Special Feature
ミッドマーケットの激戦 基幹業務アプリケーション市場に大きな変化
2017/09/20 09:00
週刊BCN 2017年09月11日vol.1693掲載
国産老舗業務ソフトベンダーはどうする?
クラウド、FinTech、中堅層へのアプローチ強化……
各社の戦略の違いが鮮明に
FinTechで先行、差異化を図る応研
国内のミッドマーケット向け基幹業務システム市場で、長らく大きな存在感を発揮してきた老舗の国産業務ソフトベンダー各社も、ここにきて戦略の違いが鮮明になってきている。現時点では直接競合することが稀であったとしても、freeeのようなFinTechをけん引する存在でもある新興ベンダーの存在や、大企業向けを主戦場にしてきた大手ERPベンダーがミッドマーケットをうかがう動きは、彼らにとって大きな刺激になっているのは想像に難くない。

応研福岡本社開発部の中島 隆リーダー(右)と津留敬史主任
例えば応研は、従来の競合ベンダーに先駆けて、今年5月、FinTech関連サービスの第一弾として「大臣フィンテックサービス」をリリースした。インターネット経由で金融機関の口座明細データやクレジットカードの利用明細データを取得し、仕訳データを自社開発のAIを使って自動作成するサービスで、保守サービス契約に加入しているユーザーに無償提供し、会計ソフトの「大蔵大臣」のほか、販売管理ソフトの「販売大臣」で利用できる。同サービスの開発を担当した福岡本社開発部の中島隆リーダーは、「銀行口座などのデータ取得から仕訳まで自動でしてくれ、今までにないレベルで業務を効率化できる。一度使ってもらえれば、便利さを実感してもらえるはず」と、自信作であることを強調する。
ただし、類似の機能は、freeeやマネーフォワードといったスモールビジネス向けクラウド会計ソフトでは数年前からすでに実装されている。これに対しては、「最初の仕訳時に明細を人の目で確認して科目登録してもらい、まずはそれをAIに学習させるようにしている。当社のお客様にとっては、仕訳の確実性が非常に大事なポイント。(新興ベンダーのように)最初から完全な自動仕訳にしてしまうと、仕訳精度が低く、後々トラブルになるケースも見受けられる」(福岡本社開発部の津留敬史主任)と、差異化ポイントを説明する。
AIの開発は既存の開発チームが担当。「応研としてはAIにかなり以前からフォーカスしてきた。他の既存製品の機能向上にも水平展開できる可能性を見出せたのは収穫だった」(中島リーダー)という。さらに、今春の法改正により銀行のAPI解放の流れができたが、金融機関と連携した新しいサービスも検討しており、実際にいくつかの金融機関と協業の話を進めている。また、「新しい技術として、AIだけでなくブロックチェーンにも注目しており、売り上げや仕入れの管理などに活用できるのではないかという検討もしている」(津留主任)とのことで、同社が中堅・中小企業向け業務ソフト市場でしのぎを削ってきた有力国産ベンダーに対して、「FinTech」で競争優位性を創出したい考えだ。中島リーダーは、「スピーディにどんどん新しいサービスを投入していきたい」と意欲をみせる。
一方で応研は、2013年にリリースした中堅・大企業向けERP製品「大臣エンタープライズ」についても、着実に実績を重ねているという。SIerの認知度も高まり、パートナーエコシステムも充実してきているという手ごたえがあるようで、FinTechだけでなく、既存顧客のコア層よりも大規模な顧客向けの市場も開拓し、ミッドマーケット全般を成長の基盤として攻めていく姿勢を打ち出している。
OSKは中堅中位層以上の
顧客開拓で大幅成長狙う
中堅企業層へのアプローチを強化しているという点では、最もその姿勢が鮮明なのがOSKだ。従来の主力基幹業務パッケージとしては、中小・中堅企業向けの「SMILE BS 2nd Edition」、中堅以上向けの「SMILE es 2nd Edition」があるが、9月28日、その後継製品として「SMILE V」をリリースする。同社はこれをテコに、SIを含めた案件の単価が大きくなる中堅中位層以上のユーザー開拓に注力し、事業規模を3倍程度まで成長させようと考えている。
