インタビュー
SAPジャパン 福田 譲 社長
S/4HANA需要が本格的に立ち上がる年
SAPのERPビジネスが新たなフェーズに突入したことは、SAPジャパンのトップである福田譲社長の言葉からもうかがえる。昨年12月には、HANAの最新版の提供も開始し、SAPのソリューションは進化を続けている。
●競合にはHANAをDBだと勘違いしていてほしい ──まずは、S/4HANAのビジネスの現状について。 
SAPジャパン
福田 譲
社長 福田 昨年10月時点でグローバルではユーザー数が1300社に達したが、日本の導入企業も50社を超えている。グローバル市場と日本市場の差はあまり感じていない。
HANAはオンプレミス、クラウドを問わず対応できるようにするというのがもともとのコンセプトだし、S/4HANAはサブスクリプションで利用できるのでライセンスの制約もない。
SAPは、従来の基幹業務システム領域を中心としたコアは、時と場合に応じてハイブリッドで運用できるようにし、その周辺のフロントアプリケーションは完全にクラウドに舵を切った。それらのすべての基盤になるのがHANAという位置づけだ。こうしたビジョンのもと、ERP全体のコーディングも、業界に先駆けてやり直した。結果として、ロードマップが10年先までクリアに見通せるようになった。私はSAPに18年いるが、ここまで将来がはっきりみえる状況になったのは初めてだ。
──昨年末にはHANAの最新版も出たが、S/4HANAの導入にはHANAの採用が前提になる。これは拡販の阻害要因になる可能性がないか。 福田 HANAはあなたが考えているより普及している。ユーザー数はグローバルで1万社を超えている。新規のユーザーの9割はHANAを選んでいるし、ERPのユーザーは7万社ほどだが、5年に1度はインフラを見直すわけで、HANAの採用は今後もどんどん増えるだろう。SAPのメッセージは、市場に十分伝わっていると思っている。
──ERPやDBで競合するベンダーは、SAPの戦略を市場のゲームチェンジの好機とみる向きもあるようだが。 福田 競合他社やメディアは、HANAを語る時にただのDBとして捉えがちだが、もはやDBとしての機能は、HANAの全機能の3分の1程度に過ぎない。例えば、IoTが進展すれば、あらゆる業界で、企業がリアルタイムに最終消費者とつながり、基幹系のデータとも連動し、彼らの好みや自社の在庫などを踏まえたリアルタイムで効果的なプロモーションを実現できる可能性がある。そういう要素をすべて単一のプラットフォーム上で処理できるようにしたのがHANAの真の価値。最新のトレンドを網羅するために必要な機能が実装されている。当社としては、競合にはHANAを単なるDBだとずっと勘違いしていてほしいくらいだが(笑)、DB製品単体とはまったく異なるレベルで大きな価値を提供できるというのが実際のところだ。
ただ、グローバルでこそ、各国の中央銀行や大手鉄道会社、さらにはウォルマートやeBayといった企業でHANAの超大規模な導入がものすごい勢いで進んでいるが、日本はまだイノベータ層のお客様が採用しているという雰囲気であるのも確か。しかし今年は、S/4HANAのラインアップが揃ったこともあって、基幹系を含め、国内でも大規模案件でのHANAの採用が本格化するとみている。NECが自社グループの基幹システムのプラットフォームをHANAに全面刷新し、S/4HANAを採用すると発表したが、こうした事例を増やしていきたい。
●新しい価値の訴求に長けたパートナーの発掘も ──S/4HANAの本格的な拡販にはパートナーの活躍が不可欠では。 福田 S/4HANAコンソーシアムのメンバーがテンプレートのHANA化やS/4HANA対応を積極的に進めてくれているし、ユーザー会もS/4HANAに対する関心は非常に高い。ただ、申し上げたとおり、HANAの価値は、基幹系や情報系、さらにはIoTなどのフロントアプリケーションも含めて統一基盤で連携できる点にある。従来のERPのパートナーだけでなく、新しい価値の訴求に長けたイノベーティブなパートナーもどんどん拡充していきたい。
また、PaaS「SAP HANA Cloud Platform(HCP)」は、SAPのデータセンターだけでなく、パートナーのインフラからも提供できるようにしていく方針だ。SAPは、ソフトウェアメーカーとしてのビジネスドメインにこだわっていて、オープンなエコシステムを重視している。垂直統合でIT業界のなかでシェアを取っていくという方針のベンダーもあるが、SAPは完全に水平統合。ここが競合との大きな差異化ポイントだと考えている。
「HANAネイティブ」を競合はどうみる?
米オラクル マーク・ハードCEO「重要なのはSaaSレイヤで勝つこと」

米オラクル
マーク・ハード
CEO SAPのERPとオラクルのデータベースは、従来、大企業向け基幹システムのスタンダードともいえるマッチングだった。S/4HANAでSAPがHANAネイティブに舵を切ったことは、オラクルのビジネスにも少なからぬ影響を与えるように思える。米オラクルのマーク・ハードCEOはこのSAPの戦略に対して、次のようにコメントした。
「SAPの『SuccessFactors』も、『Concur』も、(少なくとも現時点では)オラクルのプラットフォーム上で稼働している。HANAではない。それに、われわれのデータベースの売り上げのなかで、SAPのERP向けの売り上げは5%にも満たない。私がSAPの人間なら、アプリケーションをクラウドに移行することを最優先する。彼らにとっての課題は、コアな顧客をオラクルのクラウドアプリケーションに奪われて失いつつあるということ。重要なのは、一番上のレイヤのSaaSで勝つことだ。SAPはHANAに時間をかけて取り組んできたが、そのためにコアのERPのソリューションにわれわれほど時間をかけることができていない。だから、クラウドERPでオラクルが多くの顧客を獲得しているのに、彼らはほとんど新しい顧客を獲得できていない。それが私の見方だ」。
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