NTTデータ
欧州ではRFPの条件でOSSの指名が増加
NTTデータは、システム構築(SI)の類型を基幹業務システムを中心とする「伝統的なIT領域」と、新規ビジネスの創出に役立つITシステムの「デジタル領域」の大きく二つに分けて捉えている。直近では伝統的なITの領域が多くの部分を占めるが、20年までにはデジタル領域が全体の35%程度まで拡大。25年には60%を占め、「伝統ITとデジタルの比率が逆転する」(宮澤英之・方式技術部第二統括部統合開発クラウド担当課長)と予測している。
ただ、実際問題として、NTTデータの顧客企業にデジタル領域の投資をしてもらうには、伝統IT領域のコスト削減が避けて通れない。ユーザー企業のIT予算の7~8割は、既存のITシステムの維持費に充てられているといわれており、「伝統的なIT領域が大部分を占める既存ITのコスト構造を変えていかなければ、デジタル領域の投資もままならない」(金田和大・方式技術部第二統括部統合開発クラウド担当課長代理)とみている。“金食い虫”状態となっている伝統ITのコスト削減の切り札と位置付けられているのがOSSを駆使したクラウド移行である。
NTTデータは、大手SIerとして国内で最初にOSSのKubernetesの認定パートナーとなったが、それは「欧州のユーザー企業からの要望が強かった」(宮館康夫・生産技術部アジャイルプロフェッショナルセンタ課長)ことが背景にあったという。
クラウドオーケストレーション/コンテナ型仮想化の管理ツールのKubernetesは、アプリケーションを特定のオンプレミス(客先設置)やクラウドのプラットフォーム環境に縛りつけないOSSとして重宝されている。欧州の官公庁やユーザーの中には、アプリケーションをコンテナ化して、プラットフォーム間の行き来の自由度を高めることで、結果的にコストを下げようとする動きが活発化。RFP(提案依頼)の条件に「Kubernetesを使用するというものが増えてきた」(宮館課長)と言う。
(左から)NTTデータの宮澤英之課長、金田和大課長代理、宮館康夫課長
欧州でのビジネスを積極的に展開するNTTデータは、Kubernetesの認定パートナーになることで受注しやすくするとともに、国内のユーザー企業に向けて欧州でのKubernetes活用実績をもとに提案を強化。伝統的なIT領域の維持費削減と、削減した分をデジタル領域へ振り分けて、ユーザー企業の新規ビジネスの創出促進につなげていく。
アクセンチュア
PaaS系OSSのスキルが重要に
アクセンチュアは、クラウドベースで開発する新規案件の実に7~8割でOSSを活用している。前述のNTTデータと同様の背景からKubernetesの認定パートナーになるとともに、OSS活用では、JenkinsやKubernetes、Docker、GitLabといったPaaS系基盤を積極的に取り入れている点に特徴がある。
OSSは、LinuxやApacheなどのOS/サーバー系の基盤領域から本格的に活用が進み、近年ではアプリケーションの開発や実装、運用を支えるPaaS基盤まで活用範囲が広がっている。クラウドとOSSの組み合わせの拡大は、「技術者のスキル構成の見直しにまで及んでいる」と、同社の福垣内孝造・シニア・プリンシパル・クラウドソリューションアーキテクトは指摘する。
オンプレミスが主流だった時代は、サーバーやストレージ、ネットワークのそれぞれの専門家が重宝されていたが、クラウドベースでの開発比率が高まってくると「クラウド+PaaS系OSSのノウハウやスキルがより重要になってくる」(同)と分析している。
同時に、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureといったメガクラウドを使う場合は、PaaS領域までクラウドベンダーがカバーしてくれるので、「SIerはアプリケーションの開発や、顧客の新規ビジネス創出につながるアイデア出しなどの領域に、技術者をよりシフトさせる必要も出てくる」(野涯兼作・テクノロジーコンサルティング本部ITソリューションマネージャー)と話す。
(左から)アクセンチュアの福垣内孝造シニア・プリンシパル、野涯兼作マネージャー
ユーザー企業の本来的な目的は、自社のビジネスの売り上げや利益を伸ばしたり、新規事業を軌道に乗せること。SIerはそのためのアプリケーションやアイデアに人的リソースをより多く投入したほうが、顧客満足度は高まる。PaaS層以下のIT基盤やネットワークは「安定稼働していれば良い」のであり、「SIerにとっても価値創出の源泉ではなく、むしろ“非競争領域”となりつつある」と、福垣内シニア・プリンシパルは捉えている。
アバナード
インフラ技術者のスキル構成に変化
米アクセンチュアと米マイクロソフトの合弁会社で、デジタルトランスフォーメーション領域のSIを強みとするアバナードの星野友彦・最高技術革新責任者ディレクターは、「これまでとは違った角度でITインフラを見ていかなければならない」と指摘する。DockerやKubernetesなどによるアプリケーションのコンテナ化が進むと、オンプレミス用とクラウド用に別々のアプリを作る必要がなくなり、状況に応じてオンプレミスとクラウドとの間を行き来するようになる。
例えば、工場で稼働するIoT関連のアプリケーションを想定すると、国内工場ではオンプレミスで動かしても、海外では管理しやすいパブリッククラウドを使うケースが増えていくことが予想される。「ITインフラの形態に左右されないアプリケーションの開発手法を取り入れていかなければならないし、その開発ツールとして使い勝手がいいのがOSSで数多く作られている」(同)のが実情だと話す。
(右から)アバナードの星野友彦ディレクターとルリュ・シャルル氏
ITインフラ領域が、SIerにとって“非競争領域”になりつつあるといっても、「オンプレミスとクラウドを行き来できるようなアプリを作るためのITインフラの知識は、これまで以上に重要視される」と、クラウドを活用したSIプロジェクトの最前線で勤務するルリュ・シャルル氏は感じている。
従来のようなサーバーやストレージ、ネットワークなどに特化した専門的な技術者の必要性は薄れたとしても、「アプリケーションやサービスを起点として最適なITインフラを取捨選択していく“目利き”や“センス”は、これからも大切な要素として残る」(シャルル氏)と考えている。パブリッククラウドのインフラはSIerが管理できないため、万が一、障害が発生したり、仕様が変更されたりした時でも、SIerが事前に立てた対策によってユーザー企業の業務が止まらないよう担保していくことも、SIerの価値として残る。
有力ベンダーのしたたかなOSS戦略
米国だけじゃない、国内発のOSSに変化あり!
