マイクロソフトの最新OS「Windows 10」が発売から丸1年が経ち、同OS搭載のパソコン(PC)も法人市場に普及し始めた。現状では、「Windows 7」をプリインストール済みで、ダウングレード権のあるPCが主体だが、「Windows XP」のサポート終了に伴うリプレース特需後の反動減による低迷を挽回するほどにWindows 10搭載のPCが需要を喚起できるのか。日本マイクロソフトとPC販売の大手ディストリビュータを取材し今後の法人PC市場を占う。(取材・文/谷畑良胤)
●7プリインストールPCの販売終了後に需要増す 
日本マイクロソフト
浅田恭子
Windowsコマーシャルグループ
シニアエグゼクティブ
プロダクトマネージャー 日本マイクロソフトによれば、法人と個人を含め世界で3億5000万台のデバイスでWindows 10が稼働している。同社は「Windows史上もっとも急速に普及したバージョン」と誇示する。無償アップデート策が奏功した形だ。法人向けでは、「日本国内だけで、年商トップ200社の大手企業の8割で、10搭載PCを導入するための検証が終了または検証中だ」(浅田恭子・Windowsコマーシャルグループシニアエグゼクティブプロダクトマネージャー)という。ただ、多くの販売会社の印象として、現在の10搭載PCにダウングレード権を使用してWindows 7をプリインストール済みであるため、大半のユーザー企業では同7が使われている。大企業と同様に、10搭載PCを購入しつつ、7にダウングレードし、その間に既存システムやソフトウェア、プリンタといった機器などとの検証をしたうえで、10に切り換えるもようだ。
今年10月31日には、この7のプリインストールPC(Windows 8.1含め)の販売が終了する。それ以降でも、1年延長したインテルの「Skylake」搭載デバイスのサポート期間が18年7月17日に終了し、20年1月14日に7の延長サポートも終わる(図2参照)。浅田マネージャーは、「XPの二の舞にならないよう前倒しで対応をする企業が増える」と、プリインストールPCの販売終了後、現在もっとも普及し稼働している7搭載PCを10搭載PCに買い替える需要が出てくると予測する。今年8月2日には、10の無償アップデート「Anniversary Update」の提供を開始する。今回のアップデートで、法人向けとして注目されるのは、最新のサイバーセキュリティの脅威から企業を保護する新機能が追加されたことだ。7と10でのセキュリティ強度の違いを鮮明(図1参照)にし、10への移行を促したい考えだ。例えば、7では標的型攻撃の検知にサードパーティのソフトウェアが必要だったが、「Windows Defender ATP」という新機能が脅威の対処方法をOSとクラウドで提供する。
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浅田マネージャーは、「PCの販売会社は、このアップデートによる新機能や、認証機能など10に搭載の機能をうまく顧客に提案し、PC販売を伸ばしてほしい」と訴える。
●非SkylakeのPCが好調 大半は7にダウングレード PCを販売する大手ディストリビュータは、これまでの10搭載PCの販売状況と今後の見通しをどうみているのか。大塚商会によると、同社の第1四半期のPC販売は、昨年同期に比べ12.1%成長した。ただ、昨年がXPの反動減に見舞われた年であるため、“平時レベル”までに回復したとはいえなさそうだ。同社で得意分野とする業界向けなどで、10の検証が済んでいない市販ソフトもあり、10搭載PCがPC販売を底上げできるかどうかは未知数のようだ。ただ、「7のダウングレード権を使用した10搭載PCを導入する企業は増えてきた」(橋本孝行PC・サーバ・ストレージプロモーション課課長)と今後に期待する。
シネックスインフォテックでは、10搭載PCを購入した企業の7~8割が7にダウングレードして使っているという。清水章太郎・プロダクトマネジメント部門マーケティング本部長は、「10搭載PCもそうだが、いまは、インテルSkylakeのサポートが終了するのをうけて、非SkylekeのPCを求める企業が多い。端末では、マイクロソフトのSurface Pro4が文教向けなどで販売を伸ばしている」と、最近の顧客の傾向を話す。大塚商会でも、企業のワークスタイル変革の盛り上がりに合わせSurface Pro4の売れ行きがいいという点で共通している。前出の清水本部長は、「社外に持っていきたいという顧客ニーズが高まっており、モバイル型や脱着してタブレット端末としても使える2in1に期待する」と、ワークスタイル変革に取り組む企業向けに販売の拡大が期待できると分析している。
ソフトバンクコマース&サービスでは、今年に入ってから、法人向けPCのうち10搭載PCの割り合いが高まっているという。具体的な数値は非公表だが、3倍になった。理由の一つは、シネックスと同様に、Skylakeのサポートが終了するのに伴って、非Skylake端末を求める顧客が多いことを挙げる。菅野信義PC・デバイス事業担当エグゼクティブディレクターは、「ユーザー企業は、Skylakeでは混乱している」と、この件で7のプリインストール済みの10搭載PCが伸びているとみている。
