SIerは最後まで残る!?
では、IT業界はどうか。井上氏は「芸術系など、AIでは難しいとされている仕事がある。いくつかは最後まで残るだろう。AI活用を仕掛ける側のIT業界も、最後まで残るのではないか」と指摘する。
クロスコンパスインテリジェンスの佐藤社長は、「現在では、『何をしたいのか』などの課題設定において人間が必要とされる。その先は、AIに変わっていくのではないか。最終的に、課題設定をAIが担うようになれば、SIerはいらなくなるかもしれない」と考えている。
AIは囲碁や将棋のようなすべての情報が把握できる「完全情報ゲーム」に強いとされてきたが、相手の手の内がみえないポーカーのような「不完全な情報ゲーム」においても人間に勝つようになってきている。AIの進化は早い。佐藤社長が、システム構築における課題設定をAIが担うようになると指摘するのは、不完全な情報でもAIが人間よりも正しい判断ができることが証明されたからだ。
ただ、それは将来の話。現在の特化型AIにおいては「AIの導入には、ユーザー企業の業務知識が豊富なSIerの力が欠かせない。SIerとともにAIの導入を推進していきたい」と、佐藤社長はSIerとの協業の必要性を訴える。SIerとしても、独自でAIに取り組むよりも、AIerとの協業のほうが効果的にAIビジネスをキャッチアップできるのではないだろうか。
一方、メタデータの野村社長は、SIerの今後は現在のままでは厳しいと指摘する。「AIのエンジンはオープンソースで公開されている。AIの活用では、プログラミングは不要。必要とされるのは、膨大なデータの正解データづくり。その点では、既存のIT業界は蚊帳の外に追いやられる」。AI時代に必要とされるのは、システム構築のノウハウではなく、データを見切れるセンスだという。
そのため、「死ぬ気になって、大学に戻って勉強すべき」と野村社長。ユーザー企業の要望を聞いてシステム化するだけのSIerなら、むしろAIの普及の邪魔になるとして、これまでの延長ではなく、AI時代にふさわしい事業への再構築を求めている。
AIで記者は早々に不要になる!?
AIが記事を書く。世界のメディアで、その取り組みが始まっている。国内では、企業の決算短信記事をAIに書かせた日経新聞社の事例が広く知られている。また、中部経済新聞が、11月1日付の朝刊に創刊70周年記念の記事をAIに書かせて話題となった。仕掛けたのは、AIインテグレータ(AIer)のデータセクションだ。
「キーワードを与えれば、AIが記事を作成する。例えば、企業のリリースをベースに記事を作成するようなエンジンであれば、1週間程度でつくれるのではないか」と、データセクションの澤博史代表取締役社長は語る。事実を並べるだけの記者は、もはや不要なのである。
一方で、感情表現が必要とされるコラムなどの記事は、まだAIでは難しいという。「テーマが自由で想像力を必要とするような記事は、現在のAIでは対応できない」と澤社長。記者の生き残りはコラムにあり、というわけだ。
インタビュー記事についても、音声データをテキスト化し、それをベースに記事を作成することなら現時点でもできるという。後はタイトルのつけ方、強調したい部分の指定など、記者というよりも編集者としての仕事が残ることになる。
また、AIに与えるキーワードの選出も現時点では必要となるが、いずれはSNSから流行しているキーワードを選び出し、ネット上の情報から記事を作成するという対応が考えられる。問題は信頼性の確保。医療などの記事をまとめたDeNAのキュレーションサイトが、不正確な記事や著作権無視の転用記事が問題となって以降、メディアは信頼性が問われている。そのため、ネタとなる記事データを大量に保有しているメディア企業が有利になる。いずれにせよ、記者も他人事ではないということだ。
AIに記事を書かせるのは簡単だが、信頼度という意味では、まだ課題が残る。
データセクション
澤 博史 代表取締役社長
SIerはどう動くべきか
AIが人の仕事を奪うのであれば、SIerに求められるのは「いかにして人の仕事を奪うか」の視点をもつことだと、井上氏は指摘する。業務効率化や収益向上に貢献するという視点であれば、これまでのITと変わらないため、人の知能を目指すAIの真価を発揮できない。いかにして人の仕事を奪うかの視点が必要なのは、そのためだ。
