Special Feature
「Beyond ERP」の世界 本格的なクラウド化が導くERPの進化
2019/06/05 09:00
週刊BCN 2019年05月27日vol.1777掲載
テラスカイグループのBeeX
SAPのAWS移行需要に対応すべく人員増
テラスカイグループのBeeX(ビーエックス、広木太社長)は、SAPをAWSへ移行するビジネスを伸ばしている。予想以上に好調だったことから、昨年度(19年2月期)のテラスカイグループの売上高全体に占めるAWS関連の売上構成比が8ポイント増えて約34%になった。テラスカイ本体が主力としているSalesforce関連のビジネスの伸びを上回る勢いだ。
背景には、従来のSAPの基幹業務システム製品のサポート期限となる25年が迫っており、S/4HANAへの乗り換えのタイミングでSAPの基盤にAWSを選ぶ傾向が加速していることがある。広木社長は、「IT基盤をクラウド化し、デジタルビジネスと親和性の高いS/4HANAに乗り換えることで、ユーザー企業自身のビジネスをより柔軟に、より迅速に変革できるようになることは間違いない」と話す。
BeeXは、国内でSAP ERPをクラウド上で稼働させているユーザーは1割にも満たないとみているが、既存のSAPユーザーがS/4HANAへの乗り換えを見越して、ひとまずインフラをクラウドへ移行してプラットフォームを“HANA化”するニーズは非常に大きく、「技術者が圧倒的に足りていない状況」(田代裕樹副社長)だと話す。
技術者不足は大手SIerも同様で、16年3月に設立されたばかりのBeeXに、NTTデータやTISといった大手SIerが相次いで出資。BeeXも今年3月、テラスカイ本体に所属していた約40人のAWS技術者をBeeXに移管し、総勢およそ80人の態勢へと倍増している。NTTデータやTISが欲しているSAPとAWSの両方に詳しい技術者を相互に融通することで、ユーザーの旺盛な需要に応えている状況だ。加えて、SAPをAWSに移行するコンサルティングや作業工程を体系化し、「数カ月で迅速に移行できる標準的なガイドライン」の一層の整備も進めていくことで効率化を図る。
テラスカイ本体もSAP販社の老舗である東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)やAWSに特化したクラウドインテグレーターのサーバーワークスとも資本業務提携の関係にあり、グループを挙げてSAP/AWSに強いビジネスパートナーとの協業を推進している。SAPを採用するユーザーは海外進出に積極的な製造業が多くを占めることもあり、日系製造業の生産拠点が多いASEANはTISやB-EN-G、欧米を含むグローバル全体ではNTTデータの海外拠点と連携することも増えているという。
一方、直近ではSAPのクラウド基盤に「Microsoft Azure」を選ぶユーザーも増え始めた。BeeXの受注案件のうち、AWSとAzureの割合はおよそ9対1だが、今後Azureの比率が増えることもあり得るといい、そうした需要にも積極的に対応する方針だ。(安藤章司)
Interview
日本オラクル
ピーター・フライシュマン専務
アプリケーション部門トップが語るDX時代のERP
ERPをはじめとする業務アプリケーション領域でSAPのライバルとして鎬を削るオラクルは、よりドラスティックにSaaS化への舵を切っている印象だ。一方で ERPがDXのコアとして機能するためには技術のイノベーションを随時活用できるようなアーキテクチャーであるべきという課題意識は共通だ。今年3月に日本オラクルの専務執行役員に就き、クラウドアプリケーション事業を統括することになったピーター・フライシュマン氏に、市場観や同社の戦略を聞いた。
――簡単に経歴を。
フライシュマン オラクルに勤務して13年になるが、直近ではベネルクス三国でアプリケーションビジネスに携わっていた。
――日本市場の分析は。
フライシュマン 人口減少や、中国をはじめとした近隣諸国が力を付けていることなどから、ビジネス環境として日本は今、かなりチャレンジングな状況にある。AI、IoT、ブロックチェーンといった新しい技術、さらにはインダストリー4.0といった新しいコンセプトに基づいたソリューションを活用することが課題に対する有効な解決策になる。オラクルはそのための大規模なプロダクトセットを持っており、日本企業の成長に貢献できる。
――オラクルはERPなどの基幹系システムを含む企業システム全体のクラウド化を強く推進している印象だ。
フライシュマン オンプレミスの世界はスピードが遅い。アプリケーションを開発したとして、最初の1年はバグ潰しに費やし、2年かけてコードフリーズを待ち、それからインプリしてようやく展開するといった具合で、投資から回収まで非常に時間がかかる。場合によっては開発に着手してから8年くらい経った古いアプリケーションを使わなければならない状況になる。しかし、もはや8年前のアプリケーションがユーザーに役立つ時代ではない。オンプレのスピード感では、ITがイノベーションのイネーブラーではなくブロッカーになってしまうリスクがあるのだ。
――その課題をどう解決すべきか。
フライシュマン SaaSやクラウドがまさにその解だ。四半期ごとに自動でアップデートされ、その度にクラウドを通じてAIなどの新しい機能を使えるようになり、ビジネスそのものをアップデートしてくれる。
――ERPをはじめとする業務アプリケーションはSaaSに集約されていくのか。
フライシュマン そうなる。他に選択肢はない。ユーザー企業が個別に開発・運用する業務アプリケーションで対応するには今の市場環境は変化のスピードが速すぎる。ユーザー側の負荷を最小限にして常に最新のテクノロジーを業務やビジネスに沿って活用するにはSaaSが最も有効な形態であり、インダストリー4.0や日本政府が進める「Society 5.0」、そしてDXへの最短距離だ。
――日本市場での戦略は。
