パナソニック
IoTで介護の重度化を未然に防止
パナソニックの
山岡勝プロジェクトリーダー
パナソニックは、介護領域にビジネスチャンスを見出している。グループの介護事業者であるパナソニックエイジフリー(大阪府門真市)や、同じく介護事業者のポラリス(兵庫県宝塚市)と協業。呼吸を含む体の小さな動きを検知できる高性能なルームセンサや、温度センサ、ドア・窓の開閉を検知する開閉センサといったIoTを活用し、介護サービスを受けている高齢者の要介護度合いが重度化しないよう見守るシステムの開発を進めている。
まず手始めに、エアコンとセンサを連動させる「エアコンみまもりサービス」を2016年にスタート。介護施設向けに販売しており、直近で約50施設/1300室に納入してきた。各部屋の温度を介護施設の管理センターで把握し、何らかの原因で適正温度の範囲を超えた場合はすぐさま介護職員に通知する。
また、高齢者の呼吸動作などから睡眠状況を把握することができる。こうしたデータをもとに、「介護がより一層必要になるような重度化の兆候をいち早く発見し、適切な措置を実施できるよう開発を進めている」と、パナソニックの山岡勝・スマートエージングケアPJ総括担当/プロジェクトリーダーは話す。
介護事業者のポラリスは、介護度合いの改善に向けた独自の自立支援ケアプランやリハビリの開発に力を入れている。老化や病気で弱まった筋肉や神経をリハビリによって改善することで、重度化を防いだり、身のまわりのことが自分でできる割合を増やしたりする取り組みだ。
パナソニックのIoT技術とポラリスのノウハウを組み合わせることで、介護施設だけに限らない、地域全体の「自立支援介護プラットフォーム」を構築していく。
今後、少子高齢化の進展と相まって「一人暮らしの高齢者がいま以上に増える」(山岡プロジェクトリーダー)。例えば、各家庭に見守りセンサを取り付け、ここから得られるデータをAIが分析。要介護につながるような兆候を前もって見つけることで、生涯にわたって自立した生活が送ることができるよう支援するための情報プラットフォームを実現する。
こうしたプラットフォームをパナソニックが担っていくことで、介護ITビジネスの拡大につなげていく。
大手通信キャリアも参入
KDDIが医療・介護連携ソーシャルに資本参加
KDDIは、医療・介護連携に特化したソーシャルメディア「メディカルケアステーション」を手がける日本エンブレースに資本参加した。医療・介護に特化した非公開型のソーシャルメディアで、約6万人の医療・介護職員が利用している。KDDIは医療・介護現場のIT化支援を目的に、医療・介護向けの情報プラットフォームの創出に取り組んでいく考え。
日本エンブレースの伊東学代表取締役兼CEOは、「医療・介護の現場では、口頭や電話、FAXなどで医療・介護の担当者同士の連携が進んでいる。メディカルケアステーションはそれを一段と後押ししていくもの」と、医療・介護現場のよりスムーズなコミュニケーションを支援。そのうえで、このコミュニケーション・プラットフォーム上に、例えば「血圧管理アプリ」や「整形リハビリアプリ」「副作用管理アプリ」など、さまざまなアプリケーションを乗せていくことで機能を充実させていく。
日本エンブレースでは機能拡充に際しては、KDDIのような大企業やヘルスケア関連のスタートアップ企業との協業にも力を入れる。KDDIでは強みとするIoTや5Gネットワーク、センシング技術を駆使することで、本業との相乗効果を図っていく。
Donuts(ドーナツ)
診療所向け電子カルテ、SaaS方式で推進
Donutsは、診療所向けの電子カルテ市場に新規参入した。この夏にSaaS方式の電子カルテ「CLIUS(クリアス)」のサービスをスタート(現時点では7月上旬を予定)。診療所向けの電子カルテのパッケージソフト市場を、月額料金で手軽に使えるSaaS方式によって切り崩す。同社の篠崎惇史・医療グループグループリーダーは「使い勝手のいいユーザーインターフェース(UI)開発を重視した」と、現代風のスマートなUIも強みとしている。
全国に約10万ある診療所に向けた電子カルテは、長らく売り切り型のパッケージソフトが主流だった。ここにきて同社をはじめとするSaaS方式による電子カルテベンダーが相次いで参入。診療所を巡ってはパッケージソフト陣営と、SaaS陣営の二つがパイを奪い合う様相を示している。
診療所や病院、介護事業者などが連携して地域の医療・介護サービスを提供する国の「地域包括ケアシステム」の流れのなかで、在宅で医療・介護サービスを受ける高齢者が増加。これまで以上に診療所は、訪問医療の頻度が高まるとみられている。
同社では、まずはパソコン向けに電子カルテサービスを提供するが、その後、「タブレットにも対応する予定」(CLIUSの開発を担当するDonuts社長室の五十嵐崇氏)と、訪問医療で役立つモバイル型のスマートデバイス対応も進めていく。
Donutsの篠崎惇史グループリーダー(左)と五十嵐崇氏