SMILE Vは、単純に基幹系業務ソフトラインアップのメジャーバージョンアップという位置づけにとどまらず、同社の製品戦略そのものの大きなターニングポイントとなる製品といえる。なぜならば、プラットフォームを完全に刷新し、同社のもう一つの主力製品群である統合グループウェア「eValue」シリーズとの共通プラットフォーム化を実現した製品だからだ。eValueは、来年の次期バージョンアップ時にSMILE Vに統合される見込みだ。現行の製品ブランド名の取り扱いについては検討中だが、いずれにしても、同社は近い将来、SMILEとeValueを統合製品として提供していくことになる。
OSK
石井ふみ子
取締役
こうした背景もあり、同社はSMILE Vを武器に、新たな顧客層として中堅中位層以上の規模の企業の開拓を重点的に行い、飛躍的な成長を遂げたいと考えている。石井取締役によれば、「もともとSMILEは中堅中位層以上でも十分に使っていただける製品だったが、他の有力国産ERPなどと競合すると、機能要件で劣っていないのに、価格が安すぎてお客様が不安を覚えるようなところがあった」のだという。しかし、eValueとの統合製品にすることで、コスト感を競合製品とある程度揃えつつ、相対的に非常に大きな価値を提供できるソリューションパッケージに仕立てることができるというわけだ。
そうした新しい顧客を面的に開拓していくために、中堅中位層以上の顧客と接点をもつ大手・中堅のSIerを積極的にエコシステムに取り込んでいる。現在、そうしたパートナーは20社程度だというが、SMILE Vの投入に伴い、これも早期に3倍程度まで拡大する意向だ。なお、同社はSMILEシリーズについて、もともとコスト見合いで非常に豊富な性能を有しているという点で大きな自信をもっており、さらに、親会社である大塚商会、大手事務機メーカー系販社などの強力な販路も有している。これらを生かして、SMILE Vの拡販においても、既存顧客の中心層である中小から中堅下位層の企業についても、十分な伸びは期待できるとみている。
基幹業務ソフトベンダーの
枠を超える王者OBC
ミッドマーケット向け基幹業務ソフト市場のトップベンダーとして君臨してきたオービックビジネスコンサルタント(OBC)は、ビジネスのあり方そのものを大きく変えようとしている。近年の同市場の変化を象徴している存在といえるかもしれない。同社は近年、主力商材である基幹業務ソフト「奉行シリーズ」に加え、もう一つの事業の柱に育てるべく、マイナンバー対応業務など、法・制度の改正により発生する新しい業務を支援するSaaS商材「業務サービス」の開発、拡販に注力してきた。そして今夏には、さらに次のステップとして、将来的に同社の全製品の基盤となる統合プラットフォームをクラウド上に構築し、AI、ビッグデータ、IoT、FinTechといったキーワードも取り込みながら、ユーザー企業の業務全体を支援するソリューション群を整備していく計画であることを明らかにした。自社製品の共通プラットフォーム化という意味ではOSKとも類似しているが、OBCは、デジタルビジネスのトレンドを踏まえ、業務のフロント側を支援するアプリケーションも含めてある程度自社で取り揃えていく意向で、基幹業務ソフトベンダーの枠を超えたビジネスモデルの変革を目指しているといえそうだ。
具体的なロードマップとしては、近い将来、2019年頃を目安に、奉行シリーズと業務サービスを、「Microsoft Azure」上に構築した統合プラットフォーム「OBC業務クラウドプラットフォーム」上で融合させる。両者を統合ソリューションとして提供するのはもちろん、個別の機能をプラットフォーム経由で外部サービスとAPI連携できるような仕組みも整備する。これにより、ユーザー企業の業務全体に横串を通してデジタル化し、中堅・中小企業のデジタル変革を支援していくというコンセプトだ。
OBC
和田成史
社長
