Special Feature
札幌IT産業は生まれ変わるか――地域一丸で先端技術に取り組む
2017/08/02 09:00
週刊BCN 2017年07月24日vol.1687掲載
AI、IoT、ブロックチェーン……
札幌発、先端技術にいち早く取り組む企業たち
札幌市が先端技術の活用によるIT産業振興に注力しているが、そのなかですでにそうした技術を用いたビジネスを展開するとともに、大学や地域企業との連携において先導的役割を担う札幌のIT企業がある。ここではとくに、AI、IoT、FinTech(ブロックチェーン)に関係する企業を取り上げる。テクノフェイス
AI開発案件が急増中
テクノフェイス
石田 崇
代表取締役
2002年創業の同社では当初、受託ベースでオープンソースの技術を活用したミドルウェア開発に特化した事業を展開してきた。しかし、2年前頃から、AI構築の案件が増え始めたという。石田代表取締役は、「昨年度の実績では、当社の売り上げのうちAI関連のものは約1割程度だったが、今年度は4割くらいまでいくだろう」とみている。
これまでに、後述するエコモットの画像解析、物流の需要予測、札幌市のコールセンターのデータベース分析など、実証実験を含めてさまざまな案件を請け負ってきた。「もともと、センサデータの収集やデータウェアハウスのミドルウェア構築などを手がけてきており、データ分析にAIを活用するところまで一貫して扱えるノウハウがある」ことがテクノフェイスの強みだ。
札幌がAIの集積地を目指すにあたり、「企業のなかでAIに取り組める技術者の育成が必要だ」と石田代表取締役は指摘。現状は、案件があっても、それに対して手を挙げられる企業が少ない状況なのだという。そこで、AIに精通する技術者が複数人在籍する同社では、自社を開発拠点として他社の技術者を招き、実地で案件に携わることで人材育成も行っている。また、AIに取り組むことで、「全国の学生からコンタクトがある」と、採用活動にも好影響が出ていると話す。
今後は、AI関連の案件のなかから汎用的なところを抜き出してのサービス化を検討。石田代表取締役は、「先行企業と比べるとデータ量は不利だが、業種・分野に特化したものなど、大手ではできないような小回りの利くサービスを提供していきたい」と語る。
調和技研
大学との連携が強みに
調和技研も、北海道大学発のAIベンチャーだ。同社は、同大調和系工学研究室(川村秀憲教授)の研究成果を社会に実装することを目的に設立。大学との結びつきが強いのが特徴で、川村教授自身も同社の取締役を務めているほか、AI研究に従事する大学教授や研究員、学生アルバイトで主にメンバーが構成されている。産学連携での共同研究を事業の柱としながら、研究室での研究成果を実装した自社サービスの提供を行っている。

調和技研
中村拓哉代表取締役(右)と今野陽子主任研究員
そのうちの一つが、地域情報を配信するお出かけ情報サイトの「びも~る」だ。同サイトでは、地域のイベントや買い物などの情報を配信。とくに登録ユーザーに対しては、研究室で開発した「興味解析エンジン」を用いて個人の趣味・嗜好を解析してその人に合った情報をリコメンドする。インターネット上をクロールしてイベント情報を収集し、人力で情報を整えたあとで、カテゴリ分けのためのイベント情報の特徴抽出にディープラーニングの技術を活用している。現在はマネタイズに向けて「地域活性化の文脈で、地方銀行と組むことを検討している」と、中村拓哉代表取締役は説明する。このほか、SNS上での炎上や情報漏えいを防ぐサービスなどを提供している。
また、AIを活用した研究においては、ロボットやチャットを利用した会話形式での情報提供を行う「対話エージェント」や、カタログの校正作業の自動化などを企業とともに行ってきた。同社としては、東京からの案件を多く手がけており、「大学と一緒に研究開発していることが強みとなっている」と今野陽子主任研究員。AI研究に力を入れる北海道大学だからこその案件が多くあるようだ。一方で、ノウハウのある観光分野では道内からの引き合いが強いほか、「農業や漁業といった分野でもフィールドがたくさんあるのが、北海道ならではのところだ」と説明。同社でも、農業分野で寒冷地向けエネルギー需要予測に取り組んだ実績をもっている。
エコモット
札幌IT産業の変化を確信
IoTインテグレーション事業を展開するエコモットでは、受託開発と自社サービスの提供を行っている。2007年設立の同社は今年6月、創業から10年で札幌証券取引所アンビシャス市場に上場を果たし、順調に事業を成長させている。
エコモット
入澤拓也
代表取締役
また、これまでのIoT構築のノウハウを生かし、センサの選定からデータの収集・管理するアプリケーションまでを一貫して提供するIoTプラットフォーム「FASTIO」を提供するなど、多様なIoTサービスを展開している。
今年7月には、日本マイクロソフトが事務局として推し進める「IoTビジネス共創ラボ」の北海道版「北海道IoTビジネス共創ラボ」を発足。エコモットは幹事会社として、道内のSIer、エンドユーザーのIoT活用を促していく考えだ。コミッティーメンバーには、HBAやHDCといった歴史ある地場のIT企業も参画している。「大きい会社が変わらないと世の中が変わらないという思いがある。時代の変化に合わせてビジネスモデルも変化させていかないといけないという思いに共感いただいた」と入澤拓也代表取締役。「とはいっても決してIoTにはこだわらず、もっと大きな枠組みのなかでITの潮流やクラウドの考え方を広げて、北海道を最先端にしていきたい」と力を込める。
