Special Feature
変革は現場で起きている SIerが進めるスマートファクトリー
2019/03/13 09:00
週刊BCN 2019年03月04日vol.1766掲載
FA-IT融合の新しいキーワード
汎用プラットフォームロボットSIerの主な領域というと、FA機器からデータを吸い上げ、ITの領域で分析・解析できる形に整えるドライバーをロボットごとに作り上げることだった。一から作るため、導入企業にとっては、導入までに時間がかかる、コストが割高になるといった課題があり、ロボットSIerにとっても開発期間が長引けば人件費がかさみ、うまみの少ないビジネスになってしまう。納品後のメンテナンスも悩みの種となった。FA機器は寿命の長いハードウェアなので、稼働中にロボットSIerの担当者が退職することがあり、スクラッチで組み上げたシステムを後任がどうメンテナンスをするか。あるいはロボットSIerが中小規模企業の場合は、メンテナンス企業自体なくなるケースもあった。
こうした課題を解消する手立てとしてEdgecrossコンソーシアムが提唱するのが汎用的なプラットフォーム「Edgecross(エッジクロス)」だ。
Edgecrossコンソーシアムは、17年11月にアドバンテック、オムロン、NEC、日本IBM、日本オラクル、三菱電機の6社が幹事会社となって設立。その後、幹事会社として日立製作所を加えた。会員企業で、Edgecrossの仕様をまとめ、18年5月に基本ソフトとデータ連携を実現するデータコレクター、アプリの販売を開始した。現在は会員企業を通して普及に努めている。
Edgecrossを現場近くのエッジコンピューターにインストールし、FA機器から吸い上げたデータをリアルタイムで分析する。プラグイン機能やセキュリティー機能などを備える。何より重要なのがFA機器やEdgecrossの上のレイヤーであるITシステムと連携するインターフェースを備えていること。つまり、Edgecrossは汎用ドライバーとして活用することができる。
FA機器との連携では、CC-Link IE、EtherNet/IPなど産業用ネットワークプロトコルの約9割に対応。クラウドと連携するゲートウェイ通信機能やITシステムと連携するインターフェースを備え、エッジコンピューターで処理したデータをクラウドやITシステムに送る、FA機器とITシステム、クラウドの橋渡しの役割を担う。
徳永雅樹
事務局長
リリースから10カ月ほどだが、徳永雅樹・事務局長は「Edgecrossとつながる上位のアプリケーションは続々と生まれている。稼働監視や予防保全、データ分析などを会員のITベンダーがリリースしている」と話す。会員企業も増加しており、2月下旬時点では工作機械メーカー、産業用PCメーカー、機器メーカー、ソフトウェアメーカー、システムインテグレーター、エンドユーザー、商社など幅広く約240社に上る。今後は国内企業だけではなく、グローバル企業の会員獲得、Edgecrossの拡販を視野に入れている。
徳永事務局長は、「会員企業同士のネットワークが広がり、ビジネスの新たな気づきや発見もある。アプリを配信できるマーケットプレイスも用意しているので、中小のITベンダーにとっても新しいチャネルの開拓にもつながる。SIerが製造の市場に入り込むきっかけになる」と力を込めて語る。
エコシステム
FAの領域もITの領域も、専門的な知識が必要になるスマートファクトリーを1社で完結させることは難しく、パートナーアライアンスは必要不可欠だ。パートナー戦略として、日立システムズは2月4日、FAプロダクツと工場のスマート化の分野で協業したと発表した。
協働ロボットやIoTなどを活用したサービスを提供することが目的で、ロボットの導入を検討している企業に対して提案していく。またロボットの導入によって業務負荷の低減やコスト削減、品質向上、技術伝承など製造業の生産現場における各種の課題解決を目指す。
両社は役割を分担して、ロボットやFA機器の購入と導入、運用サポートを日立システムズが担当する。一部導入設計、製造の支援は両社で行い、稼働監視や故障予知パッケージなどはFAプロダクツが提供する。なお、監視環境の構築やその他ツールを利用した解析を含め、工場全体の最適化は日立システムズが請け負う。また、日立システムズは、人と同じ空間で作業する双腕ロボット「duAro」を販売する川崎重工業などのロボット製造業者とも連携する。
製造業への導入が増加
機械学習プラットフォーム「DataRobot」
「これまで、DataRobotは金融業界の案件が中心だったが、17年あたりから製造業の案件が増加。今では製造業が中心になっている」。そう語るのは新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)の狩野慎一郎・ITインフラソリューション事業本部営業本部 ソリューションマーケティング部データマネジメント営業推進グループ エキスパートだ。
狩野慎一郎
エキスパート
DataRobotは、自動的にさまざまな機械学習の手法を取捨選択し、最適な予測モデルを構築することができる械学習プラットフォームだ。金融、通信、保険、流通などさまざまな分野で導入・活用できる。NSSOLは国内市場で、DataRobotを最も販売しているSIerだ。
同社の販売力が強いのは、コンサルティングから導入支援、保守サポートまで一気通貫して提供していることに加え、データサイエンティストチームのノウハウがあるからだ。このデータサイエンティストチームは、親会社の製造業のデータをもとに、20年間研究し続けてきたチームで、データ分析の権威ある世界大会「KDD Cup」では毎回上位に食い込む実力をもつ。このノウハウを生かし、顧客に寄り添って分析プロジェクトを進めることができるのが同社の強みだ。
