2016年が終わり、中国では現在、旧正月(春節)の節目を迎えている。経済成長の減速傾向が目立つ中国だが、この1年間、日系ITベンダーのビジネスはどのように推移したのか。BCN上海支局では、中国の主要な日系ITベンダーを対象に、16年度(1~12月)の中国ビジネス動向についてアンケート調査を実施した。本特集では、ここで得られた結果をレポートし、日系ITベンダーの最新状況を伝える。(取材・文/真鍋 武)
今回、BCN上海支局(商業計算機新聞社上海支局)では、上海と北京を中心に、中国に現地法人を有する日系ITベンダー44社(総合ICTベンダー、SIer、ISV)を対象に調査を行った。各社は総じてSI・ITサービスやプロダクト販売などの中国国内向けビジネスを手がけており、このうちの28社については、日本向けオフショア開発ビジネスも展開している。なお、BCN上海支局が通年のビジネス動向を調査したのは、昨年に続いて2回目となる。
減速成長の傾向が顕著に
まず、日系ITベンダーの業績はどのように推移したのか。本調査の結果、16年度(16年12月期※中国企業はすべて決算期が12月)の売上高が前年度比で増加した企業は71.1%に達したことがわかった。成長の要因としては、「中国国内向けの販売事業が伸長した」「自社製品の認知度が向上した」などの回答がみられた。
ただし、売上高が2ケタ以上の成長を示したのは全体の40.0%だった。これは、昨年調査を6.0ポイント下回る数値。中国の日系ITベンダーでは、売上高の目標値に「2ケタ成長」を設定していることが多く(日本本社と比べて事業規模が小さく、設立から多くの年月を経ていない企業が多いため)、この基準値を達成できたのは全体の4割程度だったことになる。
また、マイナス成長した企業は24.4%だった。要因はさまざまだが、なかには「中国国内での顧客対象のIT投資控え」「オフショア事業の縮小」などの回答があった。
中国工業和信息化部(工信部)によると、中国ソフトウェア・情報技術サービス産業における16年1~12月の市場規模は前年比14.9%増の4兆9000億元。この数値を市場平均と仮定した場合、日系ITベンダーの66.6%(売上高の成長率が15%未満、マイナス成長の合計)程度は、平均以下の成長率にとどまっていることになる。これらを考慮すれば、日系ITベンダーの売上高は減速成長の傾向にあるといえる。
続いて、日系ITベンダーの利益率はどう推移したのか。16年度の経常利益率について、「利益がある」と回答したのは全体の68.1%だった。昨年の調査結果と比較しても、この状況は大きく変わっていない。
ただし、内訳には多少の変化がみられる。経常利益率が「0%~10%未満」の企業は比較的多く、回答割合は昨年とほぼ同じだが、このうち「5%以上~10%未満の成長」が昨年から10.7%増加している。つまり、経常利益率に改善がみられる。売上高が減速成長の傾向にあるなか、中国市場で経験を積んだ日系ITベンダーは、利益を確保するための体制構築に力を注いだようだ。実際、利益がある企業では、「日本人駐在員数の調整」「人員体制の見直し」や「生産性向上によるコスト削減」をその要因に挙げるケースが多い。一方、利益がない企業では、「新規投資の拡大」「オフショア事業の見直し」などの要因が挙げられた。
日系依存体質は変わらず
日系ITベンダーの売上高が中国IT市場全体の成長率と比べて伸び悩んでいるのは、ほとんどのベンダーが地場市場にリーチできていないからだ。この構図は、昨年の調査結果からまったく変わっていない。依然として、現地の日系企業マーケットに依存している。
16年に獲得した新規顧客に占める日系企業の割合では、「70%以上」の回答が過半数を占めた。「50%以上~70%未満」と合算すると、全体の75.0%に達する。非日系企業の開拓を前向きに捉えるベンダーは増えているものの、その多くが思うような成果を上げられずにいるのが実情だ。
では、日系ITベンダーがこぞってしのぎを削り合っている中国の日系企業マーケットでは、どのようなIT投資の傾向がみられるのか。この質問では52.3%が「IT投資は横ばいの傾向にある」と回答している。要因としては、「大規模案件が一巡してしまった」「経済減速に伴い投資に慎重姿勢を示している」などの意見ある。一方、IT投資が「減少傾向にある」は29.5%で、「増加傾向にある」は15.9%。ひと口に日系企業といっても、業種業態によってIT投資の傾向に濃淡はあるが、全体でじり貧の状況にあるようだ。そして、ほとんどの日系ITベンダーは、この市場を主戦場としていることになる。日系企業自体が中国で成長しなければ、日系ITベンダーの成長余地も限られる。
ただし、日系企業マーケットでは、「IT投資の金額は伸び悩みつつも、投資の中身が変わっている」という見方が強い。当該市場で生き抜くためには、従来とは異なる角度からの提案が求められるようになっている。
「16年にユーザー企業から多く寄せられたニーズ」の設問では、セキュリティに関する回答が多くみられた。内部統制やコンプライアンスの観点から、日本本社や中国の統括会社が主導する案件の引き合いが旺盛のようだ。
コスト削減に関する回答も多い。業績が伸び悩む企業では、生産性向上や予算削減につながるIT活用の期待が高まっているようだ。