INDETAIL
ブロックチェーンを北海道の産業に
新たなニアショアモデルとして「ニアショア2.0」を提唱するINDETAIL。従来のニアショア拠点としてのメリットとされるリソースとコスト優位性に先端技術を掛け合わせ、地方ならではの付加価値を生み出そうとしている。その先端技術として同社が注力しているのが、ブロックチェーンとAIだ。コンサルティングから開発・運用まで一気通貫したソリューションの提供を行っている。
INDETAIL
坪井大輔
代表取締役
今年3月には、北海道でブロックチェーンを産業化することを目指し、「ブロックチェーン北海道イノベーションプログラム(BHIP)」を設立した。BHIPでは、ブロックチェーンに関する勉強会や情報提供などによって人材育成を行う。ブロックチェーン技術を活用したい道内のIT企業やユーザー企業、自治体・団体や、先行してブロックチェーンに取り組む道外企業を募り、現状では13社が参加。5月に事務局として北海道銀行も加わったことで、活動を強化していく方針だ。すでにセミナーや勉強会を開催した感触では、ブロックチェーンへの関心は高いとみており、「この先1年で100社は参加するのでは」と坪井代表取締役は予想している。「ブロックチェーンはまだ全国的にも取り組んでいる企業が少なく、東京と同じ速度感で成長していけるだろう。多くの人たちがブロックチェーンに携わることで、北海道といえばブロックチェーンという環境をつくっていきたい」と、北海道におけるブロックチェーンへの取り組みを先導していく考えを示している。
ファームノート
帯広への想いを原点に、ITで農業を支援
北海道の中心地といえば札幌だが、他の地域でもITに取り組む企業がある。なかでも近年注目を集めているのが、帯広に本社を置き、農業向けソリューションを提供するファームノートだ。同社では、牛群管理システム「Farmnote」と、牛向けのウェアラブル端末「Farmnote Color」を開発・提供している。Farmnoteは、牧場の状態をPCやスマートフォンで管理できるクラウドサービス。牛個体ごとの情報を一元管理し、牧場の経営効率向上を図る。また、Farmnote Colorは牛向けのウェアラブル端末で、加速度センサを搭載しており、首に装着した牛の動きから活動情報を収集して発情や疾病の兆候を検知し、スマートデバイスに通知する。兆候の検知にはAIを活用しており、それぞれの牛の特性に合わせたデータ解析、兆候検知が可能だ。Farmnoteとの連携で発情情報をグラフで可視化することなどもできる。Farmnoteは、北海道や九州地域を中心に1600農家への導入実績をもつ。今後は、豚や鶏、畑作など、牛以外の農業への横展開を図る計画で、研究を進めている。

「Farmnote Color」を牛の首に装着
同社はもともと、小林晋也代表取締役がCMSを開発するスカイアークの事業で、牧場における業務管理のニーズをつかんだことが創業の背景にある。帯広出身である小林代表取締役の「生まれ育ったところから世界に出たい」との思いが、Farmnoteの開発につながるとともに、帯広に本社を置く理由ともなっている。
同社は現在、開発拠点である帯広本社のほか、札幌と東京にオフィスを構える。新プロジェクトがあるときなどに帯広にエンジニアが集まるなど、東京と帯広を行き来しながら、業務を行うことが多いという。クラウド開発グループの狩谷洋平エンジニアによると、「帯広には農家との距離が近く、製品開発が行いやすい」ことがポイントだ。
北海道銀行
挑戦するITベンチャーをバックアップ
北海道銀行
田中巖之
次長
北海道銀行の田中巖之・営業企画部次長は、「銀行は経済の黒子。地域の企業が潤わないと、銀行も一緒に元気になれない。新たな技術を活用した企業との連携や、そこで得られたものを北海道の人々に還元したい」と話し、北海道の経済活動のインフラとして支援していく考えを示している。
記者の眼
札幌におけるITベンダーの先端技術への取り組みは、まだまだこれからだ。しかし、間違いなく関心は高まっており、とくにAI活用については、札幌市が中心となり、産官学が連携して人材育成や事例創出ができる状況にある。少なくとも、今回取材した企業からは、現在の札幌のIT産業の課題を指摘しつつも、今後の成長に向けた前向きなコメントが多く聞かれた。札幌のIT産業は数年後、現在とはまた違った姿をみせてくれるに違いない。
北海道のIT産業は、ニアショアの受け皿となり、総売上高が堅調に推移している。とはいえ、国内IT産業自体の今後の成長に不透明感を指摘する声がある。そこで、北海道IT産業の中心地である札幌市では、先手を打つべく、地域一丸となり、IoTや人工知能(AI)といった先端技術の活用に取り組んでいる。「サッポロバレー」とも呼ばれ、ITベンチャーの集積地として栄えたのも過去の話。札幌のIT産業は先端技術で変貌を遂げようとしている。(取材・文/前田幸慧)
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