RPAとAIで「人ロ知能」
AIによって浮上したRPA。一方、AIにとってもRPAは重要な立ち位置にある。というのも、業務システムにAIを投資するのは簡単ではないからだ。
「SIerは一般的に、AIのエンジン自体を開発するのではなく、すでに提供されているものを活用する。当社でもAIをどう活用するべきかの研究に取り組んできていて、一部では業務システムのコンポーネントとして、AIを組み込み始めている。だが、まだ簡単ではない」と、SCSKの嶋田基史・R&Dセンター技術開発部長は現状を語る。
SCSKの野田和之・金融システム事業部門金融システム第二事業本部保険システム第四部長(写真左)、
嶋田基史・R&Dセンター技術開発部長
SCSKは、損害保険会社の損害調査システムで実証実験を行うなど、AIの活用に取り組んできている。「金融機関のリスク分析は、AIに結びつきやすい。リスク管理の延長として、すでに実用化レベルにある」と、野田和之・金融システム事業部門金融システム第二事業本部保険システム第四部長はみている。今後は、AIによる金利動向の分析に連動した金融商品など、活用範囲の拡大が期待されている。
金融機関以外でも、「ユーザーニーズは確実にある」と、嶋田部長。ただ、現時点のAIは部分的な機能に特化しているため、業務システム全体に適用するのは非常に難しい。
そこで、RPAである。RPAを活用すれば、一か所にAIを搭載するだけで済む。既存のシステムにAIを適用するのではなく、オペレーション側を賢くするというわけだ。AIとRPAの交差点が「RPAI」であり、人工知能とロボットでもあることから「人ロ知能(じんろちのう)」となる。AIで注目されるようになったRPAは、AIをいち早く活用するソリューションになるということである。
AIプラットフォームの「IBM Watson」も、RPAとともに活用されるケースがある。例えば、コールセンター。顧客からの問い合わせに対し、苦情なのか、確認なのか、または届出なのかといったことをWatsonが判断して、関係部門に転送する。内容によっては、人間が介在することなく、RPAによって処理が完了する。
「金融機関の口座開設においても、顧客属性やオープンデータなどをベースに適切かどうかの判断をWatsonに任せるということが考えられる」と、日本IBMの田村アソシエート・パートナーは活用範囲の広さを説明する。RPAIの可能性は大きい。
紙のデータ化にRPAI
日本IBM
田村直也
グローバル・ビジネス・
サービス事業
コグニティブ・ビジネス・
プロセス・サービス事業部
アソシエート・パートナー
RPAの活用例として、紙の情報を画面に入力するオペレーションがある。金融機関では口座開設などで手書きの情報を取り扱うことが多く、これまでは、その入力をアウトソーシング(BPO)してきた。それが、AIの画像認識能力が向上したことから、OCRで読み込んだ画像データから文字を認識して、データ入力まで行うという活用が想定される。
「まだ識字率が100%にはなっていない。最終的には人間のチェックが必要になる。紙からデータの入力までで、60%以上の正確性があれば実用レベルだが、それ以下なら人間がやったほうがいい」と、日本IBMの田村アソシエート・パートナー。経費精算に使う領収書など、不定型の用紙においても、AI技術の向上で処理能力が上がっている。
RPAのこれまでとこれから
ここで、RPAのこれまでとこれからを図3で整理したい。レベル1が「作業の自動化」。Excelのマクロやバッチ処理が、ここに該当する。次にレベル2は、「一連のプロセスを自動化」するRPAである。現在のブームはここにある。レベル3が「高度なデータ解析を伴う業務の自動化」である。アナリティクスやAIを活用した自動化が該当する。
「需要予測にもとづいて発注する。ビッグデータを入手し、自動的に解析する。そういったステージになる。すでに、チェーン店の運営において、需要予測をベースに商品を自動的に発注するという事例がある。店長が決めるのではなく、コンピュータが自動的に発注するため、商品が店舗に自動的に届けられる。このことにより、欠品率を下げ、在庫も減るという効果が出ている。ただ、RPAはこのレベル3までにはまだ到達していないが、ここからが重要となる。ビジネス拡大に貢献するRPAとなるからだ。レベル2では自動化は進むが、売り上げは伸びない」と、アクセンチュアの保科マネジング・ディレクターはレベル3を目指すことの重要性を説明する。
そして、レベル4が「人間の認知機能をも代替する高度な自動化」。RPAIの完成形である。AIの導入を検討する企業は、レベル4をイメージしているケースが多いという。多くはレベル2のRPAで代替できるのかもしれないが、IT業界としてはレベル4を目指すべきだろう。
RPAは“つなぎ役”?
RPA、そしてRPAIへと、ここまで解説してきたが、RPAはつなぎ役との見方もある。「例えば、銀行口座の開設が、すべてインターネットのみの受け付けとなれば、手書きが不要になり、データ連携が容易になる。その場合、RPAは不要になるだろう。ただ、紙は当分の間、なくならない」と、田村アソシエート・パートナーは、つなぎ役としつつ、しばらくは必要とされるとみている。
システム連携においても、API連携が広く普及し、扱いやすくなることで、RPAの利用が不要になるかもしれない。ただ、それも時間がかかりそうだ。
MOTOBOTも、自動運転バイクが普及するまでのつなぎ役といえなくもない。ただし、バイクの魅力は運転するところにある。人間が、それを簡単に放棄するとは考えにくい。
2017.1 RPA 動静
リコージャパン
接業務の効率化と人材の有効活用に向けて、RPAでオフィスの定型業務を自動化。4月から外販開始。 1月30日
PwCコンサルティング
クラウド型ERPパッケージとRPAを組み合わせ、企業のビジネスプロセスの最適化を支援。経営者の意思決定に必要な情報の有効性を高め、ビジネスを加速。 1月26日
日本RPA協会
RPA活用の一次相談窓口「RPAクリニック」を開始。RPAの活用を検討している企業・団体へ向け専門家によるクリニックと事例情報を提供。
1月26日
【事例】住宅ローン専門金融機関ARUHI
住宅ローン申込書の記入項目がRPAの活用により最大50%減に。借入申込書に関し、記入項目を減らした自社専用フォーマットは日本初。
1月23日
NTTデータ
RPAソリューションの推進チームを発足。RPAの導入から運用までトータルでのサポート力を強化し、パソコン業務の自動化・効率化を促進。
1月23日
アクセンチュア
ブループリズムと協業し、RPAソリューションを提供企業の業績向上、従業員および顧客エクスペリエンス向上を支援。
1月19日