売り上げか、利益か ハードウェア商材の扱いに難題
クラウド化が進展するなか、ハードウェアの扱い量が比較的多いSIerは対応を迫られている。通信キャリアやデータセンター事業者などへのハード販売は好調でも、一般ユーザー向けの業務用サーバーの需要はクラウド化の影響を強く受ける。パソコンに至ってはWindows 7の更改特需の後の反動減がすでにみえている状況だ。ハードウェアの販売力がある強みを生かしつつも、収益をどう伸ばしていくのかが腕のみせどころとなる。
●通信キャリア向けは ハード販売が好調
伊藤忠テクノ
ソリューションズ(CTC)
菊地 哲
社長
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、今期(2017年3月期)に過去最高の売上高4000億円を目指している。同社は通信キャリア向けのIT機器販売に強いことで有名で、その強みを生かして世界の主要ハードベンダーとの強固な関係を結んでいる。Facebookが最初に提唱したデータセンター向けのオープン仕様「Open Compute Project(OCP)」にもとづくIT機器や、ソフトウェアでネットワーク機器を制御する次世代アーキテクチャの「SDN/NFV」関連といったCTCが力を入れるハード製品については、「他社との激しい競争を展開中で、勝負を挑んでいる領域」(CTCの菊地哲社長)と話す。
菊地社長は、「新しい技術を採り入れた製品が出るたびに販売量が伸びている」と誇らしげに語るが、一方で「勝負を挑んでいる」領域だけに粗利面では課題が残る。同社が得意とする通信キャリア向けでは、2017年以降、第5世代の移動通信システム(5G)の受注も立ち上がってくることが期待され、OCPやSDN/NFVもこれからまだ伸びる領域。少なくともCTCにとって、ハードウェア販売が衰える兆しはみえてこない。
つまり、現状のままでは、ハードが売れれば売れるほど(受注競争に勝てば勝つほど)会社全体の粗利率が低下する構造にある。そこで、同社は粗利率低下を抑制するためにクラウドや情報セキュリティ、ITアウトソーシングといったサービス型ビジネスも同時に伸ばしていくことで、18年3月期には売上高5000億円、営業利益率8%の達成を目指す。
●減収増益から成長路線を描けるか ハードウェア販売を強みとし、日本IBMのトップソリューションプロバイダであるJBCCホールディングス(JBグループ)は、IBMの事業ポートフォリオの急激な変化の煽りを受けて、売り上げが伸び悩んでいる(図5参照)。今年度(2017年3月期)は、主要SIerがこぞって増収予想を打ち出すなか、JBグループは利益は増える予想ではあるものの、売上ベースでは前年度比4.8%減の820億円を見込んでいる。


JBCCホールディングス
(JBグループ)
山田隆司
社長 IBMは、クラウド基盤の「SoftLayer(ソフトレイヤー)」、クラウド準拠のミドルウェア群「Bluemix(ブルーミックス)」、そしてコグニティブ(認知)コンピューティングの「Watson(ワトソン)」と矢継ぎ早に新製品、新サービスを打ち出す一方で、パソコンやPCサーバーは早々に売却。JBグループの悩みどころは、旧AS/400(現Power Systems)全盛の時代から綿々と受け継いできた中堅・中小企業向けビジネスに、IBMの新製品・新サービスがマッチするとは限らない点である。
JBグループの山田・司社長は、「商材の選定は、あくまでも顧客視点を貫いていく」と、顧客のニーズに合った品揃えを重視している。中堅・中小ユーザーの顧客視点でクラウド/SaaS型を含むさまざまな商材を再構築中であり、その達成度合いを登山に例えると「まだ2~3合目で、緒に就いたばかり」と話す。
とはいえ、その効果は同社の利益増というかたちで顕在化しており、今期も利益面では期待できるとしている。JBグループの顧客ニーズにマッチした商材の再構築を愚直に進めていくことで、再び成長路線へと転換できるタイミングを虎視眈々と狙っている。
日立製作所
大胆なスクラップ&ビルドを実行

日立製作所
東原敏昭
社長兼CEO
日立製作所は大胆なスクラップ&ビルドを実行中だ。情報サービスを担っていた社内カンパニーの旧情報・通信システム社は、昨年度末までに発展的に解消。日立製作所が重点分野と位置づける「電力・エネルギー」「産業・流通・水」「アーバン(都市計画、鉄道など)」「金融・公共・ヘルスケア」のそれそれの事業を支える役割を担う。
日立物流や日立キャピタルを連結から外したことで、今期の全社売上高は約1兆円ダウンする見込みだが、その一方で、向こう3年間で重点4分野を中心に約1兆円売り上げを増やすことで再び10兆円の売り上げ水準に戻す。重点分野には3年間の総額で1兆円規模の投資をするとともに、低収益事業の見極めも推進する。
こうしたスクラップ&ビルドによって、営業利益率を昨年度の6.3%から3年後の19年3月期に8%へ高める。日立製作所の東原敏昭社長兼CEOは「営業利益率を高めることが一番大きなハードル」と、話している。
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