AI(人工知能)がブームとなったことにより、ユーザー企業でも導入を検討したいという声がでてくるようになった。ところが、ブームに踊らされているだけで、AIを活用するための戦略がない。AIはまだまだ発展途上。そうなるのも、ムリはない。そうしたなかで注目され始めたのが、RPA(Robotic Process Automation)だ。(取材・文/畔上文昭)
自律ライディングロボット
ヒト型自律ライディングロボット「MOTOBOT」。ヤマハ発動機が開発したバイク(モーターサイクル)を運転するロボットである。ポイントは、バイクに手を加えていないところ。MOTOBOTは、あくまでも人間の代わりとなってバイクを操作する。
近年、自動運転車が注目され、業界の垣根を越えた開発競争が行われている。すでに実用段階にあるが、ITの新技術と同様、既存の資産があるため、普及するまでには時間がかかる。そこで、自動車版のMOTOBOTということになる。手動の自動車はそのままに、あたかも自動運転車になったかのごとく、利用することができる。自動車の買い替え需要を待つ必要がない。
どこを便利にするのか。何を活用するのか。発想が違えば、自動化のレイヤが変わる。MOTOBOTは、自動運転車ブームとは別の視点を与えてくれる。
ヤマハによると、MOTOBOTは研究用として開発したもので、商品化の予定はないという。ロボットは恐怖を感じないため、新たな知見が得られるのではとの期待がある。将来は、先進技術を確立し、商品にフィードバックする考えだ。商品化の予定がないのは、無人の宅配ピザを期待していただけに残念だ。自動運転車では、玄関までの数メートルに対応できない。依頼主にピザを渡すには、ロボットが必要となる。MOTOBOTのような運転ロボットには、そのような夢があってもいい。
人間の代わりとなるRPA
MOTOBOTのようなロボットをソフトウェアで実現する。それが、RPA(Robotic Process Automation)だ。RPAは、人間が行ってきたオペレーションを代わりに担う。MOTOBOTは手を加えていないバイクを運転すると紹介したが、RPAも基本的に既存システムには手を加えない。人の代わりにオペレーションを担うというのは、そういうことだ。
RPAには次のようなメリットがある。24時間365日、変わらぬ作業効率で働く。弱音を吐かず、文句を言わない。決められた作業を正確にこなす。事務フローの変更や法改正に対しても、システムを改修するのではなく、RPA側がオペレーションの変更で吸収する。そして、法令を順守する。不正はしない。
MOTOBOTには柔軟性に限界があると思われるが、汎用的な運転ロボットなら、コースや路面の状況を判断して、運転するはず。RPAは、その動きと同様である。目の前に石が転がっていたら、ハンドルを切ってよければいい。
システム連携を担うRPA
Aシステムの画面に表示される値をBシステムに入力するというようなケース。ここで使うのは、キーボードとマウス。その操作を覚えて、人間の代わりにオペレーションを担うのが、RPAの得意分野だ。AシステムからCSV形式でデータを取得して、Bシステムに渡すのも、同様にRPA向きといえよう。
その意味では、RPAはシステム連携を担うことになる。データの形式が変わっても、追加開発などは不要で、RPA側で吸収できるというメリットもある。
MEMO ライディング都市伝説 ハングオンはバランスを取っているだけ
スピードを出してカーブを曲がる。バイクを少しでも知っていれば、このときにシートから腰をずらして内側に体重をかけ、その体重移動で車体を斜めに倒すイメージがあるはずだ。そのため、車体を斜めに倒すことで、カーブを曲がっていると感じる。
実はそれ、都市伝説である。バイクは体重移動では曲がらない。必要なのは、ハンドル操作のみ。体重移動は、遠心力とのバランスで運転しやすいようにしているだけというわけだ。
ヤマハ発動機によると、モーターサイクル業界では常識とのこと。だが、レーサーがハングオンしている映像を見る限り、なんとも信じがたい。ギリギリまで倒してこそ、スピードに乗ってカーブを曲がれるような気がしてしまう。
そこで、MOTOBOTである。MOTOBOTには体重移動の機能がない。カーブを曲がるときに行うのは、ハンドル操作のみ。2017年中にサーキット場を時速200キロで走ることを目指しているが、時速200キロでもハンドル操作のみ。体重移動で曲がっていた気になっていたが、無意識にハンドルを操作しているのである。
人口減少時代の切り札
アクセンチュア
保科学世
デジタルコンサルティング本部
アクセンチュア・デジタル・ハブ統括
マネジング・ディレクター
