PaaSを活用したシステム開発ニーズが高まっている。開発サイクルの大幅な高速化やAPI連携、デリバリー/運用の自動化が容易に実現できるからだ。成長領域とされるSoE(価値創出型システム)との親和性も高い。SIerやITベンダーがPaaSをどのように活用しているのかを追った。(取材・文/安藤章司)
PaaS活用の最前線を追う
富士通は昨年、ある大手流通・小売りユーザーから「クリスマス商戦までにこのAPIを公開してほしい」との依頼を受けた。年末商戦までに残された期間は約2か月。通常なら間に合わない納期だが、富士通のクラウドサービス「K5」に実装されている「PaaS」機能や「API Management(API管理)」機能を駆使することで、「実質1か月半でAPIを公開できた」(富士通の大杉基之・アプリケーション開発技術統括部シニアマネージャー)という。
富士通の川合康太シニアマネージャ(左)、大杉基之シニアマネージャー
今、SIerやITベンダーが積極的にPaaSを活用したSIに乗り出している。PaaSを使えば、富士通が「従来は不可能だった納期を可能にした」ように、これまでできなかったことができるようになるからだ。厳密には、すべてを手組みでつくっても実現できるが、時間がかかりすぎたり、変化適応の能力に欠けるとの判断からPaaSを使うシーンが増えている。
PaaSは、IaaSとSaaSの中間に位置し、さまざまなミドルウェアを実装している。IaaSは仮想サーバーを中心とする比較的単純なサービスであるのに対し、PaaSはデータベースやITリソースの制御、拡張、アプリケーションの実行環境といったさまざまなミドルウェアを実装している。IaaSよりもシステム構築の自由度は低いが、純粋なアプリケーションサービスであるSaaSよりも、遥かに高いのがPaaSの特徴である。
PaaSは乱立気味
主なPaaSとしては、OSS(オープンソースソフト)系の「Cloud Foundry(クラウドファンドリー)」や「OpenShift(オープンシフト)」、IBMの「Bluemix」、SAPの「HANA Cloud Platform」、富士通の「K5」、Pivotalの「Pivotal Cloud Foundry」、アマゾンの「Amazon Web Services(AWS)」、マイクロソフトの「Azure」、NTTコミュニケーションズの「Enterprise Cloud」などがある(図1参照)。Cloud Foundry開発コミュニティの中核メンバーであるIBMやPivotal、SAP、NTTコミュニケーションズなどは、自社のPaaSの一部にCloud Foundryを採用している。
SIの現場では、AWSやAzure、Bluemix、HANA Cloud、K5などベンダーのPaaSをそのまま使うケースもあれば、SIerやITベンダーが自社で運営するデータセンター(DC)や、顧客のDCにOSS系のCloud FoundryやOpenShiftの環境を独自に構築するケースも少なくない。Cloud FoundryやOpenShiftといったオープンなアーキテクチャを取り入れているとはいえ、パブリックなPaaSは、互換性は限られていて、実態としてはPaaS環境は乱立気味である。
各PaaSにはそれぞれ特徴があり、SAPのHANA Cloudはその名の通り、インメモリ方式のデータベースのHANAを採用。また、K5は「さまざまな業種・業務に最適化したPaaS開発」(富士通の川合康太・ビジネスプラットフォームサービス部シニアマネージャ)に取り組んでいる。どのPaaSを、どの案件に適用するのかは、SIerやITベンダーの知見やノウハウによって、その都度、判断していくことになる。
SoEと相性がいいPaaS
PaaS活用が進んでいる背景には、ITシステムの変化――とりわけSoE領域の拡大があげられる。SoEはSoR(基幹系システム)の対義語であり、開発や運用の側面からみると、前者は一般的に開発サイクルが短く、後者は長いという特性がある。さらにSoE領域は、APIで外部のサービスと連携することが多く、迅速かつ柔軟に機能を拡張する取り組みが盛んに行われるなど、開発サイクルが長い基幹系システムとは設計思想が大きく異なる。開発サイクルが短いSoEと、非常に相性がいいプラットフォームがPaaSである。
実際、IBMの基幹系ITインフラの代表格であるz(メインフレーム)やAIX(旧RS/6000系)、IBM i(旧AS/400系)で構築したシステムは、Bluemix上で動かせるアーキテクチャにはなっていない。SAPのABAP(アバップ)で構築されている従来型ERPも、JavaベースのHANA Cloudでそのまま動かせるわけではない。むしろ、基幹系はオンプレミスやIaaSなどで動かし、これと連携するかたちでBluemixやHANA Cloudを活用し、SoE領域を拡張していくイメージを思い浮かべると分かりやすい。
ファストとスローのIT
PaaS活用に詳しいアクセンチュアの篠原淳・アジア・パシフィック統括マネジング・ディレクターは、「SoRとSoEは、スローITとファストITに置き換えて考えることもできる」と話している。開発サイクルの違いを指摘したもので、大がかりな基幹系システムが仮に年1回の更改だとしたら、SoE領域は毎月更改、あるいは毎週のように新しいバージョンをリリースするくらい開発サイクルが早い。
アクセンチュアの篠原淳マネジング・ディレクター(右)、福垣内孝造シニア・プリンシパル
見方を変えれば、ファストITの開発サイクルを回していくためにはPaaS活用が最も合理的な選択である。無理にスローITと一体化させるのではなく、ファストITとスローITを同居させる「マルチスピードIT」が理想的だ。SoRのスローITを維持しつつ、その一方で、PaaS上でDevOps(デブオプス)やCI/CD(継続的構築/継続的デリバリー)といったファストITを回していく新しい開発手法を積極的に採用するイメージである(図2参照)。
開発サイクルの早さは、すなわち「変化に適応する能力が高い」(アクセンチュアの福垣内孝造・クラウドソリューションアーキテクトシニア・プリンシパル)ことを意味しており、SoE領域でとくに求められる能力となる。次ページからはPaaS活用の実態をさらに掘り下げてレポートする。
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