Special Feature
ポスト2020のPCビジネス
2018/08/29 09:00
週刊BCN 2018年08月20日vol.1739掲載
国内PC市場が右肩上がりで推移している。推進役となっているのは法人向けPCだ。働き方改革やデジタルトランスフォーメーションの流れに加えて、2020年1月の「Windows 7」の延長サポート終了を見据えた買い替え需要の顕在化が需要を後押ししている。個人向けPCはマイナス成長を続けているものの、ゲーミングPCの販売拡大や、19年10月に予定されている消費増税前の駆け込み需要が想定されることから、今後は販売に弾みがつきそうだ。とはいえ、20年以降の動向については、需要低迷を懸念する声もある。国内PC市場の「いま」と「未来」と追った。(取材・文/大河原克行)
国内PC市場は、拡大基調にある。
調査会社のMM総研が発表した17年度の国内PC実績によると、出荷台数は前年度比2.2%増の1033万9000台となり、2年連続のプラスになった。
成長をけん引しているのは法人向けPCだ。出荷台数は前年比6.5%増の654万1000台で、2年連続のプラスとなっている。この傾向は18年度も続くとみており、台数は前年度比12.6%増の736万5000台。PC市場全体では前年度比6%増の1096万台に達すると予測している。
「Windows 7特需」に備える動きも
PC業界全体では、20年までの市場動向について楽観的な見方が強い。
最大の理由は、20年1月14日に「Windows 7」の延長サポートの終了が控えているからだ。それ以降は、新たなセキュリティ更新プログラムが提供されなくなるため、安全な環境でPCを使い続けることができなくなる。
そのため、日本マイクロソフトだけでなくPC業界全体で「Windows 10」をはじめとする新たなOS環境への移行が呼びかけられており、それに合わせた需要が顕在化し始めている。
富士通ブランドのノートPCを生産する島根富士通では、18年6月に生産ラインを増設。神門明社長は、「Windows 7の延長サポート終了に合わせた需要がすでに生まれている。18年度内にもう1本、ラインを増設したい」と話す。生産ラインを2本増設することで、14年4月の「Windows XP」延長サポート終了時に起こった特需の際と同規模のライン数となり、需要増に向けた体制の整備が整うことになる。
ただし、当時との違いは、雇用できる人材が不足していること。ロボットやAI、IoTを活用しながら生産性の高い設備へと改善することで、需要増に対応する考えだ。
島根富士通では、2018年6月からラインを増設して
ノートPCの生産を行っている
消費増税や働き方改革も需要を後押し
パナソニック
コネクティッドソリューションズ社
樋口泰行
社長
Windows 7の延長サポート終了以外にも、PC需要の増加を促す要因がある。
一つは、19年10月に予定されている消費増税に伴う駆け込み需要だ。14年4月に消費税が8%に上がった際もWindows XPの延長サポート終了とタイミングが重なったが、今回もほぼ数か月の差で実施されることになる。消費税が10%に上がる前に購入したいという動きが出てくることになり、特需を前倒しする要素にもなる。
さらに、政府が推進している働き方改革もプラス効果となっている。テレワークの推進や、時間や場所に縛られないかたちで働くモバイルワーカーの増加によって、持ち運びに適したPCが堅調な売れ行きをみせているのだ。
「レッツノート」を擁するパナソニックは、IDC Japanの調査においてモバイルノートPC分野で14年連続トップシェアを獲得。17年度もこの分野では67%と、3台に2台という圧倒的なシェアを獲得しているが、それでも予想を上回る売れ行きに、17年度末には品切れを起こすという状況に陥った。
パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長は、「働き方改革が叫ばれるなかで、軽くて薄くてバッテリーの持ちがよく信頼性が高いというレッツノートの特性が、日本企業の働き方の変化に求められる要素と合致している」と強調。「17年度末には、納期通りに納められないという問題が起きたが、ほとんどの顧客が納品を待ってくれた。納品を待ってもらえるのはアップルとレッツノートだけだといわれ、それだけ強い支持を得ていることを改めて実感した」と自信をみせる。
