ロボティクス、車載と目白押し
新技術獲得の出資やM&Aも盛んに
前ページでは、FinTechへの取り組みを中心にレポートしたが、SIerの「独自性の強い自社新商材の開発」では、他にもロボティクス/AIや車載向け組み込みソフトに投資するケースが目立つ。また、新しい市場や技術を取得するための国内外におけるM&A(企業の合併と買収)も一段と活発化する見通しだ。
自社新商材の開発~その2~
【ロボティクス/AI編】高齢者施設にロボットニーズあり

NTTデータ
岩本敏男
社長 脳科学・ニューロテクノロジーの研究で実績のあるNTTデータ経営研究所を傘下にもつNTTデータの岩本敏男社長は、「コンピュータリソースの指数関数的な拡大が、ロボティクスやAIを一気に実用的なものにする」とみている。NTTデータでは、ロボティクスの概念を(1)人型に代表される形があるタイプ(2)IoTやビッグデータ分析などと連動して、気づかないうちにロボットやAIを活用しているタイプ(3)IBM WatsonやApple Siriのようなバーチャルタイプの大きく三つに分類している。
国内SIerを見渡してみると(1)は、富士ソフトの「PALRO(パルロ)」が介護福祉の分野のコミュニケーション・ロボットとして軌道に乗り始めており、ITホールディングスグループのTISは、ソフトバンクが取り扱っている「Pepper」を小売業ユーザーの店頭での接客や販売促進に活用している。

富士ソフト
坂下智保
社長 (2)は、多くのSIerにとって比較的距離が近い領域であり、機械学習/ディープラーニング(深層学習)の仕組みを応用することで、IoTやビッグデータ分析をより有効に機能させるのに役立つ。
(3)は、すでに具体的な商材となっているWatsonをシステム構築に実装していくことなどが想定される。Watsonの活用は、日本IBMのビジネスパートナーであるJBCCホールディングスや日本情報通信(NI+C)などが強い関心を示している分野だ。
富士ソフトのPALROは、高齢者福祉施設を中心におよそ300施設に納入。コミュニケーションロボットを使って高齢者の認知機能の維持や、PALROの動きに合わせて簡単な体操を行うことで筋力の衰えを抑制するなどの効果が評価され、昨年末には高齢者福祉施設向けにバージョンアップした「PALROビジネスシリーズ高齢者福祉施設向けモデルⅡ」を投入している。
富士ソフトの坂下智保社長は、ロボットやクラウド、モバイルといった「新しいテクノロジーをどう売り上げや利益につなげていくかが、顧客経営者の興味の対象になるケースが増えている」と話している。
●農業・漁業もAIを積極活用 NECソリューションイノベータは、地域に密着したシステム開発にAIを応用している。北海道大学と共同で、農業の生産現場で脅威となる「害虫」を画像認識技術で判別するシステム開発に取り組んだり、同じく画像認識を使って水産養殖の稚魚を自動的に数える「NECフィッシュカウンター」の商品化にこぎ着けている。

NECソリューション
イノベータ
毛利隆重
社長 IoTやビッグデータ分析などと連動して、気づかないうちにロボットやAIを活用するタイプのシステムは、工場やプラント、大規模ショッピングセンターへの適用がイメージされるが、NECソリューションイノベータは農業・漁業への応用にとりわけ力を入れている。これは同社が地域のSE子会社7社の経営統合によって2014年4月に発足し、今年4月には沖縄の地域SE子会社であるNECソフト沖縄も統合する予定であるなど、「地域に根ざしたシステム開発」(NECソリューションイノベータの毛利隆重社長)をルーツにしていることが背景にある。
どの地域でも農業、漁業、観光のいずれかは存在し、課題も少なからず抱えている。NECソリューションイノベータは、NECグループのソフト開発を一手に担うSIerであり、NEC本体との連携ビジネスが事業の柱ではある。これはこれで非常に重要な使命ではあるが、もう一つの柱として毛利社長が重視するのが、ITを活用した地域の課題解決である。地域SE会社時代から培ってきた地元とのコネクションや、地域での産官学連携を積極的に進めていくことで、地域が抱える課題を解決する──。その一つの切り口としてロボティクス/AIを活用しているのだ。

JBCCホールディングス
山田隆司
社長 バーチャルタイプのロボットともいえるIBM Watsonは、医療現場への適用も始まっているという。JBCCホールディングスの山田隆司社長は、「Watsonに過去の診療や文献のデータを学習させ、医師の診断を支援する研究が、米本国を中心に進んでいる」と話す。データ分析にもとづいて、医師が推論するのと同じようにWatsonが診断候補を提示。医師が判断材料の一つにするというもので、インターフェースも自然言語処理で行う。近い将来、バーチャルな助手ロボットのような存在になる可能性がある。
JBCC-HDグループでは、亀田医療情報に出資するかたちで電子カルテの開発に取り組んでおり、Watsonのこうした事例は、自社の医療向けビジネスにおけるロボティクス/AIの活用方法の一つとして捉えている。
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