既存システムの更改やデジタル化の推進などに対する需要から、ユーザー企業のIT投資が活発だ。2020年の東京五輪、その後の2025年の大阪万博の開催まではこの流れが続くと期待されている。こうした好調なIT業界動向の中、週刊BCN編集部では各記者の担当領域で2019年の市場動向を予測。実ビジネスへの活用が期待されるブロックチェーンや量子コンピューターに加え、ビジネス拡大の兆しが見えてきたIoTとSDN、新たなビジネスフェーズを迎えるハードウェアと業務アプリケーション、IT産業の中核を担うSIerを取り上げ、各分野の動きを展望する。
エマージングテクノロジー編
ブロックチェーンと量子コンピューターは土俵際か否か
2019年注目の“ラストワンマイル”
注目されつつも実用面で常に疑問符が付きがちなブロックチェーンと量子コンピューター。何に使えるのかという問いに対する答えには、なるほどとうなずける一方で、あえて使わなくても既存の方法で十分との意見も根強い。ビジネスシーンでの普及には、ラストワンマイルとも呼ぶべき何かが必要。ブームで終わるのか否か。今年は勝負の年となりそうだ。
まずはブロックチェーン。代表的な仮想通貨(暗号通貨)であるビットコインの低迷に引きずられ、中核技術のブロックチェーンにも悪いイメージが付きまといがちである。ビットコインが消滅したとしても、ブロックチェーンがなくなるわけではない。ただ、ビットコインとは別に、一時盛り上がったブロックチェーンへの期待がやや落ち着いた感は否定できない。
ブロックチェーンは、小売りのポイントシステムやオンラインゲームなどで活用が進んでいるものの、エンタープライズ分野で期待されたリレーショナルデータベース(RDB)の代替にはなっていない。この点がブロックチェーンの評価を下げている。
とはいえ、ブロックチェーンはRDBの代替を担うのが目的ではない。仮想通貨の成功にみるように、ネットワーク上で完結する世界で威力を発揮する。仮想通貨は、国家と通貨を切り離した。この組織と信頼を分離するテクノロジーという理解が定着すれば、ブロックチェーンは着実に広がっていくと考えられる。仮想通貨への過度な期待が落ち着いてきただけに、今年はブロックチェーンの本質を冷静に捉えたソリューションが登場すると期待したい。
次は、量子コンピューター。今年はすでに実用化されているアニーリングマシンが勝負の年になる。マシン環境は整ったものの、どのように使うのかという課題が残るからだ。
アニーリングマシンでは、主に組み合わせ最適化問題が処理の対象となる。その代表的な適用例は数多くあるが、実ビジネスでの本番運用に至ったという報告はない。実証実験の段階にとどまっているというのが現状である。
実運用に至らない要因として考えられるのは、アニーリングマシンで計算するまでの準備において、ノウハウが不足しているということ。アニーリングでは、ビジネスでの課題を数式化することが求められる。簡単な問題であればすぐに計算できるが、複雑な問題を数式に落とすのは至難のワザだ。既存のコンピューターにおけるプログラミングとは、必要とされるノウハウが全く異なる。少なくとも現時点では数学的なセンスが欠かせない。一方、ユーザー側としても、自らのビジネスにおいて、どのような組み合わせ最適化問題があるのかを把握するのは容易ではない。
また、組み合わせ最適化問題は、既存のコンピューターでも、ある程度の解を求める手法がある。高価な量子コンピューターが本当に必要なのかという疑問は、常にくすぶっている。
以上のことから、マシン環境が整ったにもかかわらず、使われないという状況は否定できない。実運用での活用が見えなければ、アニーリングマシンは厳しい状況に追い込まれる。今年が勝負の年。柔軟な発想を持ったインテグレーターの登場を期待したい。(畔上文昭)
IoTソリューション編
普及範囲の拡大と高度化が進む
既存事業の効率化から新規ビジネスの創出へ
2017年はIoT元年と呼ばれ、18年は普及期に入ると期待された。しかし、ふたを開けてみれば、その進み具合は足踏み状態が続いているようにみえる。
原因として挙げられるのが「費用対効果が見えづらい」という点だ。18年は本格的なIoT導入を目指し、多くの企業がPoC(概念検証)に取り組んだ。しかし、その先に進めなかった事例も少なくない。IoTを取り入れてみようと考え、とりあえずPoCを行うも、明確な費用対効果が見込めず、本格導入に至らないのだ。そういった失敗事例の多くは、ユーザーの中で目的が明確になっていない。IoTはあくまでも手段であって、目的ではない。具体的な目的が定まっていなければ、IoTの導入効果を見極めることは難しい。