レッツノートの17年度実績は、前年度比30%増の42万台。発売から21年間の歴史のなかで、過去最高の出荷台数を記録したという。18年度も同等規模の成長を目指す方針だ。
日本マイクロソフト
平野拓也
社長
また、日本マイクロソフトでは、「働き方に最も適したPC」とアピールする「Surface」の売れ行きが好調だ。18年度(17年7月~18年6月)におけるSurfaceの売上実績は、6月の期末を待たずして年間計画を達成した。同社の平野拓也社長は、「19年度(18年7月~19年6月)は、Surfaceシリーズの売り上げで、前年度比1.5倍を目指したい」と意欲をみせる。
新たに市場に投入する「Surface Go」では、「コンシューマ」「最前線で働く人」「教育機関」の三つをターゲットとし、とくに法人利用では、製造や建築、医療現場といった現場で従事する層の利用を狙う。デジタルトランスフォーメーションにおいて、「現場」の働き方改革は重要なテーマの一つとされるが、ここへの提案はアップルの「iPad」が先行し、Windows陣営が遅れていた。Surface Goと現場ソリューションを組み合わせた提案が、今後は注目される。
これらのほか、18年度には中小企業を対象にした「サービス等生産性向上IT導入支援事業」の補助金規模がさらに拡大していることや、20年に開催を控える東京五輪までの景気上昇も需要を促している。
個人向けでは学生・生徒の利用がカギ
低迷が続く個人向けPC市場にも、追い風が期待されている。
一つは、20年度小学校で実施されるプログラミング教育の必修化に伴う需要の増加だ。これにより、政府による小学校へのプログラミング環境の整備が促進されるだけでなく、子ども向けPCの販売拡大も見込める。
PCメーカーや周辺機器メーカー、家電量販店などが参加するWindows Digital Lifestyle Consortium(WDLC)では、17年の年末商戦で「My First PC 年末キャンペーン」を実施し、小中学生を対象に需要を喚起。18年7月には、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が、国内初となる小学生専用に設計・開発したノートPC「LIFEBOOK LHシリーズ」を発売した。「新入学生のランドセルや勉強机の需要は夏休みから始まるが、そこにPCも加えてもらえるような提案もしたい」(FCCL)と、新たな需要の創出に期待を示す。
また、アップルでは、スマートフォン(スマホ)を活用する大学生をターゲットに「MacBook」の需要喚起を強化しており、これも個人向け市場を開拓する取り組みの一例として注目を集めている。
例えば、量販店のエディオンと連携し、今年8月までの期間中、「新しい私へ」をテーマにしたテレビCMを一部地域で放送。MacBookユーザーの先輩女子大生の姿に憧れて、自分もそれを真似てMacBookを購入する女子大生のストーリーを描いた。
さらに、これに合わせて、25歳以下のiMacおよびMacBookの購入者を対象に、「Apple Care+for Mac」に同時加入すると5000円割引きになるキャンペーンを実施している。
ちなみに、量販店がアップル製品を個別に取り上げてテレビCMを展開するのは、世界的にみても珍しい。アップルとエディオンの戦略性が浮き彫りになっている。
アップルでは、こうした大学生への訴求に加えて、東京、大阪、名古屋を重点市場としたエリア戦略も推進しており、若年層を中心とした普及に向け余念がない。同社が狙う大学生や若い社会人層も、Windows陣営にとって開拓の余地がある市場だといえそうだ。
また、eスポーツの広がりとともにゲーミングPCが順調に販売を拡大したり、単価が高い高機能モデルの販売が増加したりといった動きも、個人向けPC市場の活性化につながっている。
日本の特需に対応できる体制を
日本HP
岡隆史
社長
実は、これまで触れてきた需要拡大要素のほとんどが、日本の市場固有のものだ。プログラミング教育の必修化や消費増税、政府が推進する働き方改革および補助金制度、東京五輪による景気向上はもとより、Windows 7の延長サポート終了に伴う特需の規模も日本が最も大きい。
日本HPの岡隆史社長は、「海外では多くの企業がWindows 10環境に移行しており、ここまで需要が集中すると予測されているのは日本だけ。これからは製品で選ぶよりも、ベンダーを選ぶ時代が訪れる」といい、米HPがもつグローバルの調達力と、「MADE IN TOKYO」による独自の国内生産体制を活用しながら、日本固有の特需に対応する姿勢をみせる。