人間のオペレーションを代替するとなれば、RPAの導入で、人員の再配置が可能になる。単純なオペレーションは、RPAの得意とするところ。
「2030年には、日本で労働力が1000万人不足するといわれている。外国人に期待する声もあるが、それだけでは埋まらない。ロボティクスとAIを活用する必要がある。幸運にも、日本はAI脅威論よりも、AIを受け入れるムードにある。まずは一般事務でRPAが広がり、裏側の事務作業がAIに変わっていく」と、アクセンチュアの保科学世・デジタルコンサルティング本部アクセンチュア・デジタル・ハブ統括マネジング・ディレクターはRPAやAIの可能性を語る。
単純作業は、RPAやAIに置き換わる。また、専門的でも、弁護士や会計士などのルールベースの業務も、RPAやAIに置き換わっていく。「専門的な仕事でも、ルールが決めやすいものは、膨大な資料の処理を得意とするRPAやAIがやったほうが効果的」と、保科マネジング・ディレクター。RPAやAIが担う範囲は広い。
アクセンチュアは16年11月17日、主要国の経済成長率(ベースラインシナリオ)とAIを活用した場合の経済成長率(AIシナリオ)を発表した(図1)。同調査によると、日本のベースラインシナリオは、35年の経済成長率が0.8%と主要国で最下位なのに対して、AIシナリオでは2.7%としている。約3.5倍、ダントツである。
また、日本の経済規模が倍増するのは、ベースラインシナリオでは10年以降と主要国で最も遅いのに対し、AIシナリオでは55年近辺となり、主要国に並ぶ(図2)。
「日本は、AI活用による伸びしろが一番大きい。日本こそ、AIに取り組むべき。ただ、AIで何をやるのかが、ゴールが曖昧なため、設定が難しい。取り組みやすいのは、業務の自動化。つまり、日本はまず、RPAから取り組んだほうがいい」と、保科マネジング・ディレクターは指摘する。
実は古くからあるRPA
「約2年前から“ロボット”を使うようになった」と語るのは、Cloud Paymentの青木誠・営業推進本部本部長。同社は金融機関と連携し、顧客からの代金回収と入金管理を代行するクラウドサービス「経理のミカタ」を以前から提供しているが、RPAがブームとなってきたことで、“継続請求管理ロボット”を名乗るようになった。同製品は、人間が行っていた代金回収と入金管理を自動化する。いわば、業務特化型RPAである。
インフォテリアのASTERIA事業本部第2営業部の福島良次氏(写真左)、
Cloud Paymentの青木誠・営業推進本部本部長(写真中)、
信興テクノミストのシステムプロデュース本部第1システムプロデュース部の小林涼氏(写真右)。
継続請求管理ロボット「経理のミカタ」とデータ連携ツール
「ASTERIA WARP」によるRPAソリューションを3社の協業により提供を開始した
ほかのITベンダーからも、「当社は10年以上前からRPAに取り組んでいる」という声を聞くことがある。その多くが、業務特化型RPA。ここまで紹介してきた“既存システムのオペレーションを人間の代わりに担う”RPAとは、汎用性の面で判断すると、単なるシステム化ともいえる。
それを意識しているわけではないだろうが、Cloud Paymentでは経理のミカタが担う自動化の範囲を広げ、例えば販売管理システムにデータを入力しただけで、請求から決済まですべて自動化する取り組みを進めている。連携できるシステムを広げることで、より汎用的なRPAを目指すというわけだ。それがかたちになったのが、Cloud Paymentとインフォテリア、信興テクノミストの協業により提供を開始したRPAソリューションである。
AIで浮上したRPA
ではなぜ、今になってRPAが注目されるようになったのか。答えの一つは、AIにある。
「注目キーワードとなったことから、AIに取り組みたいという問い合わせが増えた。ところが、多くの場合、オペレーションの自動化で十分に対応できる。それがRPAだったということ」と、アクセンチュアの保科マネジング・ディレクター。日本IBMの田村直也・グローバル・ビジネス・サービス事業コグニティブ・ビジネス・プロセス・サービス事業部アソシエート・パートナーも、「RPAは新しい技術ではない。ただ、ここにきてRPAのツールが増えたことから、認知度が広がった。AIも後押ししていて、AIを考えたらRPAに至ったというケースもある」と語る。
AIブームによって、浮上したのがRPAという構図である。人間の代わりを担うという点でも、RPAは多くの人が抱くAIのイメージに近いのかもしれない。
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