ただ、多くの敵をつくる可能性があるため、大手になればなるほど、難しいだろう。マインドチェンジに成功するSIerが、勝利するのではなかろうか。
SES(System Engineering Service)を中心に事業を展開してきたトリプルアイズは、いち早くAIに取り組んだことで、それまではなかった大手企業からの引き合いが急増しているという。「AIに取り組んだことで、大手からの契約も取れるようになった。SIerは新しい技術に取り組んでいかなければ、明るい未来が描けない」と、トリプルアイズの福原智代表取締役は語る。同社は、ディープラーニングを活用し、手書き文字や画像の認識などの機能をもつ人工知能システム「Deepize」を自社開発し、提供している。「ディープラーニングは、必要とされるデータの30%しかなくても何らかの答えを出す。そこが100%を求めるような分析システムとは違う」と、福原社長。AIの導入には、こうした適性の理解が求められる。
SIerはAIに取り組むべきだ。今すぐ基幹システムでAIを活用するということにはならないが、風向きが変わってからでは遅い。せめて、ディープラーニングの活用方法くらいは知っておいたほうがいい。
トリプルアイズ
福原 智 代表取締役
エンジニアは不要になるか
10歳のときにプログラマを志した米エンバガデロ・テクノロジーズのジム・マッキース・リードデベロッパーエバンジェリストは、「当時、プログラマは不要になるからやめとけと言われたが、あれから30年以上経った今でも、そうなっていない。ITの進化は、ITの活用範囲をどんどん広げている。AIが普及しても、関連のプログラミングが必要となる。この先30年は、プログラマが必要」と考えている。開発ツールベンダーのエンバガデロ・テクノロジーズは、複数環境のネイティブアプリができる統合開発環境「RAD Studio」を提供するなど、システム開発の効率化に貢献するツールを提供している。それゆえ、プログラマが不要となるような開発環境の提供も考えられるが、AIをもってしても、まだ先の話になるということだ。
AIのインパクトは確かに大きい。ただし、AIをつくるにもプログラミングが必要。この先、30年はプログラマが必要とされる。
米エンバガデロ・テクノロジーズ
ジム・マッキース
リードデベロッパーエバンジェリスト
ただ、「生き残るのは、本物のプログラマ。コンピュータと会話できるプログラマは、この先も必要になる。しかし、そのようなプログラマはどれだけいるのか。既存のプログラムをコピーするようなプログラマに先はない」と、トリプルアイズの福原代表取締役は厳しい指摘をする。
また、AIの活用で必要とされる能力において、福原代表取締役は物理や数学の知識が必要だと考えている。「ディープラーニングは、特徴量を自動で獲得するといった基本的な特性を理解していないと活用できない。その特徴量の理解には、数学で学んだ微分の知識が求められる」。そこはIF文を利用するようなプログラミングの世界ではない。その意味では、必要とされるプログラマの数は減る可能性がある。
AIでプログラミングは不要と語るメタデータの野村社長は、「データを見極めるセンス」が必要として、それは理系よりも文系の能力だと主張する。そのため、若いエンジニアには、大学に戻ってAIで必要とされる勉強に取り組むことを勧めている。
AIが変える経済の未来
最後に、汎用AIを搭載するロボットが登場した近未来について考察したい。そのときの経済は、どうなっているのか。駒澤大学の井上氏は“爆発的な経済成長”が起きると語る。「これまでは人間が機械をつくってきたが、機械が機械をつくるようになる。機械は無限に増えていくことになるため、人口が減少するとしても、経済は爆発的に成長することになる」。
結果、需要が追いつかないほど、大量の商品がつくられるようになる。同時に、働く必要がなくなれば貨幣のあり方も変わってくる。働かなくても一定の収入が得られる「ベーシックインカム」の議論は、そこにある。最終的には、貨幣が不要になる可能性もある。最後に残った人間の仕事は、名誉職として、ボランティアのような役割になるのかもしれない。
いずれにせよ、AIが世界を変えるのはまだ先の話。現在のAIは、さまざまなビジネスシーンで活用されているとはいえ、まだ発展途上の初期段階にある。人間の仕事を奪うことになるには、時間がかかるだろう。とはいえ、進化のスピードが加速しているのも事実。無策のままでは、取り残されることになりかねない。