日本オラクル
クラウドでゲームチェンジを狙う
スタックの網羅性が強み
●クラウドERPでは市場のリーダー 米オラクルのラリー・エリソン会長兼CTOやマーク・ハードCEOら首脳陣は近年、「SAPやIBMはクラウドの世界で存在感が希薄で、もはやわれわれの競争相手ではない」と繰り返し発言するようになった。SaaSベンダーとしては、すでにセールスフォース・ドットコム(SFDC)に次ぎ世界2位のビジネス規模を誇り、クラウドERPの顧客数は1700社を超えているという。エリソン会長は、「大企業・中堅企業向けクラウドERPでは、オラクルが市場のリーダーになっている」と自負する。それでも実際には、SAP S/4HANAの登場により、SAPとの競合関係が熾烈さを増すのは間違いない。
エリソン会長の自信を裏付けるように、新しいアーキテクチャでつくり直した次世代ERPのリリースは、確かにSAPよりも早かった。「E-Business Suite(EBS)」「PeopleSoft」「JD Edwards EnterpriseOne」という同社の従来製品の“いいとこ取り”をした新ERPパッケージの開発を約10年前から進めており、その成果として「Oracle Fusion Applications」を世に出した。オンプレミス版は2011年に提供を開始しているが、もともとクラウドでの提供を前提として開発したこともあり、米国では、13年からオラクル自身がSaaSとして提供している。これをコアにOracle ERP Cloudとしてリ・ブランドし、15年1月には、日本でも提供を開始した。
15年10月にサンフランシスコで米オラクルが開いた年次イベント「Oracle Open World 2015」では、こうした基幹系SaaSの新たなラインアップとして、「Oracle SCM(Supply Chain Management) Cloud」の最新版を発表した。同12月には、日本でも正式に発表している。エリソン会長は、「基幹系のアプリケーションで、包括的な製造業向けのアプリケーションまでをクラウドで網羅できているのはオラクルだけ」と発言し、SaaSベンダーとしての強みを象徴する商材であるという認識を示した。前ページのハードCEOの発言と照らし合わせても、整合性がある。DB移行には大きなコストと労力がかかることを考えれば、次世代ERPのDBをHANAに限定したSAPの戦略は、オラクルにとって逆に追い風になるとみて、ERP市場のゲームチェンジを狙う。
●オンプレの10分の1のコストで導入可能 
中島 透
担当ディレクター Oracle SCM Cloudは、文字通り、製造業のグローバル・サプライチェーンにおける顧客の課題に応える商材だ。最新版では、需給計画(サプライチェーン・プランニング)と製造管理の機能を新たに付加したほか、受注管理(販売)の機能を大幅に強化したという。また、分析系の機能も充実させたことで、データドリブンでリアルタイムに施策を検討・実行できるようになった。日本オラクルの中島透・クラウドアプリケーション事業統括ソリューション・プロダクト本部ビジネス推進部担当ディレクターは、「最終的に、オンプレミスと同じポートフォリオをクラウドでも揃え、お客様が選択できるようにするのがオラクルの戦略。インフラからプラットフォーム、アプリケーションレイヤまで、すべてのスタックを自社で網羅できるのが決定的に他社と異なる点といえる。とくに基幹系のアプリケーションでは、信頼性という意味でこれが非常に大きな差異化ポイントになる。SCM Cloudは、商品企画から供給までのプロセスを、データにもとづいてリアルタイムに運用できる機能を備えたが、ここまで高機能なクラウド製品を出しているのはオラクルだけだ」と強調する。
当面は、大企業の海外拠点や個別の事業部での2層ERP用途、さらにはビジネスを伸ばしたいと考えている中堅・中小企業に訴求していく方針。中島担当ディレクターは、「従来のオンプレミスのERPと比べると、10分の1ほどのコストで同じレベルの機能を使えるイメージ。大規模なビジネスでしか受け入れられていなかったコンセプトを、もっと小規模な事業にも適用できるようにすれば、日本企業の競争力は飛躍的に高まる」と力を込める。
国内のリリースは2月で、パートナーに対するトレーニングも同時に始める。PaaSでインテグレーション基盤も提供している強みを生かし、SIerなどパートナーのビジネスモデル変革にも貢献する考えだ。
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