあり方を見直すことがビジネスメリットにつながる」ことを顧客に理解してもらう“提案力”だといえるだろう。
ディストリビュータ編
ディストリビュータならではの強み
メーカー/リセラーとの新しい協業へ
ハードウェアやソフトウェアなど製品をリセラーに提供するディストリビュータにとって、クラウドサービスの台頭は、ユーザー企業による製品の導入意欲が低下し、厳しい状況を強いられる要素の一つだ。しかし、世の中が変わっていくさまを、そのまま指をくわえてみているだけでは済まされない。そこで、新しいディストリビューションのあり方を模索。製品だけでなく、サービスのディストリビューションの仕組みづくりを進めているほか、メーカーやリセラーと新しい協業強化に力を注いでいる。
シネックスインフォテックは、リセラーがクラウドサービスを提供しやすい環境を整備するため、プラットフォームの構築を進めている。2016年早々には提供できる予定だ。そのプラットフォームでは、メーカーが提供するクラウドサービスを揃えるほか、コミュニティの場を設けることで、各リセラーが製品とクラウドサービスを組み合わせたソリューションの創造にも取り組んでいく。松本芳武社長&CEOは、「ディストリビュータとしてクラウドサービスと向き合った時、単にサービスを提供するのではなく、リセラーの強みを生かすことが重要だと考えている」と捉えている。
ソフトバンク コマース&サービスでは、クラウドサービス事業者とパートナーシップを強めることに積極的だ。最近は、2015年春に提携して提供に力を入れているオンラインストレージの「Dropbox」をベースに、さまざまなソリューションの創造を進めている。溝口泰雄社長兼CEOは、「Dropboxは、さまざまな製品やサービスと互換性があり、“クラウドのSI”といえる。ハブとして普及させて次のステージへと進める」という。
ダイワボウ情報システムでは、ハードメーカーとソフトメーカーとの戦略的なパートナーシップに動いている。ハードでは、シスコシステムズが日本の中小企業をターゲットとするネットワーク機器の専用ブランドの「Cisco Start」で開発段階から協力し、VPNルータの発売を果たした。ソフトでは、Windows搭載モバイルデバイスの導入を支援する「Windowsモバイルビジネスセンター」を、15年8月にダイワボウ情報システム内に設置。日本マイクロソフトとともに、法人市場でタブレット端末を普及させていく。
ビジネスモデルを抜本的に変えようとしているディストリビュータにとって、16年はどんな年になるのか。注目を集めるところだ。

ダイワボウ情報システムは日本マイクロソフトとWindows搭載モバイルデバイスで戦略的な協業を果たした(写真左から、日本マイクロソフトの平野拓也社長、ダイワボウ情報システムの安永達哉専務)
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