Special Feature
アジア市場を狙う国産ベンダーの理想郷!?あなたの知らない沖縄ITの世界
2017/03/15 09:00
週刊BCN 2017年03月06日vol.1668掲載
沖縄データセンターの挑戦 ゆいまーるクラウドを知っているか 公設民営「沖縄情報通信センター」発のサービスが始動
「おきなわ Smart Hub 構想」の中核事業として整備された公設民営型のDCの正式名称は、「沖縄情報通信センター」という。沖縄データセンターが指定管理者を務め、運営にあたっている。同社は、県内最大のSIerであるオーシーシー、有力地銀の琉球銀行、沖縄銀行それぞれのSI子会社であるリウコム、おきぎんエス・ピー・オー、沖縄電力子会社の沖電グローバルシステムズの4社が中心となって、この事業のために設立した「オール沖縄」的色彩の濃い企業だ。
沖縄情報通信センター
山城英正
営業部
部長
15年6月にハウジングサービスを、同9月にクラウドサービスを開始したが、現在は、県内案件を中心にハウジングの顧客獲得が先行しており、予約分を含め、50ラックが埋まった状況だという。山城英正・営業部部長は、「ハウジングもまだまだ顧客開拓していかなければならないが、上限で200ラックしかないので、どんなに頑張っても売上規模は3億円、付帯業務を入れて4億円程度。売り上げの大部分を支えていかなければならないのはクラウドサービス、バックアップだと考えている。まずは4年~5年で8億~10億円を売り上げたい」と展望を語る。
しかし、IaaSはコモディティ化しつつある領域だ。中小規模の新規参入プレイヤーが、AWSやAzureなど、グローバル大手のサービスと伍して戦うのが現実的だとは思えない。山城部長も、「単価下げ合戦ではとてもじゃないが彼らには勝てない」としたうえで、「当社が強みとして打ち出したいのは、データが間違いなくここにあると謳えること。AWSのように世界中にバックアップされることを歓迎しない使われ方もある」と戦略を説明する。具体的には、国内企業のEコマースや民間企業の社内基幹システムも有力な用途だが、「本命は政府系や自治体、金融、医療分野のお客様。そのためにFISC基準の第三者認証も取った。全産業がユーザーの対象ではあるが、自然と顧客層が絞り込まれていく可能性が高い」(山城部長)という。一方で山城部長は、「日本のDCの6割、7割が首都圏に集まっている状況で大災害が起こった場合のリスクを考えれば、日本の安全、経済を守るBCP対策という意味で、バックアップ需要もかなり広く取り込めると思っている」とも話す。沖縄情報通信センターの立地は、国産データセンター事業者に対してもメリットになると考えているようだ。「本土と同時被災するリスクが少ないことに加え、(これも前頁で説明した)沖縄クラウドネットワーク、沖縄国際情報通信ネットワークの整備により、県内の他のDCやIT津梁パークとシームレスにつながる利便性もセールスポイント。さらに、中国や東南アジアに進出した場合も、カントリーリスクなしにセキュアでハイパフォーマンスなクラウド環境を利用できる。アジアに出て行く人たちは、東京にDCを置くより沖縄のほうが絶対に便利だ」(山城部長)。
販路としては、沖縄データセンター設立に中心的な役割を果たした前述の4社が、プラチナパートナーとして、SIやBPO込みで県内案件を開拓する。一方、県外案件は沖縄データセンターの直販営業部隊や、アライアンスパートナーの兼松エレクトロニクスが顧客開拓するのが基本的なかたちだ。場合によっては、NEC、NTTデータ、伊藤忠テクノソリューションズなど、協力関係にある大手ベンダーが案件を紹介してくれるパターンも出てきているという。とはいえ、営業の現場では認知度不足を痛感する場面が少なくないという。パートナー網の拡充、とくに最もライトなパートナー区分であり、自社サービスのインフラとしてゆいまーるクラウドを活用、再販してもらう「ゆいまーるパートナー」の開拓は拡販に大きな効果がありそうだが……。
沖縄IT津梁パークの躍動 多彩なベンダーが成長の拠点として活用
●リモートエンハンスに活路 沖縄ソフトウェアセンターうるま市・中城湾の埋め立て地に、IT産業の集積拠点として建設された「沖縄IT津梁パーク」は、沖縄通信センターと並び、沖縄県のIT産業育成施策の象徴ともいえる施設だ。09年に中核機能支援施設A棟が完成して以降、年々施設が増設され、入居企業も順調に増えている。さまざまな業態のITベンダーが、この“器”を有効に活用し、自らのビジネスを成長させようと奮闘している。

沖縄IT津梁パークの中核機能支援施設
沖縄ソフトウェアセンター
宮城義人
常務
沖縄ソフトウェアセンター
饒平名知寛
社長
●沖縄から市場の先端を攻めるレキサス