クラウド上での開発比率が増えるのに伴い、OSSの存在感は一段と高まっている。そのOSSのルーツをたどっていくと、自らの影響力やビジネスの拡大を狙う有力プラットフォーマーのしたたかな戦略がうかがえる。
例えば、グーグルに由来するOSSは、本稿でも何度も登場したクラウドオーケストレーションのKubernetesのほかにも、分散処理基盤の「Hadoop(ハドゥープ)」、機械学習の「TensorFlow(テンソルフロー)」、ツイッター由来はUIフレームワークの「Bootstrap(ブートストラップ)」、フェイスブック由来は「React(リアクト)」といった具合に、大手ベンダー由来のものが多くを占める。
米国発のOSSが多くを占める中、国内ベンダーも近年になって自ら開発したソフトをOSSとして公開するケースが相次いでいる。NTTグループは今年3月、Javaアプリケーション開発フレームワークのMacchinettaを公開。ウェブアプリ開発に最適なOSSを組み合わせるとともに、高い信頼性が要求される企業向けアプリケーション開発に必要なソフトウェア部品を同梱してある。
(左から)富士通の亀澤寛之シニアプロフェッショナルエンジニア、
佐藤博一マネージャー、野山孝太郎シニアマネージャー
NECグループは、自ら開発してきたソフトウェアのOSS化を進めている。昨年にはIoTサービスのオーケストレーションを目的とした「FogFlow(フォグフロー)」をOSSとして公開している。NECは、クラウド基盤の「OpenStack」の開発に長年にわたって寄与するなど、さまざまなOSSの活用、ならびに開発に寄与してきた実績がある。ただ、自ら開発したプロプライエタリ(私有)ソフトのOSS化は、海外大手に比べて小規模なものにとどまっていた。
NECソリューションイノベータの渡辺祥・プラットフォーム事業本部主席プロフェッショナルは、「OSSを使うだけでなく、OSSコミュニティーへの貢献、さらには開発したソフトをOSSとして公開するかどうかの意志決定プロセスの整備を推し進めていく」と、NEC発のプラットフォームを世界へ広めていく活動にも力を入れていく。
富士通は、個人情報を安全に保管するパーソナルデータ・ストア「Personium(ペルソニアム)」をOSSとして公開。同社の亀澤寛之・Linux開発統括部シニアプロフェッショナルエンジニアは、「ソフト開発の世界にもダイバーシティ(多様性)が大切」だとし、さまざまな企業や団体が参加して開発するスタイルを取り入れることで、より実態に即したソフトへと仕上がると話す。
NECソリューションイノベータの渡辺祥主席プロフェッショナル
例えば、Kubernetesのコミュニティーでは、高い信頼性が求められる企業ITに適用できるよう、「富士通としてさまざまな提案や企業IT向けの機能を補強する開発支援を行っている」(佐藤博一・デジタルウェア開発統括部第二開発部マネージャー)と言う。
シリコンバレーの技術革新の影響を色濃く受けるOSSコミュニティの中に、社会インフラを長く担ってきた富士通が入ることで多様性の幅が広がり、「先端技術と信頼性のバランスが改善する」(野山孝太郎・ソフトウェア開発技術統括部OSS技術センターシニアマネージャー)。
その逆も然りで、前述のPersoniumをOSS化することで、富士通とは違う技術や文化を持った技術者がコミュニティーに参加。多様性を背景とした一層の発展が期待できるとともに、パーソナルデータ・ストア市場における存在感の拡大にもつながる可能性が高まる。OSSの利用や開発に寄与するだけでなく、自社のソフトを戦略的にOSSとして公開していくことでビジネスの幅を広げる動きも活発化している。