Special Feature
新春特集 週刊BCN記者はこうみる! 2018年の市場動向大胆予測
2018/01/10 09:00
週刊BCN 2018年01月01日vol.1708掲載
SIer編
「モノ」の消費から「情報」の消費へ ソフトウェアがより大きな価値を創り出す
システム構築(SI)分野では、デジタル新領域のビジネスが一段と活気づく。ユーザー企業とともに進めてきた「実証実験(PoC)が本格的な受注フェーズへ移行している」と、SIer幹部は口を揃える。デジタル新領域は、ユーザーの事業部門が発案するケースが多く、PoCも事業部門との連携が中心。従来の情報システム部門や情シス子会社とともに仕事を進めるスタイルとは趣が異なる。このためPoCを通じて「あるべき姿」や「システムの仕様」を決める。SIerはある種の研究開発費(R&D)の一環として、先行投資してきた。この投資分が収穫につながりつつある。ユーザー企業にとってデジタル新領域は、競争に勝ち抜き、売り上げや利益を伸ばすための投資である。既存事業のスクラップ&ビルドを伴うデジタルトランスフォーメーション(DX)の一環と捉えることもできる。そして、DXの一翼を担うとされるのがシェアリングエコノミー(共有経済、シェアエコ)だ。「民泊解禁」に象徴されるように、日本でも浸透し始めている。シェアエコでは、マッチングやレビュー(サービス評価)、決済などのITプラットフォームが欠かせない。むしろ、シェアエコではそうした「情報」が価値を創り出す。
レガシー経済が「モノ」の消費が中心だとすれば、これからは「情報」を消費する割合が一段と増える。
例えば、2017年に話題になったスマートスピーカーは、スピーカーに価値があるのではなく、その背後にあるAI(人工知能)を駆使した情報が価値をつくりだしている。18年以降、企業向けのビジネス(B2B)においてもモノの背後にあるソフトウェアやサービスがつくり出す情報の価値比率がより高まるとみられている。FinTechやIoTの価値の中心は情報である。その情報を生みだすITプラットフォームやソフトウェアの開発を担うSIerの役割は、ますます重要になってくるといえよう。
足下のDXは、スクラップ&ビルドを行う体力がある大企業ユーザーが中心的役割を果たしている。多くのSIerのDX案件も大手、準大手ユーザーからの受注が目立つ。スタートアップ企業によるDXの裾野も広がりをみせるものの、投資体力が限られることからシステム開発を内製で行う割合が高いとみられている。今後は、中小企業のDX支援や、スタートアップ企業との協業によって、SIerにとってのデジタル新領域ビジネスの裾野を広げていくことが期待されている。(安藤章司)
ディストリビュータ編
ボリュームと付加価値の両輪 「コト」を卸すビジネスモデルも
ディストリビュータは、クラウドサービスの浸透によってビジネスが縮小するのではないかといわれていた。しかし、現実は違った。彼らは、クラウドサービスのディストリビューションも手がけ、結果的に商材を増やしている。現在、ディストリビュータは単にハードウェアやソフトウェアパッケージなどを販社に提供しているだけでなく、サービス、さらにはユーザー企業が要望する「コト」を実現したソリューションも販社に対して提供するなど、ディストリビューションの幅は広がっている。例えば、ネットワールドでは、残業が多い技術者の業務効率化に向けて、自社のSEが複合システム検証センター「GARAGE」運用の自動化を実現。音声を使ってハンズオンセミナー用の環境を自動でプロビジョニングできる。この環境に対して販社が関心をもち、問い合わせが殺到。販社に提供することも検討している。また、このような自社で開発したものをコードで提供することも模索している。
実際のディストリビューションでは、HCIに力を入れており、各メーカーの製品を揃えて、それぞれの特性情報を販社に提供。販社にとっては、ユーザー企業の要望に対して何を売ればいいのかがわかりやすい環境を整備している。