当面、既存の奉行シリーズは基本的にワークベース、OBC業務クラウドプラットフォームとSDKで連携することになるが、次期製品は、OBC業務クラウドプラットフォーム上で提供するSaaSモデルになる。これにより、OBCは製品ラインアップの軸足を完全にクラウドに移すことになる。
クラウドの先駆者PCAは
Web-APIによる連携に活路を見出す
競合に先駆け、2007年からSaaSでの基幹業務ソフト提供に取り組んできたピー・シー・エー(PCA)は、“クラウドファースト”の継続で差異化を図る方針だ。
今年1月、PCAは従来の主力である「PCA Xシリーズ」の後継製品として、「DXシリーズ」をリリースした。最新の.NET Framework 4.6に対応し、Windows 10、64ビットの環境で使いやすくなったことや、機能を大幅に改善し、ナチュラルなインターフェースを備えていることなどをセールスポイントとしている。オンプレミス版とクラウド版を同時にリリースしたが、従来通りクラウドへの注力は継続する方針を示し、昨年4月にリリースした「PCA Web-API」を経由した他社クラウド製品との連携を随時拡大していくとアナウンスしていた。従来はクライアント実行型のAPIしか用意されていなかったが、Web-APIにより、PCAクラウドの基幹業務データと他のクラウドサービスがクラウド上で直接つながるようになった。その第一弾として、PCAクラウドとサイボウズのPaaS「kintone」との連携を実現したが、その後、ヤマト運輸の送り状発行システムや、SCSKのWebアプリ作成・運用クラウドサービス「CELF」などとの連携ソリューションも生まれている。
PCA
折登泰樹
専務取締役
直近のクラウド版の新規契約内容をみると、6割が既存ユーザーで、4割が他社製品からの乗り換えなどの新規ユーザーだといい、クラウドが顧客基盤の拡大に大きな役割を果たしているのがわかる。さらに、クラウド版の普及により、中堅規模の顧客層が拡大していて、PCAとしては、ここに大きな成長の可能性を感じている。折登専務は、「PCAのユーザー数は約20万だが、その8割が従業員数50人以下の企業。これがクラウドに限ると、その割合は6割まで下がる。とくに、インフラのイニシャルコストやメンテナンス費用、バージョンアップコストなどを含め、TCOをシビアに評価する中堅企業が、当社のクラウド製品を選んでいる傾向がある」と話す。
PCAは昨年、中堅企業層の顧客開拓を加速させるために、社内体制を刷新し、パートナー&広域事業部を新たに発足させた。SIパートナー支援機能を集約・強化して、中堅企業層に顧客基盤をもつSIerチャネルへのアプローチを強めるための施策だ。折登専務は、「これまでもSIerとの協業はしっかりやってきたつもりだが、それをさらに強化しようという取り組み。急拡大はしていないが、地道に努力し、着実に成果は出てきている」と強調する。一方で、Web-APIをリリースし、他社ソリューションとの連携を開始したことで、大きな副産物もあった。「kintoneパートナーなど、ECサイトなど、フロント系の業務システムをJavaやPHPといったオープンソース系の言語で構築してきたようなベンダーと、新たに開発パートナーとしての契約を結ぶ例が増えてきた」(折登専務)といい、従来接点のなかった新たなパートナーが増えたことで、PCAクラウドの販路も大きく拡大しつつあるのだ。
ミッドマーケット向けの基幹業務アプリケーション市場に大きな変化が起こりつつある。クラウドの波が、基幹業務アプリケーションにもようやく本格的に到達したことはその大きなファクターだが、デジタルトランスフォーメーションやFinTechといったキーワードが、基幹業務アプリケーションにユーザーが求める価値を変えつつあり、市場が活性化している。いい換えればベンダー間の競争が激化しているのがミッドマーケットだ。あのベンダーも、このベンダーも、覇権を狙っている。勝つのは誰だ!?(取材・文/本多和幸)
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