週間BCN Top Newsで振り返る 2017年上半期ITトレンド
―― クラウドとオンプレミスの関係がおもしろくなってきた
クラウド市場は相変わらず堅調に成長している。IoTやAI、デジタルトランスフォーメーション(DX)といった新しい分野では、クラウドが不可欠になっている。その影響で、一時は消えゆくと思われたオンプレミス環境だが、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)を起点に、息を吹き返すかもしれない。そんな雰囲気を感じるようになってきた。
オンプレミスが熱い!
パブリッククラウドが普及し始めた時期には「社内のすべてをクラウドに移行した」と発表し、先進性をアピールする企業があった。確かにクラウドには多くのメリットがあり、ほとんどのシステムが稼働できる環境も整っている。クラウドファーストというイメージ戦略も、多くの経営層に響いた。
とはいえ、オンプレミスも根強い。クラウドへの移行を拒むのは、「データを社外に置きたくない」という精神面が大半の理由だ。精神面の問題であれば、時間が解決する可能性が高い。いずれはほとんどのシステムがクラウドに切り替わっていくとの意見があるのは、そのためだ。
そうしたなかで、クラウドへの風向きが変わるかもしれないとしたのが、5月29日号(Vol.1679)のTop Newsでは、「オンプレへの“揺り戻し”起きる」である。価格だけであれば、クラウドが有利とは限らない。であれば、オンプレミスがパブリッククラウドのメリットを吸収できれば、流れが変わるというわけだ。
5月29日号(Vol.1679)のTop News
「オンプレへの“揺り戻し”起きる」
その代表選手が、HCIである。プライベートクラウドが容易に構築でき、運用負荷も大幅に軽減できることが、オンプレミス回帰の原動力になっている。パブリッククラウドの優位点だった価格や運用性、柔軟性について、一定規模以上のシステムにおいては、オンプレミス型のプライベートクラウドに軍配があがるという状況も起きている。そこに、「データを社外に置きたくない」という精神面が加われば、オンプレミスへの“揺り戻し”が現実味を帯びてくる。
関連して、5月22日号(Vol.1678)で米デルテクノロジーズ、7月3日号(Vol.1684)で日本ヒューレット・パッカードの取り組みを紹介した。各社は対クラウドを鮮明にしており、米国では「スタートアップ企業は当初こそクラウドを活用するが、企業規模が大きくなるとオンプレミスに切り替える」とアピールしている。
日本では、クラウドとの比較というよりも、仮想デスクトップ環境(VDI)でHCIの導入が進んでいる。それがクラウドの対抗ソリューションへと変わっていくのかどうか。今度の動向に要注目である。
クラウドの成長は続く
オンプレミスへの揺り戻しがあるとしても、パブリッククラウド市場は確実に成長していく。2017年上半期においても、多くのニュースがクラウド関連となった。
まず取り上げるのは、4月17日号(Vol.1674)のTop News「準拠法および裁判地とも日本法の適用が可能に」。アマゾン ウェブ サービス ジャパンが、リセラーとの契約において、準拠法を日本法、管轄裁判所を東京地方裁判所に変更可能にしたという発表である。これまでの同社のサービスは、グローバル共通というコンセプトのもと、準拠法は米ワシントン州法、裁判地は米ワシントン州キング郡の州裁判所または連邦裁判所としていた。そのため、米国の法で裁かれることを嫌い、マイクロソフトやNTTコミュニケーションズといった日本法が適用されるクラウドサービスを選択するというケースがあった。その問題が解消されたため、競合他社はこれまで以上にサービス内容での勝負が求められるようになった。
4月17日号(Vol.1674)のTop News
「準拠法および裁判地とも日本法の適用が可能に」
国内クラウドベンダーにおいても、大きな動きがあった。4月1日に発足した富士通クラウドテクノロジーズである。ニフティの「ニフティクラウド」
を中心としたエンタープライズ向けクラウド事業を継承する新事業会社で、トップに就任した愛川義政社長が掲げるのは、「3年以内で国内クラウド市場のナンバーワンベンダーになる」。富士通のクラウドサービス「FUJITSU Cloud Service K5」との関係など、今後の取り組みが注目される。
富士通、NECの決算
国産二大ベンダーの動向に風を読む
国産ベンダーの雄である富士通とNEC。両社の16年度(17年3月期)決算からみえてきたのは、構造改革によるビジネスモデルのアップデートを成し遂げつつある富士通と、苦闘が続くNECである。その対照的な姿を6月12日号(Vol.1681)のTop News「明暗分かれる国産二大ベンダー」で紹介した。