ソフトバンク コマース&サービスも、HCIと仮想化に関して販社向けのサポートを徹底的に行っているほか、クラウドをはじめとして「IoT」「ロボティクス」「AI」などをテーマとした商材を増やすことにも力を入れている。1商材あたりのボリュームと製品ジャンルを増やしながら、それぞれの販社に適したサポートの提供など、付加価値を追求していくことで、販社とのパートナーシップをさらに深めていく。
菱洋エレクトロは、ITソリューションと半導体を融合したビジネスを拡大しようとしている。NVIDIAを核にAIやディープラーニングに関連した製品・サービスの開発や、コミュニケーションツールを使って遠隔で情報共有できるIoT関連のソリューションを提供。ユーザー企業の現場変革に積極的だ。
日本では、ユーザー企業のシステム担当者が不足している。一方で、さまざまな新しいテクノロージが登場し、ユーザー企業は何を導入すればいいかわからなくなっている。このような状況のなか、多くの商材を揃えて詳細な製品情報を把握しているディストリビュータが、さらに存在感を増していきそうだ。(佐相彰彦)
ハードウェア編
期待のHCIが普及期に オンプレミスの進化もさらに進む
コモディティ化していたx86サーバーに新たな価値を与え、クラウドだけでなくオンプレミスのインフラ技術も着実に進化していることをあらためて示してくれたのが、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)の存在だ。サーバー仮想化ソフト、ストレージ仮想化ソフト、管理ツールなどをx86サーバーに載せ、一つにまとめたもので、設計がシンプルで簡単に運用できる点が市場の好評を博し、2017年に一気に注目を集めた。サーバーベンダーだけではなく、ストレージベンダーもこぞってHCIの新製品を投入している。また、仮想化ソフトや管理ツールなどを開発するソフトウェアベンダーもこの市場に参入し、17年末にはあらかたプレイヤーが出揃った感がある。また、国内のサーバー市場で大きなシェアをもつ富士通やNECもHCI市場に本腰を入れ始めた。販売店やSIerもHCIの提案を強化し、業界全体でHCIに取り組む姿勢をみせている。
17年はまだ立ち上がったばかりの初期段階にあったHCI市場だが、今年は普及のフェーズに入る。今、HCIは導入のしやすさ、管理のしやすさばかりがクローズアップされているが、HCIの真価とは汎用サーバーであるため、そのうえでさまざまなソフトウェアを動かせることだ。
IDC Japanは、国内コンバージドシステム市場に占めるHCIの割合が20年には35.9%になると予想している。企業ITインフラの主流となることは間違いない。今年は、HCIのうえにさまざまなソフトウェアを載せ、パッケージ化して販売することで、IaaSからSaaSへと動き出す。クラウドの手軽さをさらに吸収することで、HCIの普及が爆発的に進むだろう。(山下彰子)
基幹業務システムパッケージ編
基幹システムはDXのコアに クラウドネイティブ、オープンな連携が標準に
ERP、基幹系業務ソフトの主要ベンダーは、2017年までにおおむね自社製品の抜本的な刷新を行った。トップベンダーであるSAPの動きは象徴的だ。インメモリ技術を採用して独自に開発したデータプラットフォームの「SAP HANA」をベースにERP製品を一からつくり直し、「SAP S/4HANA」として市場に投入したのは15年のことだ。その後、同じくHANAをプラットフォームとして、IoT、AI、ビッグデータなど、新しいトレンドを採り入れたソフトウェア製品群である「SAP Leonardo」をつくり上げ、17年、その提供を本格化した。SAPは、S/4HANAのコンセプトを発表した当時、「ERPをコアに、人、モノ、金、企業など、あらゆるものがデータでつながる世界を、同一のプラットフォーム上で実現した」と宣言した。HANAという統一の基盤のうえに、クラウドにもネイティブに対応したERPとLeonardoをシームレスに連携させることで、ユーザーのDXを網羅的に支援するポートフォリオを整備したというわけだ。
