自社新商材の開発~その3~
【車載向け組み込みソフト編】「自動運転」の共通キーワード
車載向け組み込みソフトでは、車載ECU(電子制御ユニット)向けベーシックソフト(OS)「AUTOSAR(オートザー)」を開発する動きが出ている。

コア
松浪正信
社長 AUTOSARは、欧州発のオープン・アーキテクチャで、ドイツをはじめとする海外勢が先行している分野。自動車のロボット化ともいえる自動運転や、その手前の自動化支援のシステム基盤になる可能性もあることから、国内自動車メーカーはこのシステム基盤の国産化を望んでいるともいわれている。こうした要望に応えるかたちで、SCSKを中心に豆蔵やイーソルなどの連合体と、名古屋大学発のベンチャー企業APTJに富士ソフトや永和システムマネジメント、東海ソフトなどが出資する連合体の二つの陣営がAUTOSAR OSの開発にしのぎを削る。
AUTOSAR OSを巡っては、車載向け組み込みソフトを強みとするSIerのなかでも、SCSKや富士ソフトのように積極的に参画する動きと、様子見、あるいは距離を置くSIerとに分かれている。組み込みソフトで国内屈指の実力をもつコアの松浪正信社長は、「車載向けで当社の強みを生かせる切り口が他にもっとある」と、AUTOSAR OSとは一定の距離を保つ。オープンアーキテクチャであるがため、世界中のベンダーが熾烈な開発競争のさなかにある。もし、完成車メーカーのティアワン(元請け)になれないのであれば、投資対効果が見通しにくいというわけだ。
コアでは、2010年に打ち上げられた国産の準天頂衛星「みちびき」に対応した測位システムの開発に取り組んでおり、これが実用化すれば既存の米GPS(全地球測位システム)と組み合わせてセンチメートル単位の精度で測位でき、かつ山間部や高層ビル街のようなGPSの電波が届きにくい場所でも、測位が容易になる。「準天頂衛星とGPSを組み合わせれば、農業用トラクターを精密に誘導し、自動運転による農耕作業も可能になる」(松浪社長)と、研究開発に余念がない。
日本の準天頂衛星は、18年度には4機体制でのサービスをスタートさせ、将来的に7機体制にしていく方針としていることから、「精密測位を駆使した当社独自の自動運転システムをモノにできるかどうかは、ここ1~2年が勝負」と松浪社長は気を引き締める。同じ車載向け組み込みソフトでも、精密測位誘導とトラクターの組み合わせは、いかにもコアらしい独自性に溢れる取り組みといえよう。日本の準天頂衛星のカバー範囲であるアジア・オセアニア地域、より具体的には農業大国であるオーストラリア市場への進出を視野に入れつつ、みちびきと同じように、このビジネスを“軌道に乗せる”構えだ。
海外M&A
外貨を稼いで、新技術も取得したい

CAC Holdings
酒匂明彦
社長 日本の主要SIerは、海外進出を積極的に進めてきたが、まとまったボリュームで“外貨を稼げている”のは、海外売上高比率約3割に達するNTTデータと株式非上場ではあるものの年商5000億円規模、海外売上高10%の達成が目前まで迫っている日立システムズ、インドの有力SIerをグループに迎え入れたことから、既存の中国法人などを合わせて連結従業員約5100人のうち、海外勤務社員が全体の6割強を占める約3200人に拡大したCAC Holdingsなど、上位数社にとどまっている。

日立システムズ
高橋直也
社長 上位陣に共通しているのが、すでに欧米やASEAN、インドで活躍する有力SIerをグループに迎え入れている点である。日本から出向者で海外現地法人を立ち上げる方式では、どうしても顧客層が日系企業に限られてしまう。SIerが“外貨”を稼げるような海外ビジネスを展開できるかどうかは、ひとえに現地有力SIerのM&Aにかかっているといっても過言ではない。中国をはじめ直接的なM&Aが難しい国や地域では、こちら側が実質的な経営権を掌握できるかたちの合弁事業も選択肢に入る。

DTS
西田公一
社長 M&Aや資本参加、合弁には「新しく主流になる技術」(CAC Holdingsの酒匂明彦社長)を獲得する手段としても有効に作用する。CAC-HDは、昨年11月にソーシャルロボット開発の米ベンチャー企業のJiboに一部出資することで先端技術の動向にアンテナを張っているし、日立システムズは、SOC(セキュリティ運用センター)の運営技術で世界の先端をいくカナダのアバブセキュリティを昨秋までにグループに迎え入れている。
有力SIerをグループ化する「事業拡大型」と、規模は小さいものの先端技術をもつシステムベンダーを傘下に迎え入れる「技術取得型」の「二つのM&A手法をバランスよく使い分ける」(日立システムズの高橋直也社長)と話す。金融システムに強いDTSの西田公一社長は、「資本参加でFinTechの技術をより早く習得していきたい」と、投資ファンドを通じて出資先を検討している段階だ。NTTデータは世界各地の有力SIerをグループの取り込んできたが、今はその傘下SIerがNTTデータグループの資金力と信用力を背景に、現地の緻密な情報網と“目利き”の力を発揮して新しいM&A案件を発掘してくるという好循環すら生まれている。
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