次世代運用サービスの拡充に力を注ぐ
より階層的、より横断的な運用の実現目指す
統合的な運用アウトソーシングサービスが、SIerのハイブリッドクラウドのビジネス成長のカギを握る。運用の範囲もITインフラ(IaaS)部分だけでなく、上位レイヤのミドルウェアやアプリ層(PaaS/SaaS)までSIerにアウトソーシングしたいと考えるユーザーも少なくない。上位レイヤの運用では基幹業務システム(SoR)と、デジタルビジネス系のSoE(価値創出型システム)とでは特性が大きく異なる。主要SIerは階層的、横断的な次世代運用サービスに意欲的に取り組んでいる。
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)
統合運用の力量が評価の基準に
左からCTCの森正史部長、中川裕路部長、隅谷崇部長代行
ITインフラ構築に強い伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、ハイブリッドクラウドにも意欲的に取り組んでいる。クラウドの知名度を一気に高めたAWSと歩調を合わせるように「プライベートやオンプレミスのビジネスも成長してきた」(CTCの森正史・クラウドサービス企画開発部部長)と、この10年のクラウドビジネスを総括する。AWSを使いたいと要求する客先へ商談に出向くと、「基幹システムはパブリックには置けない」「個人情報はダメだ」と、ユーザー自身の制約が多く、結果としてプライベートクラウドとの併用になるケースが多いからだ。
CTCがIT資産を所有するマネージドクラウドとして「CUVIC(キュービック)」シリーズを運用している。「パブリックに置きたくない重要なデータだが、自社でIT資産を所有するのも負担が大きい」と考えるユーザーに、長年の信頼関係にあるCTCが運用するマネージドクラウドは非常に適している。パブリッククラウドを利用するにしても、より重要なシステムはCTCのCUVICシリーズに置くハイブリッドクラウドのビジネスが伸びている。
マネージドクラウドやSaaS型アプリを含んだCTCの昨年度(2017年3月期)のクラウド関連ビジネスは26%増の208億円に伸びている。前述のようにパブリッククラウドやオンプレミスは、マネージドとの組み合わせで売れている。CTCの中川裕路・ITインフラビジネス推進第1部部長は、「日本のユーザー企業は、SIerがオンプレやマネージド、パブリックをそれぞれ適切に使い分けられるか、統合的に運用できるかの力量をみている」と、ITインフラを任せるにあたり、SIerの重要な選定基準となるのがハイブリッドクラウドの提案・運用能力だと指摘する。
CTCは顧客の要望に応えるため、さまざまな先進的なツールを活用して、プライベートやパブリックの各種クラウドを横断的に運用できる手法を開発してきた。だが、現時点では「まだまだ力技でやっている部分がある」(CTCの隅谷崇ITサービスグループ企画統括部部長代行)とし、今後より一段と標準化、自動化できるよう取り組んでいく。ハイブリッドクラウドの次世代統合運用の方向性を今年度中に固めて、来年度からは具体的な行動に移していく方針だ。
JBCC
中堅・中小企業のハイブリッド化を推進
JBCCは強みとする中堅・中小企業ユーザーの領域でハイブリッドクラウド化を推進している。オンプレミスとパブリックを組み合わせて運用する方式で、オンプレミス部分のクラウド化に有効なのがハイパーコンバージドインフラだとみている。
JBCCの吉松正三常務(右)と大泉友幸上級執行役員
同社では、ハイパーコンバージドインフラの検証センター「N.E.X.T.」を今年6月に開設し、主要ベンダーのハイパーコンバージドインフラ製品の取り扱いを本格化。情報システム担当者のリソースが限られる「中堅・中小企業ユーザーでも運用の負荷が少ない利点」(JBCCの吉松正三・取締役常務執行役員)に着目している。もう一つ、クラウド化を推し進めるうえで欠かせないのがSoE領域のビジネスである。同社は「俺のクラウド」のブランド名で、マーケティングや働き方、デジタライゼーションといったSoE商材を展開。直近では「IBMWatson」を活用したチャットボットサービス「CloudAIチャットボット」をラインアップに加えるなど、「中堅・中小企業向けのSoE商材を拡充」(JBCCの大泉友幸・上級執行役員)している。従来の情報システム部門だけでなく、事業部門との営業接点も増やして拡販に力を入れる。
俺のクラウドのユーザー数は約2000社だが、これを2018年度末までに倍増させる目標を掲げる。SoEのITインフラにハイパーコンバージドインフラやパブリッククラウドを活用しながらハイブリッドクラウド事業を伸ばす方針だ。