世界的なトレンドであるIoTに関するニーズも高まっている。とくに製造業をターゲットとしている日系ITベンダーでは、IoT関連の回答が多くみられた。製造業の高度化を目指す「中国製造2025」などの政策でもIoTなどの「次世代情報技術」は重要項目に指定されており、対策を迫られる企業が増加している。また、中国独自のニーズとして、今や社会インフラになりつつある「微信(Wechat)との連携案件」が挙げられた。
非日系ビジネスの姿勢に変化
現在の日系マーケットについて、ITベンダーはどう認識しているのだろうか。これについて、「開拓余地が小さい」と回答した企業は全体の54.5%、「ベンダー間の競争が激しい」との回答は75.0%におよんだ。IT投資の傾向も踏まえれば、この市場で成長していくことは簡単ではないといえる。
詳細にみても、「開拓余地は小さく、ITベンダー間の競争は激しい」が38.6%と最多であるのに対して、「開拓余地は大きく、ITベンダー間の競争はあまりない」は6.8%と極端に少ない。日系マーケットの今後について、多くのベンダーは楽観視していない状況がうかがえる。それでも、日系ITベンダーが“日本式”の経営や要件でもっとも優位性を発揮できるのはこの市場であり、決して軽視することはできない。厳しい競争が続くことになる。
ただし、持続的に成長するための大きな課題は、非日系企業をどう開拓していくかだ。非日系企業向けビジネスに対する意欲では、「主要ターゲットとして提案していく」との回答が55.3%を占めた。中国市場の大部分を占めているため、欧米系企業よりも、ローカル企業をターゲットとしている企業が多い。
また、非日系企業向けビジネスに対する意欲では、興味深い傾向もみて取れる。昨年の調査では、「日系企業が主要ターゲットで、非日系企業は案件があれば手がける」の回答が全体の28%あったが、今回調査では6.7ポイント減少。その一方で、「ローカル企業を主要ターゲットとして提案していく」が13.9ポイント、「非日系企業向けの提案は精力的にはやらない」は5.1ポイント増えている。これは、中国ビジネスの戦略を見直し、ターゲット層の位置づけを明確化した日系ITベンダーが増えたものと考えられる。これまでの経験で、「案件があれば手がける」という中途半端な姿勢では、非日系市場を簡単には開拓できないということを体験し、自社の強みを生かせる領域や成長方針を定義し直したものとみられる。
ただし、非日系ビジネスに意欲を示すITベンダーは多いが、成功している企業はごく少数。とくにローカル企業をターゲットとする場合には、中国の商慣習・文化、法規制やIT関連ライセンス、現地企業とのパートナーシップ構築などの壁がある。今回、調査を実施したITベンダーでは、とくに現地企業とのパートナーシップ構築に課題を抱えている企業が多く、「パートナーのビジネス変革のスピードが速い一方で、本社から中国にもちこんだ自社製品は変化に対応する速度が遅く、パートナーの要望に追いつかない事が多い」という回答もみられた。課題は多く、非日系企業向けビジネスは、長期的な視野をもって実績を積み重ねていくしかないようだ。
オフショア開発は継続傾向
日系ITベンダーの中国ビジネスの屋台骨のもう一つは、日本向けオフショア開発だ。16年は円高元安が進んだ関係で、ここ2年間の最大の懸念となっていた為替レートの不安は解消されたが、中国国内の人件費は依然高騰している。
16年通期のオフショア開発の受注量(開発量)については、60.6%が「増加した」と回答した。日本国内のIT技術者不足が慢性化していることもあり、安定してリソースを確保できる中国の魅力は健在のようだ。
ただし、開発量が10%以上増えたITベンダーは16.6%にとどまり、昨年の調査から13.2ポイント減っている。根強いニーズがあるといえども、開発のボリュームが大きく伸びているわけではない。
また、開発量が減少しているITベンダーが32.1%ある点も見過ごすことができない。伸びているITベンダーとそうでないITベンダーとで色が分かれていることから、安定したニーズとコスト負担の増大の狭間で、オフショア開発の位置づけを見直す企業が増えている印象を受ける。IT技術者の平均人月単価の前年度比上昇率については、53.6%が「10%程度の上昇」と回答している。
17年の日本向けオフショア事業については、「拡大していく」が39.3%と最多。次いで、「現状を維持する」が35.7%で、「縮小していく」は21.4%ともっとも少なかった。コスト負担が増えつつも、人材リソースや技術力などの観点から、他の地域では簡単に中国を代替できない状況に変わりはない。拡大していくと回答したITベンダーでは、「中国人の技術力の高さに期待が増している」という意見もみられる。
その一方、日本向けオフショア事業から撤退するITベンダーが増えているのも事実だ。とくに小規模の開発リソースしか有していないITベンダーでは、競合他社と比べてオフショア開発の優位性が発揮しにくい状況になっている。撤退にあたっては、東南アジアなどの他国に移管する動きもあるが、現地の開発会社に人材リソースを含めて事業譲渡する動きが顕著にみられる。経験を積んだ技術者を含めて、まるごと内資企業に任せることで、固定費を抱えずに柔軟に外注できる体制に移行しようとしている。
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