ERPをクラウドネイティブに刷新し、これをDXのコアとして、AIやIoT、ビッグデータとオープンに連携させていく方針は、オラクルやマイクロソフトといったグローバル大手ベンダーだけでなく、国産ベンダーにも共通の傾向で、製品ラインアップも整いつつある。18年は、この世界観が市場に浸透し、ベンダー側のビジネスの伸びにつながるかどうかが注目される。(本多和幸)
セキュリティ編
エンドポイントでの先端技術の活用進む 2020年まで安定的な需要が見込める
「ランサムウェアの一年だった」と、急増するランサムウェアに、セキュリティベンダー各社が口を揃えた2016年。17年3月に情報処理推進機構(IPA)が発表した「情報セキュリティ10大脅威 2017」では、前年の7位から急上昇し、2位にランクイン。続く17年も、5月に「WannaCry」が世界中で大流行し、その後も「PETYA」「BadRabbit」などが猛威を振るい、ランサムウェアの勢いは衰えをみせなかった。「標的型攻撃」も、依然として高まっている脅威だ。サイバー攻撃に未知のマルウェアが用いられ、なかにはサンドボックスを回避するものがあることも、広く認識されつつある。
エンドポイントセキュリティ市場では、こうした高度化・巧妙化する脅威に対抗するために、人工知能(AI)などの先端技術を活用する動きが顕著だ。大手企業だけでなく、新興企業も「次世代」のメッセージとともに存在感を示してきている。また、マルウェアの感染は避けられないものとみなし、エンドポイントでの脅威の検知と対応を行う「EDR」も、大企業を中心に導入が進んでいる。エンドポイントセキュリティ市場は、ますます活況となりそうだ。
これ以外にも、セキュリティ市場は注目分野が目白押し。「IoTセキュリティ」では、インターネットにつながるデバイスは年々増加の一途をたどる一方で、IoTデバイスをDDoS攻撃に悪用した例も発生している。くわえて、OT(制御システム)とITの融合が進むことで、工場や社会インフラなどへのサイバー攻撃被害も懸念されている。
また、クラウドサービスの活用が広がっており、「働き方改革」の潮流もそれを後押ししている。適切なクラウド利用を考えなくてはならないなかで、注目されているのがクラウドサービスの利用を可視化・制御する「CASB」だ。
17年に改正個人情報保護法が施行。18年5月には、「GDPR(EU一般データ保護規則)」の施行も待ち受けている。GDPRが注目される背景にあるのは、事業継続に多大な影響をもたらすだろう罰則規定の厳しさだ。改めて情報漏えいへの危機感が増し、内部情報漏えい対策製品の拡販を強化する姿勢を示すセキュリティベンダーもいる。
総じてみると、20年に東京五輪開催を控え、サイバー攻撃が日本に押し寄せると予測されていることから、セキュリティ市場が今後も成長路線を進むことは明らかだ。一方で、セキュリティはあらゆる分野で参入企業が多い市場でもある。いかに自社ならではの価値を顧客に提供できるかが重要になるだろう。(前田幸慧)
デジタルトランスフォーメーション(DX)や働き方改革といったトレンドが、企業のIT投資を促進している。こうした動きは、2018年も続きそうだ。週刊BCN編集部の各記者が、それぞれ得意とする取材領域について、18年の市場がどう推移するのか予測してみた。これからの社会のあり方を大きく変えるほどの影響力をもつかもしれないエマージング・テクノロジーのトレンド、そして日本の社会的課題を解決するための地方創生へのIT活用、さらにはグローバルのIT市場に大きな影響を及ぼしつつある中国市場の動向分析・予測を試みたほか、IT商材の流通の中核を担うSIer、ディストリビュータのビジネスのあり方の変化、ハードウェア、セキュリティ、基幹業務システムパッケージといった製品分野カットでの市場の動きも洞察した。
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