Donutsは、これまでSaaS方式の勤怠管理、給与計算、ワークフロー、経費精算、採用管理などの「ジョブカンシリーズ」を開発。ジョブカン勤怠管理は2万社余りに採用されるなど、SaaS方式の業務アプリで実績を積んできた。ほかにもスマートフォン向けのゲームアプリの開発を通じて、スマートデバイス向けのUI技術にも長けていることから、これらの技術やノウハウを診療所向け電子カルテにも応用していくことでビジネス拡大を目指す。
NEC
AIで3年後の健康状態を予測する
NECは、定期健康診断の情報をAIを使って分析。3年後を予測するシミュレーションシステムの開発に力を入れている。すでにNEC社内で実証実験を進めており、実用化するめどをつけている。
社内の実証実験では、5年前と4年前の2年分の定期健康診断の情報をもとに、3年後に病気になるかどうかを分析。ここで出した予測結果と、最新の健康診断の結果を突き合わせることで「予測が正しかったかどうかの答え合わせ」(福間衡治・医療ソリューション事業部事業推進部長)を行っている段階だ。
その結果、血圧や血糖値、コレステロール値など生活習慣病に関連の深い検査値をもとに、3年後の健康状態が予測可能であること。さらに、運動や食事、飲酒・喫煙、睡眠などの生活習慣を見直すと、どのように変化するかをシミュレーションできることが実証できた。19年度は分析・予測するユーザー数を増やして完成度を高めて、20年度には実用化していく計画を立てる。
左からNECの柴野暁彦グループマネージャー、
福間衡治事業推進部長、上新真衣主任
実用化できれば、過去2年の健診結果をもとにした、「オーダーメイドの保健指導が、より行いやすくなる」(柴野暁彦・医療ソリューション事業部新事業推進グループマネージャー)と話す。最終的には医師や保健師が保健指導の方針を決めるわけだが、データにもとづくAIによる予測を参考にすることで、よりスムーズに指導が行える可能性が出てくる。
NECが想定している販売先は、健康診断を実施している病院や、人間ドック/健診センターなど。AIを活用することで、病気になる割合が少しでも減少すれば、「その病院や健診センターの付加価値になるし、健康保険組合などが負担する医療費の抑制にもつながる」(上新真衣・医療ソリューション事業部事業推進部主任)と、AI活用によるメリットを訴求していく。
分析には、NECのAI「the WISE(ザワイズ)」の中核技術のひとつである異種混合学習を採用している。同技術は、多様なデータから自動で複数の規則性を発見し、予測の裏づけとなる根拠を可視化。AIが発見したルールを説明することができる、いわゆる「ホワイトボックス型」のAIアーキテクチャだ。今回の健診結果から将来を予測するシステムは、「NEC健康結果予測シミュレーション」として特許と意匠登録を出願。事業化に向けて着々と準備を進めている。
富士通
都内の広域医療の情報連携を推進
富士通は、東京都全域を対象とした地域医療連携ネットワークの構築に取り組んでいる。これは地域の中核病院と診療所をネットワークで結び、検査や診療に関わる情報を共有する仕組み。富士通が運営している「HumanBridge(ヒューマンブリッジ)」と、NECの「ID-Link(アイディーリンク)」が、地域医療連携ネットワークサービスの2大サービスとなっている。東京都内も二つのネットワークサービスが混在しているが、今年度末までには両サービスを接続して、広域連携を可能にする予定だ。
これまでも富士通ユーザーの病院と、NECユーザーの病院同士がお互いのネットワークを連携させる事例はあったが、「都道府県規模での広域連携の実現を目指すのは今回が初めて」(富士通の岩津聖二・第二ヘルスケアビジネス推進部部長)と話す。
例えば、ある患者が、かかりつけの診療所からの紹介で病院に行くとする。もし、そのかかりつけ診療所と紹介先の病院が、それぞれ異なる地域医療連携ネットワークに属していたとすれば、オンラインでの情報共有はできない。今後、都内での広域連携が実現すれば、富士通/NECのいずれかのネットワークに接続することで、検査記録や診療情報をオンラインで共有しやすくなる。
医師や患者の利便性が高まるだけでなく、将来的には「地域全体の健康状態を分析する情報基盤としての活用も視野に入ってくる」(富士通の磯貝眞也・第一ヘルスケアビジネス推進部シニアマネージャー)という。地域医療連携ネットワークの広域化を進めることで、より広範囲の健康状態を分析することが可能になる。
左から富士通の守本拓人アシスタントマネージャー、
岩津聖二部長、磯貝眞也シニアマネージャー
生活習慣病の一つの糖尿病を例に挙げれば、健康診断の情報などから糖尿病になる兆候がみられる「糖尿病予備軍という集団」。すでに糖尿病だが、適切な治療によって「健康を維持している集団」。治療がうまくいかずに「重症化する可能性が高い集団」にクループを分けて、それぞれに適切なアプローチを行う、といった取り組みを想定している。
富士通では広域化の推進によって地域医療連携ネットワークの具体的な効果をより一段と明確化することで、「医療費の抑制といった目に見える効果」(守本拓人・第三ヘルスケアビジネス推進部アシスタントマネージャー)を出し、医療ITビジネスの一層の活性化につなげていく方針だ。