新潟発でビジネスチャンスを拡大
強みは酒だけじゃない
新潟県は、国内でも指折りの豪雪地帯で、メートル級に積雪する地域もある。冬の生活に欠かせない消雪パイプを利用し、新たなビジネスチャンスを生み出そうとしている企業がある。一方、製造業の分野では、地域内の連携を目指す取り組みが進められている。強みは酒だけではない。
新潟発祥の消雪パイプで
データ収集
新潟県内を車で走っていると、路上に等間隔の穴が空いていることに気づく。降雪時に地下水を噴出し、雪をとかす「消雪パイプ」だ。新潟県によると、1950年代に長岡市で利用が始まり、全国に広まったといわれている。
スノーテック新潟
齋藤隆幸
代表取締役
発祥地の長岡市では、「スノーテック新潟」と「KCS」の共同企業体が、消雪パイプを利用した新規ビジネスの創出を目指している。「地下水のくみ上げ過ぎで発生が懸念される渇水や地盤沈下のほか、除雪車や人手が不足していることが背景にある」と、スノーテック新潟の齋藤隆幸代表取締役は説明する。
同社などが開発を進めているのは、「詳細降雪・気象情報広域提供システム」だ。降雪の状況に応じて消雪パイプの稼働を制御しているセンサに超小型PC「ラズベリーパイ」を搭載し、各消雪パイプのデータをLPWAのネットワークで集約。集まったデータをクラウドサービスとして提供することを想定している。
齋藤代表取締役は、「各消雪パイプの稼働状況を確認し、町内会レベルで雪の降り具合を把握することが可能になり、効率的な除雪ルートや配送ルートを決めたり、渋滞時のう回路を案内したりすることに役立てられる」とみている。
さらに、防災科学技術研究所がレーダーで観測した上空の雲の動きと組み合わせることで、今までになかった「雨雲レーダーの雪バージョン」(齋藤代表取締役)を実用化し、気象情報会社や鉄道会社などを対象とした新たな気象ビジネスにつなげたい考えだ。
齋藤代表取締役は、「大雪になった場合、車のなかに閉じ込められたり、物流が途絶えたりして、場合によっては命の危険につながる危険性もある。全国的にしっかりと情報化ができれば、より安全で安心した社会を実現することができるはずだ」と期待している。
消雪パイプの稼働を制御する降雪センサ
小型のビーコンを活用し
仕掛品の動きを可視化
一方、製造業の割合が22.8%を占め、うち9割以上を中小企業が占める柏崎市では、生産性の向上や競争力を強化するため、地域内に点在する工場をつなぎ、最終的に受注から販売までを一体的に管理する「仕掛品トレーサビリティシステム」の商用化を目指している。
仕掛品までの距離を知らせるスマートフォンのアプリ
開発に取り組んでいるのは、建設業向けパッケージなどを手がける「ユニテック」や「日本メッキ工業」(いずれも柏崎市)のほか、同市内に事業所を設けるソフトウェア開発会社「ウイング」、NTTドコモでつくる共同企業体だ。
システムの開発にあたり、まず着手したのが日本メッキ工業の工場での工程管理だ。工場では従来、顧客からの問い合わせがあった場合、担当者がPCや工場内を探し回り、顧客に状況を連絡していた。問い合わせは1日あたり約10回、作業時間は1回あたり平均20分を必要としていたという。
そのため、無駄な作業を削減するため、作業指示書と小型のビーコンをQRコードで紐づけし、位置情報によって対象の仕掛品が工場内のどこにあるかを可視化。さらに、スマートフォンのアプリを用意し、仕掛品に近づくと、ビーコンと連動して音などで通知するようにした。
ユニテック
稲葉淳 常務取締役
事業推進副本部長兼
第三事業部長・企画事業部長
ユニテックの稲葉淳・常務取締役事業推進副本部長兼第三事業部長・企画事業部長は、既存システムをカスタマイズせずにアドオンできることや、顧客との情報共有ができることなどを特徴として挙げ、「今まで顧客からの問い合わせを受けてから回答するまでに20分かかっていたが、仕掛品の検索に1分、現場での探索に3分の計4分に短縮し、作業時間を80%削減できるようにしたい」と青写真を描く。
さらに、「データがたまってきたら、不良品の情報管理や予防保全ができる。取引のある企業間で導入してもらえば、地域内で受注から販売までを効率的に管理することも可能」とし、「大量ロットの製品を生産している工場で有効に働くことが期待できるため、業種に関係なく、幅広く横展開していける」とみている。