各社の近況を総合すると、7のプリインストール済みPCが販売終了する前の駆け込み需要や、ワークスタイルの変革を行う企業が増えてきていることから、PC販売が伸びる兆しは出てきた。
●移行支援がキーになる Office 365も後押し 企業や団体など法人が、Windowsの新OSへの移行に二の足を踏む理由で多いのは、既存システムやソフトなどの動作検証、最新のウェブブラウザを導入する際の互換性対応や設定作業などが遅れていることにある。
そこで大塚商会は、Windowsの最新OSが出るたびに実施している「移行支援サービス」を開始した。同サービスでは、10の概要や新機能、強化ポイントを説明するワークショップから、企業に10を展開するための技術要素研修、10に移行できるか否かを調べる導入計画診断まで、幅広く顧客を支援している。高柳英和・マーケティング本部クラウドプロモーション課課長は、「こうしたワークショップを通じて、顧客の悩みや導入を踏みとどまる傾向などが現れている。また、当社で情報収集した技術的な問題点などを伝達している」と、最新情報を伝え、移行を促している。
ソフトバンクコマース&サービスでは、10の端末環境で、7と8.1のアプリケーションが動作するサービスを提供している。VMwareの「ThinAPP」などを使ったものだ。10といま使っているアプリとの動作検証をせずに、従来通り利用できるので、顧客の手間が省けるわけだ。菅野エグゼクティブディレクターは、「XPの時もブレイクしたソリューションだ」と、旧OS搭載PCから10搭載PCへの移行をする際にも力を発揮するという。大塚商会と同じく、「IEの最新バージョンに対応すべき顧客の案件はかなりある」(同)という。
10搭載PCの需要が増していることと直接的な因果関係は明らかでないが、発売開始から5年が経ったマイクロソフトのOffice 365がクラウドの“枯れた商品”として販売を伸ばしている。シネックスインフォテックの清水本部長は、「Office 365を積極的に展開。販売数は、昨年度(2016年3月期)の倍だ。今後、Windows 10 Mobileの製品が多く登場するため、PC、タブレット端末、スマートフォンでOfficeを利用したいというユーザーは増える」と、10搭載PCの販売と合わせ期待する。
大塚商会も、Office 365を積極的に販売している。高柳課長は、「販売を開始した当初(5年ほど前)は、企業内にサーバーを立てOffice 365を使うケースが多かった。いまは、クラウドサービスで使う要望が増えた。ソフト資産管理の煩雑さから解放され、企業のIT管理者の負担軽減につながっている」と話す。また、8月2日の「Windows 10 Anniversary Update」にある認証機能「Windows Hello」を使った認証端末や、全体的なセキュリティを強化した機能に期待。とくに、IT管理者が不足する中堅・中小企業に響きそうだ。
かつてのOSバージョンアップ時にあった特需を生み出す“お祭り感”は販売側にはないが、クラウドの進展と相まって、新しいワークスタイルの提案材料として、10搭載のPCなどの端末が新しいソリューション提案に使える。
10端末へデータ移行を丸ごとサポート
モバイルのセキュリティ強化
Windows 10搭載のPCに移行する際に使えるサードパーティのソフトが揃ってきた。AOSデータは、マイクロソフトと協業し、Windows PCのアプリやファイル、フォルダ、メール、各種設定などをまとめて10に移動できるデータ移行ツール「ファイナルパソコン引越し Win 10特別版」を提供している。
XPから7に移行する際は、マイクロソフト標準の「Windows転送ツール」が使えたが、サポートが終了したため、10への移行では使えない。AOSデータは、個人利用版に加え、大量にリプレイスできるエンタープライズ版を出し、「ワンクリックでまとめて10に移行できる」と、10への移行をサポートする。
ワンビは、ワークスタイルが変わり社外に持ち出すPCが増えることに備えたソフトを多数提供している。一つは、遠隔消去ソフト「TRUSTDELETE Biz」。誤って外出先でPCを紛失しても、遠隔でPC内のデータを完全に消去できるほか、GPSを使って紛失したPCを探し出す。電源が切れている状態でも動作する。
もう一つは、モバイル監視ソフト「OneBeUNO」。病院や倉庫など使用範囲が限られる持ち出し禁止のタブレット端末にインストールするセキュリティ製品で、利用ポリシーに反して不正に利用したり持ち出すと強制的に稼働をシャットダウンする。両製品とも、10の移行時にワークスタイルを変えようと、持ち出しPCを増やす計画のある企業に提案できる。
MDMシステムを提供するアイキューブドシステムズは、日本マイクロソフトと協業し、同社MDM サービス「CLOMO MDM」の Windows 対応を強化した。基幹システムに近い業務など、10搭載PCの普及で拡大が予想されるモバイル活用シーンのセキュリティをサポートする。
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