大手携帯キャリア3社は、IoT・5Gソリューションの開発・検証環境をオープンし、そこを中心としてパートナー戦略を組み立てている。一見、横並びに思える状況だが、そこにはそれぞれ異なる方針があり、パートナーに対するサポートの内容にも差がある。どのキャリアと組むことで、何を実現できるようになるのか。違いをまとめた。
NTTドコモ
NTTドコモの「5Gオープンパートナープログラム」では、専用のウェブサイトに登録することで5G関連の技術情報を得ることができるほか、東京・四谷と大阪・梅田にある5Gの検証環境で、パートナー企業が持つデバイスやアプリケーションを5G伝送実験装置につないでデモンストレーションを行うことができる。また、定期的にパートナーワークショップを行っており、ウェブサイト上だけでなく、リアルにおいてもパートナー同士のマッチング促進に努めている。
参加企業・団体はITから流通、メディア、製造、建設、教育まで、さまざまな業種業態が揃っている。企業だけでなく、自治体とも連携を強化しており、ラボを開設している大阪市と連携協定を結んでいるほか、多くの地方自治体とも取り組みを進めている。
また、各ラボにはテレコムクラウド環境を構築しており、参加パートナーが技術を持ち寄って検証することができ、技術面でのマッチングも展開している。宮本氏は「5Gでは通信インフラだけでなく、用途などの広がりも必要になる。エンドユーザーや、サービス事業者に5Gの情報を提供していき、周辺技術なども一緒に進化させることで次世代のビジネスを創出していきたい」と語る。
ワークショップの様子。多くのアイデアを持ち寄って、マッチングを行う
またNTTドコモは、モバイル通信の標準仕様を定めるプロジェクト「3GPP」でも複数の部会で議長・副議長を務めるなど、標準化作業にコミットしてきた。5Gイノベーション推進室5G方式研究グループグループリーダの奥村幸彦氏は「5Gを応用する場合、ネットワークのシステムがどのような性能を持ちうるのか、平均性能、最大性能ともに性質や能力を十分に理解している。見識の深さはほかにない強みだと感じている」と自信をみせている。
KDDI
KDDIは主に二方面から5Gのパートナー拡大を進める。一つは、大手企業への個別のアプローチで、昨年からNHK、大林組、JR東日本などと実証実験を開始済み。もう一つが、今年9月に東京・虎の門に開設した開発拠点「DIGITAL GATE」を中心とした取り組みだ。
KDDIの山根隆行・経営戦略本部
KDDI DIGITAL GATEセンター長
DIGITAL GATEでは、5Gという技術を起点とするのではなく、ユースケースを起点とすることが特徴で、5Gはあくまでもアイデアを実現するための手法の一つでしかないという。まず、DIGITAL GATEを訪れたパートナーが目指すサービス、アイデアの実現に必要となる技術を検討する。そこで5Gネットワークが必要になることもあれば、必要としないこともあるという考え方だ。このプロセスの中では、KDDIのUXデザイナーや事業開発専門チームによるアドバイスを受けることができ、ソラコムやアイレット、データ分析を手掛けるアライズアナリティクスといったKDDI傘下の企業群とともに、アジャイル開発でサービスのプロトタイピングを行っていく。
DIGITAL GATEの設備。5Gだけでなく、セルラーLPWAなどの環境も整っている
DIGITAL GATEセンター長の山根隆行氏は「イノベーティブなものには答えがないため、なるべく早くアイデアを実現し、実行して、ダメであれば変化しなくてはいけない」として、スピーディーに開発を進めることが重要だと指摘する。
また、個別での協業、DIGITAL GATEでの協業にかかわらず、KDDIが共通して重要視するのは現場での実用性だ。山根氏は「5Gは現場の人に使ってもらって、なんぼの世界。開発は拠点で進めるが、必ず現地でユーザーに検証してもらうことが必要だ。そうすることで課題が見つかる」と語り、パートナーとのサービス開発では、フィールドでのテストにもKDDIのエンジニアが協力する用意があるとした。
ソフトバンク
ソフトバンクが5Gのパートナープログラムとして取り組んでいるのは、「5G×IoT Studio」だ。今年2月に開始し、5月には東京・お台場に5Gの実験設備を完備した施設「お台場ラボ」をオープンしている。
お台場ラボでは、24時間ソフトバンクの5G無線機が稼働しており、パートナーは自社が持つアプリケーションの挙動を実際に5Gネットワークに接続して検証することができる。「パートナーが求めているネットワークの要件を知るのが狙い」というこのラボでは、パートナーのみで実験を行うこともあれば、ソフトバンクがパートナーと一緒になって試験内容の評価まで行うこともあるという。
5G×IoT Studioの設備。ソフトバンク独自のインフラ網が構築されている
ラボの環境に関しては、無線部分以外のインフラも重視しており、エッジコンピューティングを想定した高性能サーバーなどを用意している。湧川氏は「例えば、データをインターネット越しに飛ばそうとして時間がかかってしまっては、無線区間でどれだけ速く通信できても意味がない」と語る。5Gネットワークと直接接続されたエッジコンピューティング用サーバーを用いることで、ソフトバンク網内だけでデータの処理を完結できる環境が整っているのだという。
また、ソフトバンクが出資する幅広い企業群も強みの一つである。アーム、エヌビディアをはじめ、コワーキングスペースのウィーワーク、ロボット開発のボストン・ダイナミクスなども、独自に5Gサービスの開発を進めている。「グループ内で自らサービスを開発しているからこそ、パートナーの目線に立った支援ができる。ネットワークとサービスの両方で取り組めるのは強い」と湧川氏は胸を張る。
「5Gではいろいろなビジネスモデルが考えられる。イノベーティブなアイデアを持つ顧客と連携することで、5Gはもっと面白くなる」と期待感を示した。