6月12日号(Vol.1681)のTop News
「明暗分かれる国産二大ベンダー」
富士通の16年度連結業績は、売上高が前年度比4.8%減の4兆5096億円、営業利益が6.8%増の1288億円で、減収したものの、増益を果たした。同社の屋台骨を支えるSIは、好調だった前年度の売り上げを上回り、成長を継続している。
15年4月に就任した田中達也社長が同10月に打ち出した経営戦略では、SIを含むテクノロジーソリューションに経営資源を集中して、高収益体質(営業利益率10%を目標に設定)に転換し、加えてデジタルビジネスに積極的に投資して成長を図るとしている。まさにそのための布石を着実に打ってきた結果が業績に反映しているといえそうだ。
一方のNECは、苦しい1年を終えた。通期連結業績は、売上高が前年度比5.7%減の2兆6650億円、営業利益は54.2%減の418億円と減収減益の結果となった。売上高については、エンタープライズ向けビジネス以外の事業セグメントは軒並み減少。1月30日に大幅に下方修正した営業利益は、費用構造改革の改善ができたため予想値より118億円のプラスとなったが、テレコムキャリアやパブリックの減益が響き、トータルで前年比減益となった。
NECは、中期経営計画2018の最終年度である18年度において、営業利益1500億円を目標に掲げている。新たに始まった17年度は、経営のスピードを上げ、戦略の策定から実行への落とし込みの迅速化を図るとしている。新野隆社長は「このままの成長では、1500億円の達成は難しい」とし、「新たな中期経営計画を検討、策定し、新たな成長戦略を含めて検討し直す」とした。収益構造の改善に向けて、正念場を迎えている。
PaaSが差異化のポイントに
IaaSからPaaSへ、主戦場が変わりつつある。その代表格が、日本IBMだ。同社は、PaaSに傾注する姿勢をクラウド戦略発表会でみせた。その内容を4月24・5月1日号(Vol.1675)のTop News「クラウドの特徴を生かした開発はまだ始まったばかり」で紹介している。AWSやマイクロソフトを追いかける立場のIBMだが、同社には話題性のあるAIプラットフォーム「IBM Watson」がある。WatsonはIBMのPaaSである「Bluemix」上で提供されるため、PaaSは戦いやすい市場ということにある。
SAPもPaaS事業に注力している。2月6日号(Vol.1664)のTop News「PaaS事業を一段と拡大へ」では、同社のPaaSである「SAP HANA Cloud Platform」において、独自に開設した東京のデータセンター(DC)に加え、大阪DCが開業したことを伝えた。PaaSでは、従来のERPだけでなく、SoE(価値創出型システム)領域にも注力している。
2月6日号(Vol.1664)のTop News
「PaaS事業を一段と拡大へ」
また、国内IaaSベンダーも、PaaS、そしてSaaSへと、注力市場を変える傾向が出てきている。
老舗業務ソフトとFinTech
クラウド対オンプレというわけではないが、会計・業務アプリケーションの分野では、クラウドネイティブな新興ベンダーと、オンプレミス中心の時代からの老舗業務ソフトメーカーには、クラウド対オンプレに似た構図を感じる。会計・業務アプリケーションのユーザーは、オンプレミスを望むケースが多いため、クラウド化が遅れていた。その市場に新興ベンダーが登場したことは、ターゲットとするユーザー層に違いがあるとはいえ、市場に大きな刺激を与えることとなった。1月9日号(Vol.1660)のTop News「小規模法人向けクラウド会計に本格参入」では、OBCの取り組みを紹介した。
また、注目キーワードとなっているFinTechについても、精力的に取り組んでいるのは新興ベンダーで、老舗業務ソフトメーカーが追随するという構図になっている。本紙では、1月30日号(Vol.1663)のTop News「FinTechの波は老舗業務ソフトメーカーにも」で、TKCやミロク情報サービス、弥生、OBCといった老舗業務ソフトメーカーのFinTechに対する動向を紹介。新興ベンダーの動きを一つのベンチマークとしつつも、異なる価値をもつFinTechサービスに取り組むべく、老舗業務ソフトメーカーが動き出している。FinTechは、まだまだ試行錯誤の域を脱していないが、新興ベンダーの先行していた市場に老舗業務ソフトメーカーが加わることで、FinTech市場が活性化すると期待される。
1月30日号(Vol.1663)のTop News
「FinTechの波は老舗業務ソフトメーカーにも」