SIerのソフトウェア開発で、OSS(オープンソース・ソフトウェア)の存在が一段と重みを増している。OSSによって実現する開発サイクルの短期化や、継続してソフトを開発・構築する「CI/CD(継続的開発/構築)」は、いずれも顧客企業が新規にビジネスを立ち上げるのに欠かせないソフトウェアの開発手法となっているからだ。近年では、この開発サイクルの短期化、継続開発を支えるOSSが一段と拡充。OSSをどのように使い、また自らもOSSの開発にどのように寄与していくかがSIerの競争力に大きな影響を与えている。SIerのOSSを活用したソフト開発の最前線に迫った。(取材・文/安藤章司)
短いサイクルで継続的な開発 メジャー化する新OSSが続々登場
ユーザー企業が売り上げや利益の創出につながるIT投資を増やすのに従い、ソフトウェアをより早く、より安く作る手法を積極的に取り入れる気運が強まっている。
いわゆる「デジタルビジネス」と呼ばれる新規ビジネスは、試行錯誤を繰り返しつつ、うまくいかないようであればすぐに次に移る、短いサイクルの連続。デジタルビジネスを支えるソフト開発も、必然的に短いサイクルで、頻繁に新規リリースやアップデートを行う開発手法が重宝される。
そのデジタルビジネス時代におけるソフト開発の立役者がOSSである。近年では、短いサイクルで開発したり、連続してアップデートを行うソフト開発を支援するOSSが充実。こうした新しいOSSをうまく使いこなせるかどうかで、SIerの競争力が左右されるといわれるまでになってきている。
例えば、ユーザー企業が新しいデジタルビジネスを立ち上げる際に、まずは実証実験を行うことでエンドユーザーの反応を確かめるケースが増えている。実証実験において、いきなり高価な商用ツールを購入するのはハードルが高い。まずは、無料で配布されているOSS版と、安価に使えるパブリッククラウドを組み合わせることで、低コストかつ迅速に実証実験を行うことが好まれる。日本OSS推進フォーラムの副理事長を務めるサイオステクノロジーの黒坂肇・OSSテクノロジーセンター長は、「スタートが早ければ、新サービスを成功に導くためのナレッジも、ライバル他社より早く蓄積でき、成功の確率が高まる」と指摘している。
OSSは、最初の一歩である実証実験で採用されやすい特性があり、使い勝手が良ければそのまま本番サービスへと活用されていく。本番サービスへの採用が相次ぐことで、ユーザー数が増え、当該OSSを習熟する技術者数も増加。よりメジャーなOSSとして認知され、さらにユーザー数を増やす好循環をつくりだす。
近年においても、クラウドオーケストレーション/コンテナ型仮想化の管理ツールの「Kubernetes(クーベネティス)」や、CI/CDツールの「Jenkins(ジェンキンス)」、ソースコード管理の「GitLab(ギットラボ)」といった、メジャーなOSSが多数登場している。
日本OSS推進フォーラムの副理事長を務める
サイオステクノロジーの黒坂肇・OSSテクノロジーセンター長
OSSが存在感を示す背景には、有力プラットフォーマーのしたたかな戦略も見え隠れする。グーグルやフェイスブックといった企業向けSIとは距離があったサービスベンダーも積極的にOSS開発に寄与。米IBMはOSSディストリビューターの米レッドハットを傘下に収めることで、自社ビジネスを有利に導こうとしている。また、大手パブリッククラウドベンダーも有力OSSの取り込みを加速。プラットフォームビジネスをより有利に展開できると踏んでいるようだ。
デジタルビジネスの拡大を志向するユーザー企業、その需要を取り込もうとするSIer、OSSに深く関わるプラットフォーマーのそれぞれの思惑が絡み合う中、ソフトウェアの開発スタイルは大きく変わろうとしている。
NTTコムウェア
OSSを活用した開発環境、8割超の案件に適用
NTTグループは、国内でもOSSを積極的に活用している企業グループの一社だ。グループ向けのソフトウェア開発を手掛けることの多いNTTコムウェアでは、デジタルビジネスと相性が良いOSSが多数登場している点に早くから着目。NTTグループがデジタルビジネスを推進するに当たって課題となっていた短い開発サイクルや、新規リリースを頻繁に行う開発手法への対応に、OSSを意欲的に取り入れている。
短いサイクルで繰り返すアジャイル型の開発や、開発と運用を一体化する「DevOps(デブオプス)」のコンセプトを取り入れるのに、すでにあるOSSを活用したほうが「開発生産性が高まりやすい」(NTTコムウェアの半田公毅・技術SE部門システム開発技術センタ担当課長)と判断。CI/CDのJenkinsやコンテナ型仮想化の「Docker(ドッカー)」、ソースコード管理のGitLabなどを取り込むかたちで、ソフト開発環境「DevaaS(デバース)」を独自に構築した。
DevaaSは、2015年頃から全社的に展開をスタート。「DevaaS 2.0」へと機能アップした17年度には開発プロジェクト全体の85%に相当する6100件で活用している。一例を挙げれば、開発用の仮想サーバーを立ち上げて、デスクトップ端末に開発ツールをインストールする作業に1時間かかるところを、「わずか数分で標準化された最適なツールが揃う環境をつくれるようになった」(水谷啓・サービスプロバイダ部DevOpsサービスセンタ担当課長)。プロジェクト全体でみれば約1割の工数削減となっている。
ここで注意すべきは、工数が1割減ったからといって、売り上げを1割下げるような方向へ持っていかないことだ。稼いだ時間は、ユーザーのデジタルビジネスを成功へと導く工夫に充てて、「さらに大きな価値を生み出せるようにする」(三谷裕信・サービスプロバイダ部ビジネス推進担当(サービス企画)担当課長)。OSSの活用は、経費削減ではなく、NTTコムウェア自身、さらに進んではNTTグループ全体の売り上げや利益の拡大を目的とすべきと説く。目的と手段をあべこべにしてしまっては本末転倒になってしまう。
(左から)NTTコムウェアの山下克行担当課長、半田公毅担当課長、
水谷啓担当課長、三谷裕信担当課長
複数のOSSを組み合わせたDevaaSは新規性が高く、今年に入って特許申請を行うとともに、DevaaSで培ったOSSを活用した開発基盤のノウハウは、NTTグループが今年3月にOSSとして公開したJavaアプリケーション開発フレームワーク「Macchinetta(マキネッタ)」にも生かしている。
OSSを使うだけでなく、NTTグループ自ら開発したフレームワークをOSSとして公開することで「OSSコミュニティーの活性化にも積極的に貢献していく」(山下克行・技術SE部門OSSセンタ担当課長)としている。
[次のページ]NTTデータ 欧州ではRFPの条件でOSSの指名が増加