外資系PCメーカーにとっては、単価が高い日本の特需に合わせてどれだけの物量を日本向けに優先的に確保できるかが、今後の販売増に向けたカギとなりそうだ。
特需の反動減が起こる可能性
だが、Windows 7の延長サポートが終了する20年1月以降は、PC市場の低迷が予想されている。それは、Windows XPの延長サポート終了時の特需の反動による苦い経験からも明白だ。
MM総研の調査によると、Windows XPの延長サポート終了直前の13年度は、過去最高となる1651万3000台の出荷実績があったものの、14年度には1260万9000台に減少。15年度には990万6000台と、年間1000万台を割り込み、最盛期の約6割にまで減少している。2000年代に入ってから、年間1000万台を切ったのは初めてのことだった。
その後プラスに転じたものの、1000万台強の規模で推移している。Windows 7のサポート終了にあたっても、これと同じ動きが起こると考えられる。
Windows 7移行の選択肢であるWindows 10。「Windows as a Service」と呼ぶ継続的なアップデートを行うWindows 10に移行することによって、今後は、OSのサポート終了に伴う買い替え特需は発生しないことになる。つまり、PC業界にとってはWindows 7の移行が「最後の特需」となり、次の特需がこないまま、その反動が数年続くことになる。
実際に、Windows XP特需以降、PCメーカーの業績は悪化。出荷台数が減少したり、赤字に陥る例がみられた。それが、昨今の業界再編の温床にもなっている。同じことを繰り返さないための施策が求められている。
FCCLはInfini-Brainを新ビジネスに
そこで、PCメーカー各社は20年以降に向けて、新たな市場領域の開拓に取り組み始めている。
各社が創出しようとしている領域は、VRやAR、IoT、AI、エッジコンピューティングの最新技術を活用したデバイスのほか、「働き方改革ソリューション」や「現場ソリューション」などのソリューションの提供だ。
新たな市場開拓の一例としてあげられるのが、FCCLが16年4月から取り組んでいる新規事業創出プロジェクト「Computing for Tomorrow(CFT)」である。PCやタブレット端末といったこれまでの延長線上とは違う商品の創出に挑むために、社内からアイデアを募集。プロジェクト参加者は、専任でこれに取り組み、半年ごとに成果を評価したうえで、次のステップへと進むことになる。18年4月からは、CFT全体をアイデアの創出フェーズから脱却し、事業化を重視した「CFT 2020」へと進化させている。
富士通クライアントコンピューティングのエッジコンピューター
「Infini-Brain」の試作品
そのなかで、新ビジネスの最有力候補となっているのが、「Infini-Brain」と呼ばれるエッジコンピューターだ。CFTの取り組みのなかで、コンビニやスーパーマーケットなどに設置したカメラの映像をもとに、人の挙動や物の状態を検出し、店内の万引きや販売機会損失の抑止などに活用する目的で開発が進められてきたプロジェクト「KEN」において、AIによる画像認識やデータ分析を行う役割を果たす「KEN-BRAIN」を改良。これを、Infini-Brainとして切り出して、事業化に乗り出す。
Infini-Brainは、六つの高性能CPUを搭載するとともに、GPUやFPGAのほか、大量のメモリーも搭載することで、リアルタイムでの高速処理を実現することになる。
FCCLの仁川進執行役員は、「Infini-Brainを軸にした新たなビジネスで、売上高の2~3割を占めたい」と意気込む。APIの公開やSDKの提供を通じて、外部のパートナーを巻き込んだかたちで、Infini-Brainを活用した特定業種/業務ソリューションの提案を進めていくことになる。
また、FCCLの竹田弘康副社長兼COOは、「Infini-Brainに加えて、教育向けエッジコンピューター『MIB(Men in Box)』や、電子ペーパーを採用したタブレット端末など、20年に向けて10個近いプロジェクトを推進している。想定されるそれぞれの事業規模は小さいが、10億円×10プロジェクトといった規模で、新たな事業を創出したい」としている。
NEC PCはR&D活動を本格化
NECパーソナルコンピュータ
社長兼レノボ・ジャパン社長