18年の後半には、安くて手軽なIoTソリューションが登場し始めた。これらのソリューションの特徴は、月額数千円程度でスモールスタートでき、コーディングなしでデータ加工や連携を実施していることだ。会議室管理のような初歩的なユースケースを想定しており、ターゲット層はかなり広い。ここでポイントになるのは、小規模ながらも実際にIoTの導入・運用を体験できることである。新たなテクノロジーを前に具体的なアイデアが浮かんでいないユーザーに、ミニマムな範囲でもIoTに触れてもらうことでIoTとは何かを肌感覚で理解してもらおうとしているのだ。将来的な大規模導入に向けた下地を作ることにもつながる。こういったユーザーの経験値が増えれば、PoCから導入に至るケースも増えていくだろう。
一方で、19年以降はIoTの高度化が急速に進んでいくと考えられる。その大きな要因の一つが5G(第5世代移動通信システム)の登場だ。正式サービスの開始は20年だが、各キャリアは19年にプレサービスを始めるとアナウンスしている。5Gの特徴としてよく語られるのが高速という点だが、それだけではない。多接続、低遅延、大容量とその利点は広範囲に及ぶ。そのため、大手キャリアは5Gを単なる次世代モバイルの通信規格とは位置づけておらず、BtoBtoXにおける新たなビジネスモデル創出のきっかけになると考えている。すでに各キャリアは5Gにかかわるパートナープログラムを推し進めており、商用サービスを前提とした実証実験が始まっている。19年はこれらの動きがさらに加速していくとみられ、5Gを活用した革新的なIoTサービスが生まれる可能性は高い。
18年は重厚長大なシステムから小規模なシステムまで、IoTの裾野を広げる動きが顕著だった。5Gが迫る19年には、既存ビジネスの効率化だけでなく、新規ビジネスの創出にIoTを使うプレーヤーが増えていくだろう。(銭 君毅)
ハードウェア編
モノのサービス化は第2フェーズに
企業のDXを加速させる
サーバー、ストレージ、プリンター、PC。18年はハードウェアの月額サービスが拡充し、モノのサービス化が急速に進んだ年だった。モノのサービス化は初期導入コストの削減、スモールスタートやリソースの増減がしやすいなど、コストの最適化がしやすく、中小企業にも広まった。所有から利用へ、ビジネスモデルは着実に変化している。
19年は、モノのサービス化の第2フェーズとして、モノのサービス化とサブスクリプション型サービスの結びつきがより強固になるだろう。
18年2月にオンプレミスの従量課金モデル「HPE GreenLake」を国内でリリースした日本ヒューレット・パッカード(HPE)は、ビッグデータソリューション、バックアップソフトから始まり、SAP HANA、 EDB Postgresと、組み合わせるソフトウェア、ソリューションを順次拡充している。
コニカミノルタジャパンは、複合機と従量課金サービスを組み合わせた「Workplace Hub」を、19年4月から国内で提供する。ストア機能(マーケットプレイス)を持たせることで、必要なアプリケーションをダウンロードして利用できる。ストアが提供するアプリケーションは自社開発のものだけではなく、サードパーティー製も含まれる。
ハードウェアの従量課金とサブスクリプション型サービスの組み合わせを提供するのはベンダーだけとは限らない。レンタル会社の横河レンタ・リースは、Windows 10搭載PCのレンタルサービスとWindows 10プロビジョニングパッケージ運用サービス「Simplit プロビジョニング」を組み合わせて提供する。こうした販売店、SIerがハードウェアとソフトウェアを組み合わせ、付加価値の高いソリューションとして提供する事例も今後増加するだろう。
ハードウェアとソフトウェアを組み合わせて月額課金プランとして提供することで、企業にとっては必要なリソース、機能などの導入までの時間を短縮することができ、デジタルトランスフォーメーションがより加速するだろう。(山下彰子)
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