TIS
ITIL運用とDevOpsの融合運用に着目
ハイブリッドクラウドの運用はクラウドの形態の壁を越えて横断的、統合的に行わなければならない。統合化されてこそのハイブリッドであり、運用でサイロ化してしまっては、それはもはやハイブリッドではなく、雑多なクラウドの寄せ集めでしかなくなってしまうからだ。
左からTISの伊藤宏樹主任、市田真也部長、島村和俊主査
TISでは、ITインフラ(IaaS層)の運用から踏み出して、ミドルウェア(PaaS層)やアプリケーション(SaaS層)の上位レイヤまで見越した統合的な運用レベルを高める取り組みに力を入れている。IaaS層の複数形態のクラウドの運用を「横断的な運用」とするならば、PaaS/SaaS層まで含めた運用は「階層的な運用」といえる。TISの市田真也・プラットフォームサービス第2部長は、「横方向と階層方向の両方の運用を統合的にカバーしてこそ、ハイブリッドクラウドの真価を発揮できる」と話す。
顧客からみれば、ITインフラだけでなく、PaaS/SaaS層も分け隔てなく運用してくれるSIerが必要とされている。だが、実際問題としてアプリ層まで視野に入れた運用は、容易なことではない。運用を複雑化させている要因の一つに、「SoRとSoEの特性の違いが挙げられる」と、TISの伊藤宏樹・プラットフォームサービス営業部主任は指摘している。
SoRはプロビジョニングしやすいため、ウォーターフォール方式でソフトウェアを開発し、業界標準のITIL(アイティル)運用で対応可能だ。しかし、SoEはウェブスケールのITインフラが求められ、アジャイル方式で開発し、運用はDevOps(デブオプス)の考えを採り入れるのが大きな潮流となっている。
そして、SoRはオンプレミスやマネージドのクラウド、SoEはAWSやAzureといったパブリックを使うパターンが多い。また、HCIの活用が進めば、一部のSoEがオンプレミスに戻ってくることも十分にあり得る。IaaSの横方向やアプリ層まで視野に入れた横断的/階層的な運用を行おうとすれば、ITIL運用からDevOpsまで「方式の異なる運用を統合的に行う仕組みの強化が欠かせない」(TISの島村和俊・プラットフォームサービス営業部主査)と考えている。
TISでは、ITインフラ領域をプラットフォームサービス事業部門で対応しており、この組織が対応するのは原則としてIaaS/PaaSまで。それより上のアプリ層は顧客の業務アプリを開発するSI部門が担当している。ハイブリッドクラウド時代の運用を見据えたとき、開発するアプリがSoR系なのかSoE系なのか、開発方式や運用方式はどうするのかといった領域まで、インフラ部門とSI部門が足並みを揃えて取り組むことで顧客の期待に応えている。この取り組みの一環としてITプラットフォームを一元管理する中核拠点「MSCC(マネージドサービスコントロールセンター)」の機能を大幅に強化。総合運用の拡充に一層の勢いをつけていく構えだ。
NTTデータ
SoEがクラウドビジネスを牽引する
NTTデータ
中井章文
統括部長
NTTデータもハイブリッドクラウドを推進するにあたってSoRとSoEの特性の違いを重要視している。クラウド関連ビジネスの現状をみると、SoEがビジネスを牽引しており、この領域をどう伸ばしていくのかが、「クラウド関連ビジネスの伸びに大きく影響する」(NTTデータの中井章文・デジタルビジネスソリューション事業部開発統括部統括部長)とみている。
金融業顧客のFinTechはクラウドネイティブであることが多く、今や保守的な官公庁でも電子申請など、新しく発生した業務については積極的にクラウドを活用している時代だ。NTTデータもSoE領域のデジタルビジネス関連の直近の伸び率は前年度比2割増で推移しており、レガシー系のITインフラの伸び率を上回る高水準となっている。
レガシーITインフラだけをみれば、頭打ちの見込みだが、SoRでも例えばプライベートクラウドへのマイグレーションや、運用負荷軽減のためにHCIへ移行するなどのビジネスは期待できる。ユーザー自身である程度ITインフラを運用している場合、HCIを採り入れることで運用工数が削減でき、その人的リソースをSoE領域へ振り向けることも可能になる。
NTTデータでは、顧客のデジタルビジネスを成功に導けるような提案力、デジタルビジネスに関する知見やコンサルティング能力をさらに強化していくことが、「結果としてITインフラ領域のビジネスの拡大」(中井統括部長)につながり、SoR/SoEのそれぞれの特性に合ったハイブリッドクラウドの構築や運用アウトソーシングのビジネスに落とし込んでいけると分析している。