デビット・ベネット氏
同様の取り組みは、NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)でも始まっている。
山形県米沢市の同社米沢事業場において、17年に「NT&Iチーム」が発足。次のイノベーションに向けたテクノロジーを見つけ、日本で展開するためのR&D組織として、本格活動を開始している。
18年5月に、NECパーソナルコンピュータの社長およびレノボ・ジャパンの社長に就任したデビット・ベネット氏は、「縮小するPC市場のなかで成長するだけでなく、PCを超えた領域でのポートフォリオ拡大を狙っている。米沢事業場のNT&Iチームは、その役割を担う組織で、これによって新たな市場での事業拡大を見込む」と説明する。
レノボグループでは、「3-Wave Strategy」を推進しており、第一の波にPCおよびタブレット端末、第二の波にサーバーおよびモバイルを位置づけ、第三の波に、スマートデバイスやクラウドサービスによる新たな領域での取り組みを定義している。
新たな市場の開拓に向けては、日本交通との協業により、4000台のタクシーにレノボのタブレット端末を搭載し、車内デジサルサイネージや電子決済に活用しているほか、コンビニエンスストアでのトレーニングにおけるVR活用や、積木製作との協業による住宅設計や購入におけるVR活用の取り組み例などが出ているという。
「レノボグループのハードウェアやソリューションと、パートナーがもつソリューションと組み合わせて提供することで、課題を解決したり、新たなビジネスに創出につなげたりといったことが可能になる。ARやVRを活用したソリューション提案はその一つ。マーケットリーダーであるポジションを生かして、次のビジネスチャンスがどこにあるのかを見つけていかなくてはならない」とベネット社長は話す。
また、ベネット社長は「私のゴールの一つが、日本で展開していることを、どうやって世界に展開するかだ」と語っている。「ThinkPad X1 Carbon」や「LAVIE Hybrid ZERO」に代表される日本生まれの製品を成長が見込める海外PC市場に展開し、事業を拡大していくことも、20年以降を見据えた一手といえそうだ。
だが、各社の取り組みをみると、その多くがソリューション型のビジネスであり、ビジネスが「離陸」するまでには一定の時間を要するのも確かだ。
20年以降のPCビジネスの縮小を考えれば、新たなビジネスの創出に向けては、もはや制限時間ぎりぎりのところまできている。
需要の落ち込みをカバーするための最終的な答えを見つけ出せないままで、PC業界は20年を迎えることになるのか。特需の「あと」こそが、PC業界の生き残りを左右する重要な試金石となる。残された時間は少ない。
“Windows最後の特需”の先にある世界
法人PCが市場の成長をけん引国内PC市場は、拡大基調にある。
調査会社のMM総研が発表した17年度の国内PC実績によると、出荷台数は前年度比2.2%増の1033万9000台となり、2年連続のプラスになった。
成長をけん引しているのは法人向けPCだ。出荷台数は前年比6.5%増の654万1000台で、2年連続のプラスとなっている。この傾向は18年度も続くとみており、台数は前年度比12.6%増の736万5000台。PC市場全体では前年度比6%増の1096万台に達すると予測している。
「Windows 7特需」に備える動きも
PC業界全体では、20年までの市場動向について楽観的な見方が強い。
最大の理由は、20年1月14日に「Windows 7」の延長サポートの終了が控えているからだ。それ以降は、新たなセキュリティ更新プログラムが提供されなくなるため、安全な環境でPCを使い続けることができなくなる。
そのため、日本マイクロソフトだけでなくPC業界全体で「Windows 10」をはじめとする新たなOS環境への移行が呼びかけられており、それに合わせた需要が顕在化し始めている。
富士通ブランドのノートPCを生産する島根富士通では、18年6月に生産ラインを増設。神門明社長は、「Windows 7の延長サポート終了に合わせた需要がすでに生まれている。18年度内にもう1本、ラインを増設したい」と話す。生産ラインを2本増設することで、14年4月の「Windows XP」延長サポート終了時に起こった特需の際と同規模のライン数となり、需要増に向けた体制の整備が整うことになる。