新潟県全体への展開に向け
成功事例の創出に期待
新潟県
和久津英志
産業労働観光部
産業振興課長
双方の試みは、新潟県のAIやIoTを活用したシステムの実証事業で、実証を行う委託先として認められた。新潟県の和久津英志・産業労働観光部産業振興課長は、「少しでも成功事例をつくり、県全体に効果を波及させていきたい」と意気込んでいる。
和久津課長は、「人手不足や生産性を上げていくことは、本県でも課題になっており、AIやIoTは大きな効果をもたらすツールだと位置づけている」と説明する。ただ、「県内の事業者に話を聞いていると、AIやIoTへの興味の度合いは高いが、まだ技術的に取り入れられていないため、まずは地に足のついた取り組みを進めていくことが大切だ」と語る。
そのうえで、「AIやIoTの使い方は会社ごとに異なり、まったく同じものがそのまま使えるとは限らない」と前置きし、成功事例とともに「各社が抱える問題解決の糸口になるような成果も得たいと思っている」と話す。
実証事業の成果は、今年度末に報告される。和久津課長は、「県として成果が期待できるものを選んだ。両企業体の関係者は頑張って取り組んでいるので、年度末に向けていい結果が出ることを期待したい」としている。
団体の代表に聞く
新潟県は、全国で5番目に広い面積の県土の各地に、バラエティに富んだ産業が集積していることも特徴だ。ITの業界団体の代表に、新潟県の産業の実情などを聞いた。
新潟県IT産業ネットワーク21
新たな人材の確保や育成に注力
新潟県IT産業ネットワーク21
南雲俊介
代表幹事
ITベンダー約160社が加入する新潟県IT産業ネットワーク21の南雲俊介代表幹事は、新潟県内の産業が抱える課題について、「新しいデバイスやIoTに着手している企業もある。しかし、多くの企業は、危機感や変革の意識はもっているものの、まだ技術活用のスピードは遅い」と指摘する。
南雲代表幹事は、「高齢化や人口減少、働き方改革に対し、ITを使った具体的な対応は必要とされているが、十分に応えられていないのが実情」とし、「首都圏と比べると、情報量で大きな差があることは否めない。優秀な技術者が首都圏に流出する傾向も課題として残っている」と分析する。
IT業界については「会員の状況をみると、業務ソフトウェア開発の仕事が多くを占めている。新しいことを切り口にした仕事や技術者となると、まだ足りていない」とし、「データの活用など、これからは高度なスキルをもった新たな人材の確保や育成にも力を入れていかないといけない」と訴える。
また、「町や暮らし、企業活動から潜在的な需要を掘り起こすことが必要だが、一社だけで取り組むのはなかなか難しい。同業種だけでなく、異業種も含めたつながりをこれまで以上に強化し、新しいことに取り組むことがますます必要になっている」と主張する。
ITC新潟
若手を中心に経営者の意識が変化
ITC新潟
青木龍雄
代表幹事
ITコーディネータ36人を抱えるITC新潟の青木龍雄代表幹事は、「全国的に同じだと思うが、企業でのIT利用は、業務効率化やコスト削減がほとんど。経営者のITへの投資意識が極めて高いというわけではない。ただ、最近では若手を中心に経営者の意識が変わり、AIやIoTを使った新しい取り組みを進める動きもある」と話す。
青木代表幹事は、「新潟県は、製造品出荷額は全国で真ん中くらいだが、企業数だとかなり高いところに位置する」とし、産業構造については「農業や製造、化学など、産業のすそ野は広く、日本の縮図としてみることができる」と紹介する。
県内企業の状況については「高齢化や人手不足への危機感から、ITを導入したいと思っている企業はあるが、投資に対しては躊躇する場合が多い」とし、「中小企業ではIT担当者がいないこともあり、どうやってITを活用していいかわからないという企業もある」と打ち明ける。
それでも「AIやIoTを抜きにして、これからの競争を勝ち抜くことはできないと思う」と持論を展開。ヘルメットにセンサを搭載し、熱中症の予防に役立てる仕組みをITベンダーと建設会社の協力で開発した事例などを示し、「ITコーディネータにとっては、これまで以上にしっかりとITと企業の橋渡しをしていくことが求められている」と実感している。