一方、レキサスもIT津梁パークに本社を置くITベンダーだが、OSCとはまったく異なるキャラクターをもつ。もともとは受託開発企業として創業したが、近年では、結婚式場向けのオンラインアルバムサービスや、ペット業界向けのクラウド型顧客/会計管理システム、リハビリ事業者向けのリハビリ支援モバイルアプリなど、さまざまな自社クラウドアプリケーションの開発・販売に力を入れている。直近では、AIを活用した自社アプリケーションのUX向上にも取り組んでおり、エヌビディアのAIスタートアップ支援プログラム「Inception Program」のパートナー企業にも認定されている。
さらには、AWSやkintoneパートナーとしてのクラウドインテグレーションにも注力しており、SAPジャパンと連携し、沖縄で「SAP HANA」「SAP HANA Cloud Platform」の開発者コミュニティも立ち上げた。IoTにもフォーカスしていて、ソラコム、ブレイブリッジとの協業により、IoTサービスの企画設計から、デバイス開発、ネットワークサービス、アプリケーション開発、UXデザインまでを含む網羅的な提案ができるようになっているという。
レキサス
常盤木龍治
エバンジェリスト
Iターン人材は、沖縄の自然環境に惹かれて集まってくる人がほとんどだという。常磐木氏は、「集中と弛緩を最適なバランスで繰り返すことができる環境がある。ITは極めてハイストレスなビジネス。リゾートのなかにいながら仕事をして、一日が終われば地元の缶ビールをプシュッと開けてすべてから解放される。これは労働環境としては究極の差異化だ」と説明する。一方で、「首都圏のITベンダーで働いていた人が沖縄に帰ろうと思ったときに、給与体系や仕事のレベル感で満足できる県内ベンダーは限られているのが実情で、当社はその受け皿になり得る」ことが、Uターン人材の獲得にもつながっているとの見解を示す。
また、同社の顧客は全国に存在するが、「この3年ほどで、フェース・トゥ・フェースでなくても十分なコミュニケーションを取れる環境が整ってきたし、ITビジネスはそれを最も有効に活用できる分野で、レキサスはその優位性を存分に生かしている」とのことで、沖縄県に立地していることがハンデにはならないという。同社の従業員、スタッフも、国内外でリモートワークをしているケースが少なくない。
「当社は理念主義なので、純粋な目の前のKPIよりも夢を追いかけたい人が集う場所。いい意味で沖縄の受託開発文化に染まっていないし、沖縄の魅力を発信している企業だと思っている」と話す常磐木氏。優秀な人材の確保と企業の成長の良好な循環ができつつあるという手応えを感じているようだ。
独自の成長を模索する注目の県内ベンダー
●ODNソリューション クレジットソリューションに絶対的な強みODNソリューションの佐和田恵英社長は、沖縄県情報産業協会の副会長を務めており、同社は沖縄県内情報サービス業界の重鎮だが、県外案件(首都圏、福岡県など)を元請け受注して安定した成長を続けてきたという意味で、独特な存在だ。
佐和田恵英
社長
ただし、昨今はFinTechの流れもあり、金融機関の基幹系システムと、顧客接点となるフロントアプリケーションの連携ソリューションなどのニーズも出てきている。佐和田社長は、「そうした破壊的なトレンドにも対応していかなければならない」として、親会社であるインテリジェントウェイブとも連携して、FinTechソリューションの開発などにも取り組んでいきたい考えだ。
●沖縄クロス・ヘッド 国際情報通信ネットワークを早くも活用
沖縄クロス・ヘッドは、13ページで触れた「沖縄国際情報通信ネットワーク」を活用したサービスをいち早く開始しようとしている。
渡嘉敷唯昭
社長
ちなみに同社はSES的な事業がもともとメインだったが、2011年頃からクラウドやネットワークの自社サービスに重点をシフトしてきた。3月末で、客先常駐・派遣の人員はゼロになる予定だ。渡嘉敷社長は、「本当の意味で沖縄発のサービスに集中できるスタートラインに立った」と意気込む。
沖縄県内に、特色あるITビジネスインフラが整備されていることをご存じだろうか。官民を挙げ、IT産業を観光産業と並ぶ基幹産業に育てようと、さまざまな取り組みを進めている。国内のIT産業の集積地である首都圏と、東アジア、東南アジア地域をつなぐ情報通信のハブとなり、付加価値の高いビジネスを生み出すことで、県内の経済成長を牽引する流れをつくろうと構想しているのだ。かつての琉球王国が、日本、明、李氏朝鮮、マラッカ王国などとの中継貿易で栄えた歴史をなぞるように、ITで沖縄に新たな繁栄をもたらすことができるか──。(取材・文/本多和幸)
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