ただし、当時との違いは、雇用できる人材が不足していること。ロボットやAI、IoTを活用しながら生産性の高い設備へと改善することで、需要増に対応する考えだ。
ノートPCの生産を行っている
消費増税や働き方改革も需要を後押し
コネクティッドソリューションズ社
樋口泰行
社長
一つは、19年10月に予定されている消費増税に伴う駆け込み需要だ。14年4月に消費税が8%に上がった際もWindows XPの延長サポート終了とタイミングが重なったが、今回もほぼ数か月の差で実施されることになる。消費税が10%に上がる前に購入したいという動きが出てくることになり、特需を前倒しする要素にもなる。
さらに、政府が推進している働き方改革もプラス効果となっている。テレワークの推進や、時間や場所に縛られないかたちで働くモバイルワーカーの増加によって、持ち運びに適したPCが堅調な売れ行きをみせているのだ。
「レッツノート」を擁するパナソニックは、IDC Japanの調査においてモバイルノートPC分野で14年連続トップシェアを獲得。17年度もこの分野では67%と、3台に2台という圧倒的なシェアを獲得しているが、それでも予想を上回る売れ行きに、17年度末には品切れを起こすという状況に陥った。
パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長は、「働き方改革が叫ばれるなかで、軽くて薄くてバッテリーの持ちがよく信頼性が高いというレッツノートの特性が、日本企業の働き方の変化に求められる要素と合致している」と強調。「17年度末には、納期通りに納められないという問題が起きたが、ほとんどの顧客が納品を待ってくれた。納品を待ってもらえるのはアップルとレッツノートだけだといわれ、それだけ強い支持を得ていることを改めて実感した」と自信をみせる。
レッツノートの17年度実績は、前年度比30%増の42万台。発売から21年間の歴史のなかで、過去最高の出荷台数を記録したという。18年度も同等規模の成長を目指す方針だ。

平野拓也
社長
新たに市場に投入する「Surface Go」では、「コンシューマ」「最前線で働く人」「教育機関」の三つをターゲットとし、とくに法人利用では、製造や建築、医療現場といった現場で従事する層の利用を狙う。デジタルトランスフォーメーションにおいて、「現場」の働き方改革は重要なテーマの一つとされるが、ここへの提案はアップルの「iPad」が先行し、Windows陣営が遅れていた。Surface Goと現場ソリューションを組み合わせた提案が、今後は注目される。
これらのほか、18年度には中小企業を対象にした「サービス等生産性向上IT導入支援事業」の補助金規模がさらに拡大していることや、20年に開催を控える東京五輪までの景気上昇も需要を促している。
個人向けでは学生・生徒の利用がカギ
低迷が続く個人向けPC市場にも、追い風が期待されている。
一つは、20年度小学校で実施されるプログラミング教育の必修化に伴う需要の増加だ。これにより、政府による小学校へのプログラミング環境の整備が促進されるだけでなく、子ども向けPCの販売拡大も見込める。
PCメーカーや周辺機器メーカー、家電量販店などが参加するWindows Digital Lifestyle Consortium(WDLC)では、17年の年末商戦で「My First PC 年末キャンペーン」を実施し、小中学生を対象に需要を喚起。18年7月には、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が、国内初となる小学生専用に設計・開発したノートPC「LIFEBOOK LHシリーズ」を発売した。「新入学生のランドセルや勉強机の需要は夏休みから始まるが、そこにPCも加えてもらえるような提案もしたい」(FCCL)と、新たな需要の創出に期待を示す。
また、アップルでは、スマートフォン(スマホ)を活用する大学生をターゲットに「MacBook」の需要喚起を強化しており、これも個人向け市場を開拓する取り組みの一例として注目を集めている。
例えば、量販店のエディオンと連携し、今年8月までの期間中、「新しい私へ」をテーマにしたテレビCMを一部地域で放送。MacBookユーザーの先輩女子大生の姿に憧れて、自分もそれを真似てMacBookを購入する女子大生のストーリーを描いた。
さらに、これに合わせて、25歳以下のiMacおよびMacBookの購入者を対象に、「Apple Care+for Mac」に同時加入すると5000円割引きになるキャンペーンを実施している。
