データ活用が企業競争力を左右するものとして重視されるようになり、これまで以上に機能や性能が問われているデータべース(DB)。膨大な量のデータを柔軟に利用できることが求められる一方で、運用管理の負荷を軽減する機能も必要になっている。こうした市場ニーズの変化にDBはどのように応えるのか。主要DBベンダーであるオラクル、マイクロソフト、IBMの戦略から、「自動化」や「人工知能(AI)」にDBの進化の方向性がみえてきた。(取材・文/谷川耕一)
オラクル
自動化のさらに上を目指す“オートノマス”
自律型で運用管理の負担を軽減
日本オラクル
クラウド・テクノロジー戦略統括
ビジネス推進本部
本部長
佐藤裕之氏
2017年10月、米国サンフランシスコで開催されたオラクルの年次イベント「Oracle Open World 2017」。ここで「Oracle Database」の最新版「Oracle Database 18c」や自律型DBクラウドサービス「Oracle Autonomous Database Cloud」が発表され、掲げられたのが「オートノマス(自律)」というキーワードだ。ラリー・エリソン会長兼CTOは、「世界初の完全自動化、自律型DBだ」とアピールした。
DBのオートノマス戦略が生まれた背景は、オラクルが企業のデータ活用を改めて重視したことだ。データをオラクルのクラウドサービスである「Oracle Cloud」に載せることで、企業がより効率的、安定的、高速にデータを扱えるようにすることを狙う。日本オラクルのクラウド・テクノロジー戦略統括ビジネス推進本部本部長の佐藤裕之氏は、Oracle CloudでDBをオートノマス化することで、「DBの運用でクラウドが管理する部分を増やす。これによりDB管理者のルーチンワークを減らして、新しいことに取り組むことができる」と語る。
オラクルでは、DBだけでなく製品全般にわたってクラウドシフトを進めている。佐藤氏は、「クラウドではオートノマスにより、新しいムーブメントをつくりたい」と力を込める。
ところで、“自動”を意味する「オートマティック」と「オートノマス」は何が違うのだろうか。佐藤氏は、「当社ではオートノマスを単なる自動化ではなく、さらに上のレベルにあるものと位置づけている」と説明する。
これは、クラウド環境下でオラクル自身がDBの運用に積極的に関与し、性能やセキュリティレベルの向上を実現することを指している。具体的には、自動チューニングや自動での不正アクセス防止といったさまざまな自動化技術を組み合わせて、より安全で高性能なDBを提供する。「DBをクラウドに移行したものの思っていたより運用管理に手間がかかり、オラクルのオートノマスには期待しているという声もいただいている」と佐藤氏。
だが、人の介入をなくすオートノマス戦略は、オラクルのパートナーから仕事を奪うことになるのではないだろうか。佐藤氏は、「パートナーからはかなり受け入れられている」と、この疑問を一蹴する。パートナーもDBの運用管理には相当な手間がかかっており、そこから解放されるのであれば歓迎なのだ。
とはいえ、運用の全てを“オートノマス”に任せられるという訳ではなく、シビアな要件では技術者のさらなる貢献が求められる。したがって、SIerなどは技術者のスキルチェンジや人員配置の変更も必要になる。このことはパートナー企業も、冷静に受け止めているようだ。
また、佐藤氏は「“クラウド化”とはプライベートかパブリックかといったシステムを動かす場所の問題ではない」といい、「本質はオートノマスで実現するような手間の削減にある」と指摘する。オラクルでは、クラウドを新たなシステムの運用手法と捉え、ユーザーやパーナーのデータセンター内に専用のハードウェアを設置してOracle Cloudを利用できる「Oracle Cloud at Customer」としてもOracle Autonomous Database Cloudを提供していく計画だ。
オートノマス化がDBの主流に
Oracle Databaseは、今後どのように進化するのか。「15年くらい前は、Oracle Databaseにあらゆるデータを入れる方向性もあったが、後にHadoopやNoSQLなどが登場した。今ではOracleを軸に全てのデータソースにアクセスできるようにしている」と佐藤氏。
この実現に向け、現在ではOracle DatabaseではHadoopなどと密接に連携できるようになっている。これにより、DB技術者が使い慣れたOracle SQLで、非構造化データにも自由にアクセスできるようになった。こうした他のデータソースとの密接な連携は、今後もさらに強化していく方針だ。
もう一つの進化の方向性が、新しいハードウェア技術への対応だ。4年程前から「Oracle Database In-Memory」機能を提供し、カラム型データをインメモリで高速に扱えるようにした。さらにOracle Database 18cでは、一部でSSDの接続規格「NVMe(Non-Volatile Memory Express)」のサポートも始まっている。
「NVMeの活用は、インテルとの協業によって2年ほど前から取り組んでいる」(佐藤氏)。NVMeのキャッシュ的な利用は、すでに可能となっている。ただし、本格的にNVMeフラッシュメモリをOracle Databaseのストレージとして利用するには、現状ではサーバーとフラッシュメモリが結びついており、共有型ディスクのアーキテクチャであるOracle Databaseで活用するにはもう少し時間がかかる見込みだ。
また、新しい「Oracle Exadata」の投入も計画されている。Exadataの進化とOracle Autonomous Database Cloudを組み合わせることでさらに自律化が進み、ユーザーはより最適化したDBを使えるようになる。「これで、ユーザーのビッグデータ活用のハードルはさらに下がるだろう」と佐藤氏は話す。
これまでのIaaS、PaaSは第一世代のクラウドサービスだった。Oracleがオートノマスを提供したことで、PaaSは第二世代に突入した。今後、「他のベンダーのPaaSもオートノマスに似たものになってくる」と佐藤氏。「先陣を切ったことでオラクルは、しばらくは優位性を維持できるはず。その上でより進化した第三世代のクラウドサービスも、やがては登場するだろう」としている。
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