国内総生産(GDP)が世界第2位となった中国で、人件費の上昇が止まらない。コスト増への対応は、中国に進出する日系企業だけでなく、中国企業にとっても大きな課題だ。急速な経済成長の裏側で、各企業は業務の効率化に取り組み始めている。じわりと広がっているのは、RPAの活用だ。(取材・文/齋藤秀平)
「従業員を奪われる」
上海市の観光名所・南京路近くのオフィス。大勢の従業員が、PCのモニターを見ながら仕事を進めている。中国4大会計事務所の一つ「立信会計士事務所(BDO)」の本社だ。
BDOによると、現在、中国の上場企業の4分の1を顧客に抱え、各顧客の税務処理などを請け負っている。中国国内には33の拠点があり、上海では約2000人が働いているという。
立信会計士事務所(BDO)
徐呈
ITシニアマネジャー
大勢の従業員を抱えるBDOは現在、人件費の問題に直面している。徐呈ITシニアマネジャーは「われわれにとって、最大のコストは人件費だ。これからも上がることを想定すると、もっと収益を上げていかなければ、上昇のスピードに対応できなくなる可能性がある。場合によっては、ライバルの会計士事務所に優秀な従業員を奪われてしまうかもしれない」と危惧する。
増える悩みの種
中国国家統計局によると、中国国内の平均月額賃金は2013年以降、毎年10%前後の割合で伸びている。上海も同様で、上海市政府によると、13年に約5000元(約8万円)だった月額平均賃金は、17年には7000元(約11万円)を超えた。
人件費の上昇は、多くの中国企業にとって悩みの種だ。中国国内では、企業の倒産件数に関する正確なデータは公開されていない。しかし、国内経済には一定の不安感があり、「19年は失業と企業の倒産が増えるのでは」と懸念する声が上がっている。
3月の全国人民代表大会(日本の国会に相当)で李克強首相は、「経済の動きが合理的な範囲内に保たれた」と成果を示しつつ、「下押し圧力が高まり、消費の伸びが鈍化し、有効投資が伸び悩んでいる」と危機感を示した。
中国政府が対策の一つとして打ち出したのが内需の掘り起こしで、李首相は「さまざまな措置を講じて都市・農村住民の所得増を促し、消費能力を高める」と述べた。今後も人件費の上昇は続く見通しで、企業にとっては悩みの種が増えそうだ。
人間とRPAの協働を目指す
コスト対策として、BDOが18年から取り組み始めたのが、RPAの活用だ。適用したのは税務当局に提出する顧客約1万6000社分の税務表作成業務で、UiPathが開発するRPAプラットフォームのアジア地域のリセラーになっている上海凱迪迪愛通信技術(KDDI上海)を通じてソリューションを導入した。
導入前は一つの税務表を作成するのに約1時間半かかっていたが、導入後は3、4分に短縮できたといい、徐ITシニアマネジャーは「たくさんの時間がかかる簡単でつまらない仕事をRPAに任せることで、社員をより価値のある仕事に当たらせることができるようになった」と効果を説明する。
今後は「国内の別の拠点に導入を広げていくほか、RPAを活用した業務改善プラットフォームの開発にも着手する」としつつ、「RPAが仕事を自動化してくれても、データ分析などで人間の力は必ず必要。RPAの適用範囲を広げながら、人間とRPAが一緒に働ける環境をしっかりとつくっていきたい」と徐ITシニアマネージャーは話す。
導入でコスト削減に期待
中国国内では、BDOのように多くの企業がコスト削減に取り組んでいる。中国での企業を取り巻く環境について、KDDI上海SL企画部の守岡純治部長は「中国は日本ほど人件費は高くないが、毎年上がり続けている。各企業にとっては、利益を伸ばす必要性がますます高くなっている」と説明する。
KDDI上海
守岡純治
部長
KDDI上海は現在、製造業を中心に金融や保険の領域でRPAソリューションを提供している。中国市場の状況について守岡部長は「最近、RPAに対する引き合いは増えている」と説明し、「いったん導入してコスト削減効果が出れば、ほかの部門や拠点にも展開される。そういった動きを見たほかの会社からも導入に関する声がかかる」と語る。
守岡部長によると、導入先の割合は中国企業が50%で、日系企業が40%、欧米企業が10%となっている。18年度は100社を目標とし、それに近い数字の導入が決まっているという。
特に中国企業の場合、「効果が見えるものはすぐにやる傾向がある」と守岡部長。さらに「提案してから導入に至るまでのスピードが速いのが中国企業の特徴だ」と説明する。
また、守岡部長は「製造業の場合、これまで人間の手作業に頼っていた工場では、コスト削減に加えてミスを食い止めることを目的にRPAを導入するケースが多い」とし、「中国人は向上心が高く、給与アップが期待できない単純業務を好んでやる人は多くない。企業としては人材採用が難しい部分で、こういったところでもRPAのニーズが高まっている」と話す。
KDDI上海は18年12月、日系企業として中国大陸初のUiPathゴールドパートナーに認定された。守岡部長は「中国は市場が大きく、他の国の市場に比べて導入が伸びていく可能性が高い。中国でRPAの価値をもっと広めていきたい」と意気込む。
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