今後はエコシステムを強化していく。グループ全体で知見、ノウハウを持っている製造業以外の業種、業界で、コンサルティングまで提供できる企業とのパートナーシップを検討している。
現場に変革を起こす
ソリューションベンチャー
現場の知見を持つSIerITやテクノロジーを活用し、現場に革命を起こそうとしているベンチャー企業がある。15年4月設立のGROUNDで、物流ソリューションに特化している。
創業者である宮田啓友社長は、オフィス用品通販サイトのアスクルで国内物流センター担当。楽天物流で社長、楽天で執行役員物流事業長を務めた経験がある物流のプロだ。物流の知見とロボットやITなどのテクノロジーを組み合わせて新しい物流システムの構築に取り組む。
スタートは、ロボットの販売代理店だった。16年にインドの物流ロボットベンチャー企業のグレイオレンジと販売契約を結び、自動搬送ロボット「バトラー」を国内に持ち込んだ。バトラーは出荷する商品を格納したラックごと持ち上げ、スタッフのもとに運ぶことができ、スタッフはバトラーが運んできた商品をピッキングし、バーコードリーダーをかざした上で同梱発送用のパレットに入れる。17年1月にはニトリホールディングスに採用が決まり、同年12月からニトリの通販発送センターで本格稼働を開始した。
バトラーの国内販売を通じてロボットの知見を蓄積した同社は、それをもとにロボットの基幹システムと在庫管理システムを結ぶコンバーターや、物流AI「DyAS(ディアス)」を開発。DyASは、商品の入荷情報や在庫量、施設で働くスタッフのスケジュールなどのあらゆる情報を取得してAIで分析し、在庫量の調整や効率の良いスタッフの配置などを提示することができる。このような経緯でGROUNDは物流に特化したロボットインテグレーターとして国内展開を加速させた。
実践に勝る経験はなし
経験値、ノウハウを蓄積する取り組みも独特だ。18年8月にR&Dセンター「playGROUND」を千葉県市川市に設立した。ここでは机上では検証できない問題や課題を顕在化し、ロボットソリューションの性能を最大限に引き出す開発・検証を行う。ロボットの実証実験と、オペレーションの研究・開発を同じ場所で行うことで、早期実用化や最適化を図っている。
現在、ここで実証実験のフェーズとして稼働しているのが自律型協働ロボット「Autonomous Mobile Robot(AMR)」だ。倉庫や工場などで、発送や出荷のために製品などを集める業務をサポートする。具体的には、物流倉庫では倉庫管理システムや商品発送管理システムとAMRを連携させる。オーダーが入ると注文された商品がある棚に自動的に移動し止まる。スタッフがAMRに搭載したディスプレーで商品や個数を確認しながらピックアップする。人と一緒にピックアップ作業を行うロボットは他社にもある。AMRとの違いはピッキング方法だ。
他社のロボットは「やき畑」と呼ばれるピッキング方式を採用している。ロボットと人が一緒に動き、ピッキング業務をサポートする。磯部宗克・セールス1部(AMR)部長は「人が歩く歩数はそれほど変わらず、生産性も飛躍的に伸びない。ロボットの単価が加わるので、投資対効果が合わない」と指摘する。
対してAMRは「ゾーン方式」を採用した。倉庫内をエリアで分け、エリアごとに人を配置。担当エリア内に入ってきたロボットに対してアプローチをする。「ゾーン方式は人の移動距離、歩数が減少し、省人化を図ることができる。この方法は海外で多く採用されている。これを日本に合うようローカライズしていく」と、磯部部長は説明する。
playGROUNDでは、棚や商品を置き、倉庫に近い環境に整えた上で、やき畑方式からゾーン方式に切り替えることでどれだけ効率化が図れるか、最適な配置人数などについて検証を行っている。現在は30坪ほどのスペースで行っており、今後一時的にエリアを拡大する計画だ。販売は今夏の予定で、初年度の導入目標は10社。また、来年に向けて中堅・中小企業向けの提案を強化するため、オペックスモデルの追加を検討しているという。
何でもつかむ魔法のハンド
まもなくplayGROUNDで実証のフェーズに入るのが米国ベンチャー企業のソフトロボティクス社のロボットハンド「スーパーピック」だ。18年12月に販売代理店契約を結んだ。
スーパーピックは、最新ビジョン技術やアルゴリズム、特許を取得しているハンド部分の素材などのテクノロジーを組み合わせ、非定型な個体を人間の手のように高い精度とスピードでピッキングすることができる。米国で100社以上に試験採用されており、さまざまな形状、素材、重さの物体を掴むデータを取得。適切に掴むことができる。ハンド部分にはシリコンやゴムのような柔らかい独自素材を採用し、クッキーのように割れやすいものでも掴むことができる。
GROUNDは、小売り、衣類、食品などのピックアップ用途に展開する予定で、北野峰陽・セールス3部(PKR)部長は「将来はバトラーやAMRと組み合わせ、自動化、省人化ソリューションとして提案する。3月末からplayGROUNDでの検証を開始し、その後、販売に入りたい」と話し、初年度で10社の導入を目指す。
製造や物流の現場において、IoTやAIといったテクノロジーを活用して現場を可視化、自動化し、効率性、生産性を高める動きが加速している。さらに、データを分析・活用することで新たな付加価値を生み出す「スマートファクトリー化」も活発化している。ファクトリーオートメーション(FA)とITの分野は、テクノロジーや人材の問題で分断されがちだったが、今、この二つの領域に橋を架けようとSIerや業界団体が取り組んでいる。(取材・文/山下彰子)
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