日系ITベンダーの2017年 NEC(中国) 吉田直樹 総裁“街”づくりへの貢献
難攻不落の中国市場。日系ITベンダーは、この市場をどう認識し、どのように事業拡大を図ろうとしているのか。新春特別インタビューとして、NEC中国総代表、NEC(中国)総裁を務める吉田直樹氏に、現在の事業戦略と今後の展望について話を聞いた。
――現在、NEC(中国)はどのような戦略で事業拡大を図っているのでしょうか。
吉田 当社グループでは、グローバル戦略として、ITを活用した社会インフラの高度化への貢献に力を注いでいます。そのなかでも、とくにセキュリティ、通信インフラ、リテールの三つが主要分野です。このグローバル戦略にもとづいて、いかに中華圏で貢献していくのか、という方向性で事業を推進しています。
――以前から、とくに顔認証などのセキュリティ領域を熱心にアピールしておられますが、近況を教えてください。
吉田 セキュリティは重要な領域で、顔認証などの技術をうまく応用して、どの領域で事業を拡大できるのか、という観点で継続して力を注いでいます。ただし、以前よりも競争環境は厳しくなりまして、この領域に参入する中国企業が増えているのも事実です。顔認証には技術的な段階がありまして、1対1認証(1台で1人を認証すること)は比較的簡単で、中国企業でもどんどんできるようになってきています。
それでも、1対nの認証、それも複数の顔を動いている状態で認証する技術は非常に高度で、簡単ではありません。一方、当社はこれに対応する世界的な技術レベルを有しています。
さらに、ただ技術を売るのではなく、社会インフラに応用して、これをソリューションに仕立てて拡販することに取り組んでいます。重要な顧客対象として空港を開拓していますが、例えば、イミグレーション時の用途だけでなく、飛行機への搭乗時の本人確認を自動化するシステムなどもお客様に紹介しています。すでに、テスト運用を実施している案件も出ています。
――もう少し詳しく教えてください。
吉田 多くの空港では、搭乗時に機械を通してチケットを確認しますね。ここでは、乗った人数と、誰が乗ったかを確認しています。ところが、本当にチケットの情報にある本人が搭乗したのかという確認については、その機械ではできていなくて、人手でパスポートを照らし合わせて行っている。そこで、せっかく機械を使っているのだったら、例えば、そのなかに顔認証の情報を入れてしまえば、人手で確認するよりも正確で効率的にチェックできるというわけです。そして、これを一連の作業のなかに組み込んで、どこかで認証してしまえば、本人確認はどこでも行えますし、応用も可能です。チケットを発券して、イミグレーションを通って、荷物検査をして、ショッピングをして、搭乗ゲートに行くまでに、どこで何分の時間を使ったのかということを、測定できるようになります。
ですので、まずは認証システムを採用してもらい、将来的にはプラスアルファのサービスを導入していく方向性で、全体像を示しながら提案をしています。中国の空港は、新たな整備や強化が次々と進められていて、「第13次5か年計画」でも重要な国家戦略となっています。とくに頑張りたい領域ですね。
――吉田さんは海外ビジネス経験が豊富ですが、昨年4月に現職に就かれてから、中国IT市場をどのように捉えていますか。
吉田 私個人としては、国によってそれぞれ難しさがあると思っているので、中国に特別な難しさがあるとは感じてはいません。
その一方で、中国には三つの特徴があると感じています。一つは、非常に大きなマーケットだということ。弊社では“One to Many”と呼んでいますが、あるシステムをつくって、一度うまく開拓していけば、それを同時並行的に他の領域にも展開していける。そのための中国向けソリューションをつくる価値がある市場だと思っています。
二つめは、アプリケーションやサービスの領域が非常に多彩だということ。今でこそあたりまえになっていますが、「支付宝」や「滴滴出行」、最近では「摩拜単車(Mobike)」など、新たなサービスが次々生まれていて、なかには失敗するものもありますが、そのうちのいくつかは成功している。それも、非常に大きくです。そして、こうしたサービスはITが絡むものが多い。こうした企業を積極的にサポートしたいところです。
三つめは、市場変化のスピードが速いこと。これは国民性もあるのでしょうが、完成度が高くないものでも、どんどん世に出して、実際のフィールドで試していく傾向が顕著です。完璧なものを提供しようとすると、それができたときには、すでに市場に同じようなものが提供されている。当社もこのスピード感を学んでいかなければなりません。
――今後の抱負について聞かせてください。
吉田 社会インフラ系に注力していますので、空港や鉄道、学校など、多くの人が集まる“街”づくりを支援していきたい。例えば、空港はただ人を運ぶだけでなくて、いろんな商品を販売したりサービスを提供する一つの“街”になっています。そして、“街”を支えるには、一つのシステムだけでは足りません。多様なサービスを複合的に提供していく必要があります。
数値的には、早急に中華圏での売上高を4ケタ億円にもっていくことが目標です。それでも、中国の市場の大きさを考えれば、4ケタに乗るだけではまだ小さすぎる。そこからいかに広げていくかが大事です。
記者の眼
今回の調査で、昨年と大きく変わったことがある。それは、調査対象だ。回答企業総数が50社から44社に減っている。これには理由がある。前回協力してくれた50社のうち数社は、現地法人の清算、活動停止、事業譲渡のいずれかを実施した。そのため、調査対象から外さざるを得なかった。企業数が減少したことを考慮すると、日系ITベンダーの中国ビジネスは、上り調子にあるとはいえない。
今回の調査でも明確になったが、利益を捻出できていない日系ITベンダーは少なくない。現地のマネジメント層では、「次はどのベンダーがつぶれるだろうか」「不必要なベンダーが相当数ある」といった声もある。
じり貧気味にある中国ビジネスを、このままの野放しの状態にしてはいけない。本社とも密に連携して、確固たる戦略をもって臨まなければ、この市場は開拓できないというのが過去から学ぶべき教訓だ。そういう意味では、中国法人のあり方自体を見直す企業が出ていることは、一定の評価に値する。日系ITベンダーの中国ビジネスは、着実に変わりつつある。