ちなみに、量販店がアップル製品を個別に取り上げてテレビCMを展開するのは、世界的にみても珍しい。アップルとエディオンの戦略性が浮き彫りになっている。
アップルでは、こうした大学生への訴求に加えて、東京、大阪、名古屋を重点市場としたエリア戦略も推進しており、若年層を中心とした普及に向け余念がない。同社が狙う大学生や若い社会人層も、Windows陣営にとって開拓の余地がある市場だといえそうだ。
また、eスポーツの広がりとともにゲーミングPCが順調に販売を拡大したり、単価が高い高機能モデルの販売が増加したりといった動きも、個人向けPC市場の活性化につながっている。
日本の特需に対応できる体制を
岡隆史
社長
日本HPの岡隆史社長は、「海外では多くの企業がWindows 10環境に移行しており、ここまで需要が集中すると予測されているのは日本だけ。これからは製品で選ぶよりも、ベンダーを選ぶ時代が訪れる」といい、米HPがもつグローバルの調達力と、「MADE IN TOKYO」による独自の国内生産体制を活用しながら、日本固有の特需に対応する姿勢をみせる。
外資系PCメーカーにとっては、単価が高い日本の特需に合わせてどれだけの物量を日本向けに優先的に確保できるかが、今後の販売増に向けたカギとなりそうだ。
特需の反動減が起こる可能性
だが、Windows 7の延長サポートが終了する20年1月以降は、PC市場の低迷が予想されている。それは、Windows XPの延長サポート終了時の特需の反動による苦い経験からも明白だ。
MM総研の調査によると、Windows XPの延長サポート終了直前の13年度は、過去最高となる1651万3000台の出荷実績があったものの、14年度には1260万9000台に減少。15年度には990万6000台と、年間1000万台を割り込み、最盛期の約6割にまで減少している。2000年代に入ってから、年間1000万台を切ったのは初めてのことだった。
その後プラスに転じたものの、1000万台強の規模で推移している。Windows 7のサポート終了にあたっても、これと同じ動きが起こると考えられる。
Windows 7移行の選択肢であるWindows 10。「Windows as a Service」と呼ぶ継続的なアップデートを行うWindows 10に移行することによって、今後は、OSのサポート終了に伴う買い替え特需は発生しないことになる。つまり、PC業界にとってはWindows 7の移行が「最後の特需」となり、次の特需がこないまま、その反動が数年続くことになる。
実際に、Windows XP特需以降、PCメーカーの業績は悪化。出荷台数が減少したり、赤字に陥る例がみられた。それが、昨今の業界再編の温床にもなっている。同じことを繰り返さないための施策が求められている。
FCCLはInfini-Brainを新ビジネスに
そこで、PCメーカー各社は20年以降に向けて、新たな市場領域の開拓に取り組み始めている。
各社が創出しようとしている領域は、VRやAR、IoT、AI、エッジコンピューティングの最新技術を活用したデバイスのほか、「働き方改革ソリューション」や「現場ソリューション」などのソリューションの提供だ。
新たな市場開拓の一例としてあげられるのが、FCCLが16年4月から取り組んでいる新規事業創出プロジェクト「Computing for Tomorrow(CFT)」である。PCやタブレット端末といったこれまでの延長線上とは違う商品の創出に挑むために、社内からアイデアを募集。プロジェクト参加者は、専任でこれに取り組み、半年ごとに成果を評価したうえで、次のステップへと進むことになる。18年4月からは、CFT全体をアイデアの創出フェーズから脱却し、事業化を重視した「CFT 2020」へと進化させている。
「Infini-Brain」の試作品
そのなかで、新ビジネスの最有力候補となっているのが、「Infini-Brain」と呼ばれるエッジコンピューターだ。CFTの取り組みのなかで、コンビニやスーパーマーケットなどに設置したカメラの映像をもとに、人の挙動や物の状態を検出し、店内の万引きや販売機会損失の抑止などに活用する目的で開発が進められてきたプロジェクト「KEN」において、AIによる画像認識やデータ分析を行う役割を果たす「KEN-BRAIN」を改良。これを、Infini-Brainとして切り出して、事業化に乗り出す。