フライシュマン 大企業はビッグバンで一気に全てをSaaS化するのは難しい。オラクルはユーザーの全ての業務プロセス、クラウドの全ての領域をカバーする技術を提供できる唯一のベンダーだと自負している。多様なユーザーのクラウド・ジャーニーを段階的かつ効果的に支援できる。
大事なことは、クラウドを通じて提供できる新しい技術が、具体的にどんなベネフィットをユーザーにもたらすのか、既存ユーザーにも見込み客にもはっきりと理解してもらうこと。オラクル自身がそれを彼らに明確に示さないといけないと思っている。
日本のDX対応は米欧の数年遅れ
パートナーの役割が変わることも必要
――日本のオラクルユーザーとも意見交換したと思うが感想は。
フライシュマン フレッシュな感覚で評価すると、日本市場のDXへの取り組みは米国、欧州の数年遅れだと思う。ユーザーのエグゼクティブクラスの方と話してみて、自社の業務ノウハウを注入してカスタマイズしたシステムに極端にこだわっている人が多い。しかし、もはやそれが実質的には競争力に貢献していないケースがほとんどで、新しいテクノロジーを十分に使えず、保守費用ばかりかさむというリスクの方が勝ってしまっている。
――そうした顧客のマインドチェンジは誰が主導するのか。オラクルか、それともSIパートナーなのか。
フライシュマン 希望としては顧客の業務を良く知るパートナーにリードしてほしいが、オラクル自身がそこに深く入り込んで市場を変えていかないといけないのは間違いない。ERPなどの既存のビジネスモデルを考えると、パートナーが手掛けるカスタマイズの工数はどんどん減っていくので、パートナーの役割も変わる必要がある。
テクノロジーの活用によるユーザーのDXやビジネスイノベーションを、まさにビジネスパートナーとして支援するという流れをつくることができるパートナーは、むしろこれまで以上に大きな成功を収められるだろう。
――市場のトップベンダーで競合のSAPについてはどうみているか。
フライシュマン 彼らはSaaSというより、HANAというプラットフォームによりフォーカスしているのではないか。S/4HANAへの移行は、非常に多大な労力とコストをかけて部分的なSaaS化を実現するだけだと考えている。SIerにとってはかなりの収入になるだろうが、このモデルにユーザーがいつまでついていけるだろうか。われわれはユーザーのメリットを第一に考えている。ユーザーにフォーカスすることが市場の変革につながり、結果的にパートナーのビジネス変革も導くことになる。
Topic
Oracle NetSuite
存在感増すクラウドERPのパイオニア
国内製造ベンチャーで導入
16年に米オラクル傘下入りしたネットスイート。ERPのクラウドシフトが市場で進む中で、SaaS型ERPのパイオニアとして存在感を増している。4月に米ラスベガスで開催した年次イベント「SuiteWorld 2019」で、日本企業のユーザー事例として国内向けに紹介されたのが、骨伝導デバイスメーカーのBoCo(ボコ)だ。同社は独自に開発した小型・高性能な振動素子をコア技術として、骨伝導イヤホンや携帯型スピーカーを東京・大田区の工場で製造している。
NetSuiteはあらゆる業種に対応するクラウドERPをうたっているが、特に相性が良いのはIT・サービス・流通などの企業だ。BoCoの謝端明社長は「生産計画、資材所要量計画といった機能は、まだ少し弱い」と話し、現状のNetSuiteは、日本の製造業のニーズを完全に満たすソリューションにはなっていないと指摘する。
それでも、「NetSuiteの導入は、最初に提案を受けたときに即決した」(謝社長)という。同社は創業3年半、社員数30人ほどのベンチャー企業だが、昨年骨伝導イヤホンがヒットしたことから、今年は中国・韓国に現地販社を設立し、台湾・香港でも代理店経由の販売を開始するなど、海外展開を本格化させる。新製品の投入ペースも加速する予定で、現在10以上の製品開発が同時に進行している。
謝社長は「これ以上事業を拡大する前に経営の可視化をしておかないと、会社が見えなくなってしまうが、私たちのような小さな会社に通常のERPを導入する体力はない。クラウドでここまで本格的なERPがあると知り、すぐに導入しようということになった」と話し、事業が成長局面にある今のタイミングで、経営判断を正確かつ迅速に行うための基盤を求めた結果、必然的にクラウドERPに行き着いたと説明する。
前述の通り、機能面ではまだもの足りない部分もあるが「ユーザーの力で成長していくのがクラウドサービスだと理解している」(謝社長)といい、今後のアップデートで自然に解決すると見込む。むしろ「世界の成長企業のベストプラクティスを自社でも取り入れられることにメリットを感じている」という。NetSuiteに業務を合わせることを前提に導入したため、細かな“フィット&ギャップ分析”や追加開発を行うことはなく、導入プロジェクトは3カ月間で完了。Excelベースの経営管理から脱却することができたほか、今後は複数通貨・言語対応というメリットを生かし、国をまたいだ多拠点の経営を統合的に行っていく考え。また、経営の可視化によって資金調達も有利になると期待しているという。(日高 彰)
メガクラウドがエンタープライズITへのフォーカスを強めるのと軌を一にして、ERPをはじめとする業務アプリケーション市場もクラウドがメインストリームになりつつある。ただし、ERPのグローバル大手ベンダー各社は、既存製品の単なるクラウドシフトではなく、デジタルトランスフォーメーション(DX)のコアとしての機能を担うべく再構築したクラウドERPの価値を本格的に市場にアピールし、「ERPの向こう側」に新たな市場を見据えている。これに伴い、ERPビジネスにおけるパートナーエコシステムの在りようにも大きな変化が訪れようとしている。(取材・文/本多和幸)
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