Infini-Brainは、六つの高性能CPUを搭載するとともに、GPUやFPGAのほか、大量のメモリーも搭載することで、リアルタイムでの高速処理を実現することになる。
FCCLの仁川進執行役員は、「Infini-Brainを軸にした新たなビジネスで、売上高の2~3割を占めたい」と意気込む。APIの公開やSDKの提供を通じて、外部のパートナーを巻き込んだかたちで、Infini-Brainを活用した特定業種/業務ソリューションの提案を進めていくことになる。
また、FCCLの竹田弘康副社長兼COOは、「Infini-Brainに加えて、教育向けエッジコンピューター『MIB(Men in Box)』や、電子ペーパーを採用したタブレット端末など、20年に向けて10個近いプロジェクトを推進している。想定されるそれぞれの事業規模は小さいが、10億円×10プロジェクトといった規模で、新たな事業を創出したい」としている。
NEC PCはR&D活動を本格化
社長兼レノボ・ジャパン社長
デビット・ベネット氏
山形県米沢市の同社米沢事業場において、17年に「NT&Iチーム」が発足。次のイノベーションに向けたテクノロジーを見つけ、日本で展開するためのR&D組織として、本格活動を開始している。
18年5月に、NECパーソナルコンピュータの社長およびレノボ・ジャパンの社長に就任したデビット・ベネット氏は、「縮小するPC市場のなかで成長するだけでなく、PCを超えた領域でのポートフォリオ拡大を狙っている。米沢事業場のNT&Iチームは、その役割を担う組織で、これによって新たな市場での事業拡大を見込む」と説明する。
レノボグループでは、「3-Wave Strategy」を推進しており、第一の波にPCおよびタブレット端末、第二の波にサーバーおよびモバイルを位置づけ、第三の波に、スマートデバイスやクラウドサービスによる新たな領域での取り組みを定義している。
新たな市場の開拓に向けては、日本交通との協業により、4000台のタクシーにレノボのタブレット端末を搭載し、車内デジサルサイネージや電子決済に活用しているほか、コンビニエンスストアでのトレーニングにおけるVR活用や、積木製作との協業による住宅設計や購入におけるVR活用の取り組み例などが出ているという。
「レノボグループのハードウェアやソリューションと、パートナーがもつソリューションと組み合わせて提供することで、課題を解決したり、新たなビジネスに創出につなげたりといったことが可能になる。ARやVRを活用したソリューション提案はその一つ。マーケットリーダーであるポジションを生かして、次のビジネスチャンスがどこにあるのかを見つけていかなくてはならない」とベネット社長は話す。
また、ベネット社長は「私のゴールの一つが、日本で展開していることを、どうやって世界に展開するかだ」と語っている。「ThinkPad X1 Carbon」や「LAVIE Hybrid ZERO」に代表される日本生まれの製品を成長が見込める海外PC市場に展開し、事業を拡大していくことも、20年以降を見据えた一手といえそうだ。
記者の眼
20年以降、PC市場が縮小するのは明らかであり、それに向けた準備にPCメーカー各社は余念がない。だが、各社の取り組みをみると、その多くがソリューション型のビジネスであり、ビジネスが「離陸」するまでには一定の時間を要するのも確かだ。
20年以降のPCビジネスの縮小を考えれば、新たなビジネスの創出に向けては、もはや制限時間ぎりぎりのところまできている。
需要の落ち込みをカバーするための最終的な答えを見つけ出せないままで、PC業界は20年を迎えることになるのか。特需の「あと」こそが、PC業界の生き残りを左右する重要な試金石となる。残された時間は少ない。
国内PC市場が右肩上がりで推移している。推進役となっているのは法人向けPCだ。働き方改革やデジタルトランスフォーメーションの流れに加えて、2020年1月の「Windows 7」の延長サポート終了を見据えた買い替え需要の顕在化が需要を後押ししている。個人向けPCはマイナス成長を続けているものの、ゲーミングPCの販売拡大や、19年10月に予定されている消費増税前の駆け込み需要が想定されることから、今後は販売に弾みがつきそうだ。とはいえ、20年以降の動向については、需要低迷を懸念する声もある。国内PC市場の「いま」と「未来」と追った。(取材・文/大河原克行)
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